Q&A(坂口孝則/牧野直哉)

今回はお二人の方から、印刷物の見積り積算方法についてご質問をいただきました。ご質問をそのまま貼り付けると問題がありますので、お二人の内容をかいつまんでご紹介します。

Q1:印刷物の見積り積算方法を具体的に教えてほしい。ほとんどは相見積もりで競合させて価格を下げている。データベースも構築しているが、道半ば。また、料金表をサプライヤーにお願いしているが、精度が荒い。参考にしているのは日経新聞等。結局、印刷物価格は競合で決まってしまうという感を強く持っており、それ以外のどのようなコスト削減手法があるのかどうか不明。 

【坂口の答え】

できるだけ、一般論としてお答えします。「印刷料金」という雑誌(本)をご参考になっているのだと思います。この本は、実際の調達価格と3~4割は乖離しているといわれていますから、たしかに実務的にそのまま使用するのは難しいかもしれません。

実務としては、
・レイアウト費
・DTP作成費
・校正紙等への出力費
・刷版費
・印刷費
・(加工費)
・用紙費
・管理費・利益
を加算して求めることになっています。

ここで、印刷料金の難しさがあります。というのも、印刷コストは、さまざまなものがからみあい、原価計算上では固定費のかたまり(用紙費等は除く)になっているからです。固定費のかたまりであるがゆえに、実務上は、「競合したほうがもっとも安くなる」というリアルに直面します。

そこで、日経新聞に載っている市場価格等を参考にする取り組みがなされてきましたが、あまり上手くいっていません。というのも、市場価格がそもそも乖離しいますからね。

このような背景なので、まわりくどい言い方になりますけれど具体的なアプローチは次のとおりです。

1.市況の推移データは、あくまでも「変化率」でとらえる。絶対値を参考にするのではなく、変化率・推移率を使い、これまでの価格との変化を見積りに反映させる
2.仕様書をかっちり作成し、見積り詳細にお答えいただけることを取引条件とする。オープンポリシーとも呼び、コスト構造・原価構造を明らかにしてもらうことを予め発注の前提とする
3.競合で下がったときも、「出精値引き」のような形にするのではなく、具体的にどこを下げたのかを(あとづけの理由であっても)明確化してもらう

特に3.はその後につなげるためです。なんとなく「値引きしました」では、今後につなげることができません。「この項目を下げました」という明確な証拠こそが、次の発注時の交渉にも利用できます。

ちなみに、印刷物の莫大なるサプライヤーデータベース(各サプライヤーが、各項目でいくらくらいのコストなのかを詳細に蓄積したデータベース)を持っている人がいました。その人に、どうやってこんなデータベースを構築できたかを訊いてみたのですが、「サプライヤーに一つひとつ訊いてまわった」とのことでした。

やはりコスト削減に王道はなく、このような地道な情報収集をしているものですね。

【牧野答え】

私は印刷物に関しては、ほとんど購入した経験を持っておりません。なので、これから印刷物の購入担当となるバイヤーとしていったいどういうアクションをとるのか、についてお話しします。

さて、実際に私は印刷物に関して、ほぼ発注した経験はゼロです。なので、最初に情報収集を行ないます。インターネットのGoogleのホームページから、

「印刷物 コスト構造」

というキーワードで、検索をします。すると、このような結果が表示されます。一つ一つページを参照してゆきます。すると検索結果第二位のページに「プリントマネジメント」という言葉が登場します。そして

「プリントマネジメントとは」

と検索します。そしてこのように結果が表示されます。

「プリントマネジメントとは」の検索結果の最上位に表示されたページを参照すると、次のような言葉を目にします。

・1990年頃英国で発祥

・印刷物発注の30%が、プリントマネジメント会社経由の発注

そして、印刷物発注についてのマネジメントであり、コンサルティング会社が日本にも存在することがわかります。

ここで、プリントマネジメントを行なっている会社に連絡をすることで、何らかの情報を得ることが可能になるはずです。そして、プリントマネジメント会社を活用することで、自社にメリットが発生するようであれば、実際に発注することも有りだと思います。もし、プリントマネジメント会社の活用でメリットが見いだされたとします。ある意味喜ぶべき事ですが、同じくらい落ち込むでしょう。なぜなら、自社、印刷会社の他に一社当事者を増やして、コストメリットを見いだせた訳です。新しい当事者にも当然コストは発生しています。故に、これまでの発注していた価格が、ずいぶんと高いモノだったんだ、という反省です。

