「話すという仕事」パート2(坂口孝則)

・講演は自分の気に入った5パターンを用意する

この連載では、話す仕事について書いている。先日「話して食っていくための士業・コンサルタント入門講座」を開催した。そこで、話して食っていくことの愉しさや厳しさを話した。もし、読者が少しでも講演などでお金をもらうことに興味があるならば、これ以降の文章を読んできっとソンはしないだろう。

ところで、話すといえば思い浮かべるのが、プレゼンテーションと講演がある。しかし、このニ者だいぶ異なる。プレゼンターはルポライターで、講演家は小説家くらいの違いがある。前者は事実や真実をわかりやすく見せ説明する。後者は世界観を提示し魅了する。

では、すぐれた講演コンテンツとは? まず、端的に結果から述べる。
講演は
・「感動させるもの(感動)」
・「人生における気づきを与えるもの(発見)」
・「とにかく楽しませるもの(エンタメ)」
・「学習欲を刺激するもの(知識)」
・「役立つ知識を与えるもの(実利)」
の5つにわかれる。みなさんがやってみたい(そしてお金を稼いでみたい)講演はこの5つのうちどれだろうか。次に、それにあてはまる偉人たちの講演テープを買って、そのまま模倣すればいい。

以上、終わりだ。

その偉人になりきったつもりで話せばいい。これにまさる講演力向上術はないと、ぼくは信じている。

ところで――。

ぼくは講演することも、聞くことも多いけれど、考えるほど講演会とは特殊な空間だ。たったひとりが話して、その他の大勢は聞くだけ。2章で取り上げた資料の説明会や報告会ならともかく。どんなひとたちが講演を聞きにくるのだろうか。次の4タイプだ。

① 講演者を見てみたい!と願うひと
② テーマに興味があるひと
③ 時間つぶし
④ しがらみ(団体・組織・会社)があってやむなく参加しているひと

もちろん、①→④の順番に良いお客だ。しかし、ぼくに興味があるのは主催者だけで、お客がほぼ④のみの前で話す機会もある。超のつく有名人でも①ばかりではない。

①②のお客であれば、難しくても専門用語が多くても大丈夫だ。③④のお客にはできるだけ平易に、かつ専門用語を廃して語りかける必要がある。しかし、①②だけのケースはほとんどないので、①~④が混在しても大丈夫のようにしておかねばならない。

ここでまず抽象的に述べておくと、コツは講演の肝要は「めちゃくちゃ難しいことを、めちゃくちゃ簡単に述べ」「めちゃくちゃ簡単なことを、めちゃくちゃ難しく述べる」ことだ。講演では、聴衆の満足条件と講演内容が完全には合致できないところに本質がある。だから、まったくおなじような講演をしても、ウケるときもあるし、ウケないときもある――のは、そのような事情による。

お客全員を満足させられない。ただし、満足させる可能性は上げられる、と講演者は信じて研鑽せねばならない。

ちょっとだけ定性的な経験則を述べておく。あなたが講演会を開くとすれば、お客さんはあなたに似たひとが多く集まってくる。なぜだろう。これは調べてもよくわからない。だけど、多くの講演プロデューサーからも似た内容を聞いた。山師には山師が。怪しげなひとには怪しげなひとが。詐欺師には詐欺師がよってくる。なぜだか、真面目なひとには真面目なひとが。勉強家には勉強家が寄ってくる。昔から「類は友を呼ぶ」とよくいったものだ。

ではここから何がいえるのだろうか。つまり、「あなたが講演するときは、あなたが面白いと思っている内容を、面白いと感じるように話せ」と教訓を導ける。だって聴いているのは「あなた」なんだから。この教訓・前提を失念しないようにしたい。なぜなら、講演コンテンツや伝え方に悩んだら、自分に問いかければいいからだ。

・講演音源を300万円ぶんほど購入しよう

そこで、やっと「講演のコンテンツの作り方」について述べる。本メールマガジンの読者はビジネスマンが多いだろう。お気に入りのビジネス書著者がいるかもしれない。手始めに、さまざまな講演CDやらDVDなどを買い漁るのが良い。また、現在では著者の講演CDつきの書籍が多く売られている。これも買い漁ろう。

ちなみに、ぼくはおそらくこれまで300万円ほどは講演音源に費やしている。しかし、ぼくが出会ったなかで最高は1600万円を使ったひとがいて、リストを見せてもらったところ、ありとあらゆる話者の講演音源が載っていた。

定性的になってしまうけれど、自己投資は払ったお金以上は必ず返ってくる。株やFXなどに投資するより100倍は確実にリターンが見込めるだろう。よってまったく躊躇する必要はない。たとえぼくと同じく300万円かかったとしても、すぐに取り返せるし、株やFXと異なり、講演力が身につく。

講演の分析手法はこうだ。まず読書と同じく講演を愉しんで聞く。本と異なり、基本的に音源は話者のスピードにあわせなければいけないものの、iPodなどの倍速機能を使えば2~3倍速で聞くこともできる。通勤中や散歩中など、とにかく聞きまくる。

そうすれば、きっと面白い講演と出会うはずだ。前述のようにあなたが面白いと思う事実こそが重要だ。とはいえ、個人的経験では2万円も払った講演CDがあまりにつまらなくて驚くケースが多い。しかし、その程度でも仕事になるのかと大いに励まされる。また、講演の内容も当然ながら聞くので、学習にもなって一石二鳥だ。

