指標はこれを見ろ!3(牧野直哉)

●第3回 日銀短観(企業短期経済観測調査、以降「短観」と表記します)

(3)短観(概要) 参考 業況判断の推移

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短観で見るべきポイントの3つめです。業況判断とは、いわゆる「景気」といった言葉で表現される業績の良し悪しを見極めるための指標です。これもDI~ Diffusion Index(ディフュージョン・インデックス)で表記されています。

一般に景気は良い方がいいですね。しかし、調達購買部門にとっては景気が悪い=需要が少ない状態のほうが、より有利な購入条件の設定には好都合です。供給力過多は、サプライヤー側での競争が激しくなる環境ですので、調達購買部門には有利です。逆に景気が良くなって需要過多となれば、調達購買部門は苦戦を強いられます。需要過多が進めば、限られた供給の奪い合いが発生します。ここで、昨年シリーズでお伝えした「値上げ」とからめた景況判断による調達購買部門の対応について考えてみます。

昨年お伝えした「値上げ」は、主に外国為替レートや原材料費の変動に起因する値上げへの対応策でした。しかし、値上げが顕在化するためにはもう一つ、大きな要因があります。それが需要過多(需要>供給)状態です。需要が供給能力を上回った場合、需要供給曲線で示される原理からも、購入価格は上昇します。需要過多が顕在化した環境下で値上げの申し入れを受けた場合、調達購買部門としては具体的な対応の術を持ちません。したがって、目指すべき調達購買部門では、サプライヤーの生産能力やリソースを他のバイヤー企業と奪い合う事態は避けなければなりません。避けるためには、長期的な購入契約を締結したり、買い取り保証の条件設定を拡大して見直したりといった取り組みが必要です。

また、限られた供給の奪い合いを防止する取り組みにはタイミングが重要です。需要が拡大基調となった後では、長期契約を持ちかけても売り手のメリットが少ないために、締結できない、締結できても条件としてはかなり悪くなる可能性が高くなります。したがって、業況判断に変化のきざしが表れたタイミングを見落とさずに行動につなげなければなりません。前々回号で少しご紹介した内容を含め、景況感を判断する指標を次の通りご紹介します。

●景気ウォッチャー調査( http://www5.cao.go.jp/keizai3/watcher/watcher_menu.html )
・毎月25日~月末調査 ⇒ 翌月8,9日公表
・全国を11の地域に分類し、経済活動の動向を敏感に反映する現象を観察できる業種
・「家計」「企業」「雇用」「合計」の4種類の現状判断DI
・マクロ統計の公表スピードの遅さ(特に地方)をカバーする目的で実施

●法人企業景気予測調査( https://www.mof.go.jp/pri/reference/bos/ )
・四半期ごとの調査 BSI(Business Survey Index)を算出
・直前四半期と比べた現在、翌四半期、翌々四半期も回答
・「大企業」「中堅企業」「中小企業」の3つのデータを発表
・「回答企業の景況」「国内の景況」「雇用」「来年度の企業収益・設備投資見通し」「売上」  「経常利益」「設備投資」

●商工会議所LOBO(早期景気観測) ( http://www.jcci.or.jp/lobo/lobo.html )
・毎月中旬に調査して、月末に発表
・全国419の商工会議所が3147企業にヒアリング
・業種別の景況感「建設」「製造」「卸売」「小売」「全産業」

(4)短観(概要) 参考 需給・価格判断の推移

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この指標は、景況感でなくズバリ需給、加えて仕入れ価格と販売価格の見通しをDIで表しています。4月発表を見ると、引き続き供給過剰状態にあって、仕入れ価格は上昇し、販売価格は下落との見通しです。このデータをみると、日本が引き続きデフレ状態とか、日本経済全体で見た場合の供給過多状態が読み取れます。供給過多は、業種や地域による差がきわめて大きいと前々回にお伝えした通りです。

(5)短観(概要) 参考 雇用人員判断

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4月発表分はこの指標だけ、他の数値と少し異なるトレンドを示しています。リーマンショック以降、人員の過剰感が一気に高まりました。以降、徐々に過剰感は薄まってきましたが、今回の発表で再び過剰傾向へと移行する兆しが読み取れます。これは、消費税アップにともなう駆け込み需要によって、4月以降の需要の先食いをしているとの見通しの表れです。私はこの指標の動向にもっとも興味をもっています。次回(7月)発表でも、過剰感が拡大していれば、消費税アップが景気に与えた影響が非常に大きいと判断せざるをえません。

(6)短観(「企業の価格見通し」の概要)

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最後に価格見通しです。この指標からは、直近の販売価格のアップには消極的だけれども、仕入れ価格の上昇見通しをもって苦悩する日本企業が読んでとれます。長期的には仕入れ価格は上昇傾向で、販売価格も3年先、5年先と時間の経過と共に「上昇」との見通しが増えています。調達購買部門ではもちろん「仕入れ価格」に一番の興味を持ちます。合わせ見ることで、長期的な仕入れ価格のアップを、調達購買部門ではコスト削減への取り組みで上昇の抑制に努力し、営業部門に対しても販売価格の改善を要請する根拠にしましょう。

<日銀短観 終わり>

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