ちょっと話が横道にそれました。情報収集を続けます。今度は、印刷物という業界の動向に関して調べてゆきます。こんどは、

「印刷業界」

として検索します。検索結果はこうです。結構いろいろなデータへとアクセスすることができます。検索結果4位のページには、日本印刷技術協会からの様々なデータが参照できるようになっています。昨今、iPhoneやiPadの登場によって、電子書籍が一般化してきています。私の場合は、まだまだ紙の本が多いですが、それでも既に数冊の電子書籍をiPhoneやiPadを活用して読んでいます。そんな流れを表すかのように、印刷業界では、本業の紙への印刷が減っていることをデータは表しています。

次に、以前このマガジンでも何度かご紹介している「中小企業実態基本調査に基づく経営・原価指標〈平成21年発行〉」で、印刷業を参照してみます。すると、損益分岐点に興味深いデータを見いだすことができました。固定費率についてです。

全産業平均   34.4%

製造業平均   38.0%

印刷・同関連業 50.9%

この数値から、印刷業が固定費率の高い設備産業かもしれない、との仮説を思い立ちました。そして、このようなページを見つけることができました。ページの内容を参照すると、印刷に8日必要と有ります。8日間で、大量印刷と大量印刷の狭間の時間を活用することで、設備の稼働率を上げ、費用を最小化し、メリットを顧客へ提供するビジネスモデルです。

このことから、例えば既存のサプライヤーさんに対しても、発注の時期を工夫することで、好条件を引き出すことが可能かもしれないと考えるに至っています。サプライヤーさんの稼働率の低い時期を狙って発注する訳です。固定費率が高いが故に、このような手法もより効果を増すのではないでしょうか。

Q2:メルマガとまったく関係がないんですが、お二人は宇宙人とか霊のようなものは信じていますか? ちょっと気になったので。

【坂口答え】

宇宙人は信じています。というのも、地球人も宇宙人だからです。そんなことは訊いていませんか。失礼しました。

あとは、確率論の問題でしかない、と私は思います。「宇宙人は絶対にいないと思うか」と訊かれたとき、その「宇宙人」の定義がはっきりしません。「なんとなく知的な生物っぽいもの」というのが定義でしょうけれど、その意味では「確率は0ではない」と思います。だから、その意味では信じているといってもよいはずです。

ただし、もし宇宙に知的生命体なるものがいるとしたら、その倫理や道徳や行動様式は、地球人がまったく想像もできないようなものである、とは思います。これは永井均さんの議論にもつながりますけれど、「宇宙人が襲来して人びとを襲う」とか「友好的な宇宙人」とかいう考え自体が、すでに地球人(すなわち私たち)の倫理観とか道徳観に支配されているということです。私たちの常識では「人に優しくすることが、このうえなく悪徳な行為である」という倫理観を持つ生物のことなど想像もつかないはずですからね。

ちなみに、私は霊とかお化けとか、その類のものは一切信じていません。原子論からも(もっと素朴な科学知識からも)その存在がどうしても納得できないからです。ただし、「スピリチュアル」的なものは否定していません。ある場所に行ったときに「何かを感じる」といわれても、それが主観的感想である以上、何も否定はできません。「なるほど、何かを感じていらっしゃるのですね」としかいえないでしょう。

物理的現象としては否定しますけれど、主観的・精神的事象としては否定できません。たとえば、尊敬する両親を列車事故で亡くした人がいるとします。そのとき、「物理現象では、両親は燃えてなくなった。はい、おしまい」といったところで、その人になんら安堵を与えることはできません。しかし、「両親はいまごろ、あなたを見てくれていますよ。その両親の期待に応えるためにも、明るく生きなければいけません」といってあげたほうが、そしてそう信じるほうが、明らかに効果があることは間違いありません。