あなたが講演するものは、5つの(感動)(発見)(エンタメ)(知識)(実利)のどれかのはずだ。自分が「こう話せたらいいな」と思う講演はどれに分類できるだろうか。たとえば(感動)分類したら、あなたは五分の一の「型」を手に入れた。おめでとう。あとは、「こう話せたらいいな」と思うだけではなく、実際にそう話してみればいい。

・講演の分析方法

では、どうやって講演を分析すればいいか。ノートを用意してほしい。見開きの右側にはその講演の分析を。左にはあなたの講演を書くスペースにしよう。

画像は、見開きの右側で、ぼくが某氏の講演を分析したときのものだ。

一字一句を逃さず書いているわけではない。話の概要を書き、ページの右側には、何分くらいそれぞれのトピックに費やしたかを書いている。

ぼくの心のなかはこんな感じだ。「なるほど。導入部(1分)。最初に喩え話で導入し、そこから人生の教訓を導き(2分)、さらに偉人のセリフを引用(3分)。そして決めゼリフ(1.5分)。経験談を要所々々に盛り込みながら話を盛り上げていく(3分)わけだ……」。

そして、見開き左側には、これを自分のエピソードで置き換えたものを書けばいい。講演の論理構成は同一のものとなり、感動の構造をそっくり真似られる。講演の内容を一から考えるのではなく、テトリスのブロックを自分の頭の中から探して、それを当てはめる機械的な作業だ。

あなたが理想としている講演の内容と近似した経験を自分のなかから探そう。極論を申し上げるなら、人間の人生は似通っている。誰かの経験は、きっとあなたも似通った経験をしている。完全に同じではなくても、近似した内容だ。

たとえば、某芸能人の付き人をして、怒鳴られながら成長していった自身のエピソードを語る有名講演家がいる。多くのひとは、芸能人のマネージャー経験はない。だけれど、怖いおじさんと接して仕事をした経験くらいはあるだろう。そこから、同様の論理で教訓を引き出せばいい。

そのように分析を進め、目標は前述のとおり、5つの型をつくることだ。言い換えれば、5つの落語か漫談をつくるといってもいい。

ちなみに、ぼくは日本経営合理化協会の牟田学会長の講演には魅了される。ぼくと同じ感想をもつのか、リピーターも多い。ほとんどいつ聞いても同じ内容にかかわらず、だ。しかし、これも落語と考えれば合点がいく。オチすらわかっていても、ぼくたちはお決まりの内容に感動してしまう。

他のひとは単に感動するだけだろうけれど、ぼくだけはその感動の構造までをわかった気になって愉しい。学習や分析の愉悦があるとしたら、このような形ではないかと思うほどだ。

さて、5つ話せる講演題材があって、次のテーマにもあるとおり語り口も優れていればきっと講演家としてデビューできる。

いや、そりゃ、あなたが思い出した経験は、たいしたことないエピソードかもしれない。だけど、分析によってあなたの講演を最大限に向上させるわけだ。それに、すぐれた講演を分析して気づくのは「たいしたことをほとんど言っていない」事実だ。これは皮肉ではない。ほんとうに「たいしたことをほとんど言っていない」。雰囲気や口調、ドラマチックさで感銘を与える。でも、一つか二つ良いことを言っていたら、それでじゅうぶんだ。だからあなたも、一つか二つのすぐれたメッセージを発せられれば良い。
むしろ、すぐれた講演とは良いセリフを一つか二つ述べるために、全体が前フリになっているといってもいい。いきなり感動的なフレーズを述べても誰も感動しない。感動させるまでの構成こそ、盗むべきものだ。それに、自分自身も思い出してほしい。これまで行った講演会で一字一句を覚えているだろうか。大半は講演家が何を話したかさえ失念し、覚えていても1、2個のフレーズくらいだ。

だから講演とは本と異なって学ぶ側からすると効率が悪い。しかし、国民全員が本読みではない。それに、講演ならば強調したい箇所を感情的に強調できる。それがいまだに講演なるものが廃れない理由だろう。

ところで、注意を一つ。

それは、自分の講演コンテンツを考えるときに、当然ながら、経験を捏造しないルールをもとう。こんなエピソードがあったらなあ、とついウソの体験談を盛り込んでしまうと、細部が甘くなり真実味がない。なにより面白くない。話していて自信もなくなる。
ぼくの知人に全国を講演で飛び回っているひとがいる。ニッチな領域だから需要があるんだろう。でも、ぼくはそのひとの講演を一度聞いただけで、ある種の偽造を嗅ぎつけた。なんというのか、上手くできすぎている。ネタとネタがキレイにつながりすぎて、そして、なぜだかわからないけれど、信用ならない。

こう共通の友人に話してみると、「あのひとの話は半分が『ネタ』だよ」と教えてくれた。聴衆がそこまで強く思うかというと、そんなことはないだろう。しかし、無意識のなかに刻まれる。きっとこのひとは長続きしないだろうと思ったし、実際にそうなっている。

これまで、さも講演そのものをパクれと書いたように読者は感じたかもしれない。しかし、繰り返すと、パクるのはシステム=論理=構成であって、内容そのものではない。しかも捏造はご法度だ。

高いカネもらうわけだから、ウソがない程度は真摯でありたい。

これはぼく自身にもむけられている。

<つづく>

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