サプライヤーの倒産 3(牧野直哉)

●サプライヤー 3:3:3:1の法則

前回は、同じ製品やカテゴリーで、複数のサプライヤと取引をおこなう場合の理想的な発注先シェアの割合として、発注シェア30%前後のサプライヤーを3社、10%以下のサプライヤーを1社、同一製品に合計4社のサプライヤーとの取引を推奨しました。倒産対応ではありませんが、もう少し解説を加えたいと思います。30%を占めるサプライヤーの構成は、次の通りです。

トップ:トップ評価のサプライヤ
フォロアー:トップに準ずるサプライヤ
チャレンジャー:特徴を持ったサプライヤ

「30%前後」この数値は状況に応じて柔軟性を持たせます。この考え方の目的は、バイヤー企業にとってもっとも効果的な競争環境の整備です。サプライヤーが競争すれば、バイヤーには大きなメリットが生まれます。バイヤー企業や発注アイテムにサプライヤーから見て魅力があれば競合もおのずと成立します。しかし、そんなアイテムばかりではないはずです。その場合、バイヤーが意志を持って戦略的に競争環境を整備しなければなりません。その際に目指すゴールが、この考え方です。

まず、30%を分けあうシェアのサプライヤーを3社セットすれば、将来的なサプライヤー構成も、いろいろな展開が想定できます。サプライヤーを3社以上ですから、製品やカテゴリーでは分散購買です。分散状態から、集中状態への移行も可能です。そういった発注シェアのコントロールで、重要となるのが残された10%をしめる発注シェアのサプライヤーです。

10%シェアのサプライヤーは、主要サプライヤーではありません。しかし、将来的な30%シェアのサプライヤーとの入れ替え可能性を持ったポテンシャルサプライヤーです。30%シェアのサプライヤーへの発注が妥当なのかどうか。発注先以外のサプライヤーの状況確認や可能性を探るためにも、この10%シェアサプライヤーは意識的に残します。このサプライヤーの存在が主要発注先へ潜在的な脅威となります。また、そのようにバイヤーの発言は日常的な示唆をおこなわなければなりません。

●倒産シグナル

企業が倒産へと至る過程を、まずバイヤー企業とサプライヤの2つの側面から考えます。バイヤー企業は、サプライヤの倒産情報を一刻も早く入手したい。一方で、サプライヤは、できるだけ顧客に倒産の徴候はさとられたくありません。したがって、倒産情報は基本的に入手しにくいものです。どんなに口の軽いサプライヤの経営者も、倒産に瀕している状況は、懇意にしているバイヤー企業の担当者ほど知ってほしくないと考えています。倒産シグナルとは入手しにくいとの前提で、話を進めます。

ここで、信用調査会社における、倒産調査の典型的な一日の動きを御紹介します。

 8:00 出勤
8:10 打合せ開始
情報の選別、確度見極めと分担決定
4~5社/人で事実確認をおこなう
(150社/一日あたり)
10:00 外出(直あたり、情報収集)
17:00 帰社後、銀行への不渡り確認
倒産確定したらHPに掲載/会員へ連絡

ここで、出勤後におこなわれる打ち合わせで「情報の選別、確度見極めと分担決定」があります。ここで扱われる「情報」とは、噂の類が一番多くなります。信用調査会社ですから、顧客企業からまさに信用照会が多数押し寄せるのでしょう。そういった情報から、その日に調査すべき企業を選別して調査します。先ほど、倒産に瀕している企業は、その状況をひた隠しにして外部にもらさないとしました。にもかかわらず、外部にもれだした話には、少なからず信憑性のある情報も含まれるのでしょう。100社の噂があれば、70~80社は最終的に倒産へと至るとも言われています。噂を起点とするのは非常に難しい対応です。しかし、本来耳にしづらい情報だからこそ、社内的には倒産対応の準備を始めておきます。ただし、バイヤーが噂の発信源になるような行動は慎みましょう。噂は、その気になれば、誰にでもたてられます。倒産は、企業の従業員だけではなく、その家族の人生までを危うくする危機的な状況です。そういった事態はできるだけない方が良いものの、実際にそうなったときにあわてない対応が必要です。サプライヤが、倒産の兆候を悟られまいとするなら、バイヤー企業側も、社外に悟られない対応が必要です。

調達・購買部門の業務で得やすい倒産シグナルには、次の2つがあります。

1.支払サイトの短縮要求

支払サイトは、昭和41年3月11日付文書「下請代金の支払手形のサイト短縮について」により、製造業120日以内、繊維業90日以内とされています。この内容に沿って、設定されたサイトに対する短縮要求です。

取引開始時の要求であれば、サプライヤの企業としての考え方の主張であり、売買契約条件の交渉事項としてとらえ、さほど大きな問題にはなりません。しかし、過去に一定期間取引関係を継続しており、従来120日が条件であった支払サイトの短縮要求があった場合を考えてみます。

120日サイトの場合、支払を受けてから120日後に満額で現金化します。もし、120日以内に現金需要が発生した場合は「手形割引」をおこなって、120日=満期までの利息や手数料を差し引いた金額で現金化できます。支払手段に手形を廃止した場合でも、現金化に要する時間を設定している場合は、手形の割引と同様のサービスを提供しているはずです。

継続的な取引の場合、納入後の締め日起算で120日後には現金化され、以降毎月120日前の納入代金が現金化されます。このようなサイクルでは、現金需要がまかなえなくなった「理由」の確認とともに、倒産を想定した対応をとります。

2.過剰な設備投資

これもサプライヤレベルでは、倒産要因となります。過剰な設備投資の判断基準は、規模を見て「すごいな」と感心してしまうレベルです。サプライヤ独自判断による設備投資によって能力が拡大すれば、バイヤー企業には大きなメリットです。しかし、それは企業が継続してこそ実現するのであり、驚きの印象をもった設備投資は、サプライヤーへ投資回収計画を確認しましょう。

(つづく)

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