なので、私は強固な否定派とは異なって、「上手く信じて、上手く使えばいい」という立場です。また、人が何かを信じたいという態度は、立派な研究対象になるとも思います。

【牧野答え】

私は過去に、偶然にも霊能者と呼ばれる方とお会いして、お話をする機会を得たことがあります。詳細を語ると長くなるので省きますが、その際の実体験によって、具体的には言い表したがたいのですが、霊的なものは少し信じています。それは、かなり強烈な体験でしたので……ご質問された方には、今度お会いしたときに詳細をお話ししますね。

宇宙人については、いるでしょうね。だって、宇宙そのものが解明されていない以上、きっとどこかに、我々地球人と同じような存在がいることを、明確に否定することができません。私が好きなドラマにアメリカで人気を博した「X-File」があります。あのような世界観はアメリカ人特有のもので、私が持つモノとはことなります。私は具体的なイメージを持ち合わせていません。ただ、もし私が生きているうちに、そういった地球以外に存在する人(人なのかなぁ?)とコミュニケーションする機会があったら、やっぱり面白おかしく過ごしたいなと思います。

Q3:円高だから輸入を増やせ!ってよくいわれるんですけど、そんなに簡単にできるんですかね? ニュースでいわれているほど簡単にやっているんでしょうか? 私たちの時間がかかりすぎ?

【坂口答え】

きわめて重要な問題提起だと私は思います。バイヤーであれば、このサイトで日々の為替をチェックすることになっていますが。

うそうそ。

それはいいとして、円高になっていくとどうしてもトップからの輸入せよ!コールが高まりますよね。そのときに実務上の問題は三つあります。

1.これから新規サプライヤーを探しても、契約・評価に時間がかかる
2.物流の時間を考えると、どうしても実際の輸入開始は3ヶ月後とか先になってしまい、為替がどうなるのかがわからない
3.いったん海外メーカーに切り替えてしまっても、為替しだいで(たとえば再び円安になるなどして)日本メーカーに再度切り替えることは困難

このような問題です。とくに、日本の伝統的製造業のプロセスでいえば、サンプル評価等々に3~6ヶ月ほどかかることは珍しくありません。これでは、なかなか円高だからといってすぐに切り替えることはできませんよね。

また、常に国内と海外でダブルソースにしておけばいい、という意見も聞きますが、現実的ではありません。だって、円高になったら海外への発注量を増やし、円安になったら国内のサプライヤーに発注量を増やす、などということは直材では不可能ですし、そもそもあらゆる品目にダブルソース先を見つけておく手間だって相当なものでしょう。

そこで、私が常々申し上げているのは次の3点です。

1.生産場所と調達場所を一致させる。これは日本で生産するのであれば、日本のサプライヤーと一蓮托生する方法です。その代わり、コスト査定をしっかりやる。
2.それでも海外サプライヤーと取引をする場合は、為替変動について社内合意をとっておく。すなわち、「現状より3割円安になってもコストメリットがある場合にのみ輸入する」など。
3.円高になったとしても、生産途中で、国内サプライヤーから海外サプライヤーへの切り替えは実施しない。評価コストや安定調達を考えると、既存サプライヤーからの購入がメリットあり。

とくに、3.については述べておかねばなりません。というのも、トップから「円高だから輸入せよ」といわれたとき、それにデータをもって「円高だからといって、すぐに輸入開始するのは無理ですよ」と定量的に述べるバイヤーがほとんどいないからです。

・切り替えにどれくらいの時間がかかるのか
・切り替えコスト(評価等々)
・国内サプライヤーへの影響、生産への影響

これらを数字とともに語ることができれば、円高ですぐに輸入せよ、とはならないはずです。もちろん、これらを定量的に吟味して、それでも輸入メリットがあるのであれば、それは輸入をしない理由はありません。

