ほんとうの調達・購買・資材理論(牧野直哉)
2-8調達購買部門がおこなう社会への貢献(前回のつづき)
前回は、
☆CSR調達の実践
☆サプライヤーとの役割分担
についてお伝えしました。本日は、前回までのお話の実践編です。CSRとは、次の7点の内容を網羅した調達活動の実践です。
●社会的側面
・法令順守
・人権擁護
・労働環境の確保
・消費者保護
●環境的側面
・グリーン調達の実践
・購入製品から有害物質の排除
・サプライチェーン全体での二酸化炭素排出量管理
上記7点について、それぞれの内容に関して次のステップで自社の取り組み状況を理解します。
(1)自社のCSRの取り組みの状況掌握
社会的側面は、最初に明記した「法令遵守」が、他の人権擁護や労働環境の確保、消費者保護まで含め自社で遵守されているかどうかを確認します。「やっている」と認識するだけでなく、行動指針として明文化できているかどうかが重要なポイントです。
CSRが日本で一般化したのは、2003年なので、すでに10年以上が経過しています。大手企業では、専任部署が組織され、行動指針が明文化され、モニタリングもおこなわれています。一方で、まだ対策が十分でない企業が存在するのも事実です。
調達購買部門におけるCSRの実践が難しいのは、自社だけでは完結しない点です。調達購買部門は、発注しているサプライヤーにも、おなじようにCSRの理念を理解し、実践してもらわなければなりません。そのためには、そもそも「CSRってなに?」の部分があきらかでなければなりませんね。CSRは今日的なテーマなので、Web上にも非常にたくさんの資料があります。またこんな文献もあります。ただ、こういった文献に紹介されている事例は、組織を確立しなければできません。もちろん文献に紹介のあるような取り組みを最終目標として設定する必要はあるでしょう。しかし、多くの企業では、現状と文献に紹介されているようなあるべき姿の差・ちがいが大きすぎるんです。したがって、あるべき姿や理想的な姿はわかるけど、いったいどこから手をつければ良いのか、と途方に暮れ、結果的に手をつけないとなってしまうのです。
たとえば、CSRって言葉の存在は知っているけど、正しい意味とか、自分の仕事にどのように関係してくるのかがわからない場合は、次の3つの資料をご覧ください。この資料は、東京商工会議所が中小企業向けに作成しました。とてもシンプルに、ポイントがうまくまとめられています。
・チェックシート
https://www.tokyo-cci.or.jp/survey/csr/file/csr_chk2.pdf
・解説
https://www.tokyo-cci.or.jp/survey/csr/file/csr_chk3.pdf
https://www.tokyo-cci.or.jp/survey/csr/file/csr_chk4.pdf
まず、自社のCSRの取り組みについて、チェックシートと解説を合わせ見て、自社の取り組みの全体像を理解します。
(2)サプライヤーの取り組み状況掌握
サプライヤーの取り組み状況の掌握は、資料のポイントをサプライヤーに確認します。ポイントは、次の項目です。
1.法令遵守
4.環境保全への寄与
5.顧客の信頼の獲得
7-①.職場環境改善への取り組み
です。上記4点に加えて、6.取引先との信頼関係の確立も確認します。これは、サプライヤーの取引先であるサプライヤーを対象にします。
CSRの実践とは、実践すべき内容が非常に抽象的です。故に、なかなか内容をつかみづらいのが現実です。また本格的な実践に際しては、調達購買部門のメンバー全員がその必要性を理解し、専任担当者もしくは、担当セクションの主導の下、企業全体の取り組みの一翼を担います。調達購買部門におけるCSRの実践は、バイヤー一人ひとりの理解と行動に加え、具体的なモニタリングをサプライヤーに対しておこなわなければなりません。また、もっとも大きなハードルは、バイヤー自身のCSRに関する正しい理解です。そもそも日本には、近江商人の「三方よし」といった社会への配慮といった考え方があります。CSRは、こういった日本に従来からある考え方に加えて内容を理解し正しく行動します。例で取り上げた「三方よし~売り手よし、買い手よし、世間よし」にしても、売り手、買い手は「よし」の内容が高度化しており、世間を新たに認識する。認識の具体的な手順としては、先に挙げたチェックシートや解説を参照して、具体的に行動しなければなりません。
(つづく)