ちなみに、安心してください。新聞で報道されているような、「海外輸入を増やす!」と息巻いている企業さんたちも、現場では困り果てていることがほとんどです。それは悪い意味ではありません。そんなたやすいことではなく、どこでも苦悩と苦闘のうえ、海外調達を進めていることを述べたかったからです。

【牧野答え】

ここへきての急激な円高によって、このような声が高まるんでしょうね。ただ、またですか?(笑)って思わないではありません。1990年以降の外国為替の推移を示したグラフは以下の通りです。

<クリックすると三井住友銀行のHPにゆきます>

確かに、ここ10年でみると、最近の円高傾向は最高値といえます。しかし、1985年のプラザ合意以降のような一本調子の円高でなく、同じレベルの円高は1995年に経験しています。1995年はどのように乗り切ったのでしょうか?現在よりも衝撃は大きかったはずです。現在40代中盤で現場部門を指揮する立場にある人は、当時実務を行なっていたはずです。まずその方へ聞かれてはいかがでしょうか95年の円高はどのように乗り切ったのでしょうか、と。

さて、冗談はこのくらいにします。結論から言えば、円高になったから輸入を増やせと大騒ぎするのは遅すぎます。というか、今から大あわてで海外調達先を見いだそうとしても、実現する頃には為替の変動が円安に傾いているかもしれません。上記のグラフからも、長期的には円高になっていますが、短期的には急激な円高の後には必ず円安局面が訪れています。現在の為替レベル(この原稿を書いているときは、$1=¥84.35)では、海外メーカーの見積がどれもこれも、あれもこれも魅力的に映ることでしょう。先ほど、この段階で騒いでも遅すぎる!と書きました。すみません、撤回します。では、どうやってこの円高を千載一遇のチャンスにかえることができるのでしょうか。

ちょっと色褪せた感もありますが、日本企業がサプライヤーとの間に構築しようとしているパートナーシップ関係を思い起こしてみます。今回の急激な円高への対処法の一つの答えとして、円高局面でなくなっても取引を継続できるパートナーシップ関係をベースとしたサプライヤーを見いだせるかどうか、を提起します。

円高という問題で一番悩ましいのは、自分たちの手ではどうしようもない数値に翻弄されてしまう点です。ということは、同じ理由で為替レートとは、サプウライヤーにも微塵の原因もないわけです。双方に問題解決の具体的な手段を持たないわけですから、関係構築の基準にすべきではない、とは考えることができないでしょうか。最初のきっかけは、円高だから、という点でも構いません。しかし、その円高によって始まった海外サプライヤーとの関係を、円高というメリットが無くなっても続けていけるかどうかがキーなのです。サプライヤーとの関係を良好な状態を保ちつつ継続する方法論に、国内、海外の差はありません。しかし、今回のように円高という海外メーカーにとって、大きなアドバンテージは、真逆の状態に陥る可能性もあること、その時にどういった対応をするのか、という点を踏まえて海外へのサプライリソースを求めるべきです。

円高だから輸入を増やせ!との社内的なニーズはなぜ起こっているのでしょう。円高によって海外製品の価値が、円貨評価では下がっているために発せられているのであれば、海外にリソースを求めることで解決されます。一方、販売先が海外であり、販売対価を外貨で受け取っている場合には、事は簡単ではありません。いくら外貨での調達量を増やしたところで、日本国内で発生する固定費は、為替の変動に大きく影響され、外貨ベースでは価値が変動します。今回の円高であれば、我々日本人の生活は何一つ変わらずにあっても、米ドルでの評価では数値としては上昇します。この部分への解決策は、我々が日々おこなっている業務の効率化です。例えば、今回の円高を$1=¥100を起点とすると、約15%強の円高ですね。海外調達を進めて、変動費の削減を推し進めることとと同時に、我々バイヤーが存在するが故に発生させている固定費に関しても、同じ観点によるメスを入れることが可能です。15%の効率化を実現させる為に行なうアクションも、海外調達と同じように尊いと考えることがでるとは思えませんか。

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