バイヤー現場論(牧野直哉)
10.ルーティンワーク
調達・購買部門で働くバイヤーなら、社内プロセスを正常に、遅滞なく進めるための、さまざまなルーティンワークがあるはずです。決まりきった仕事で、創意工夫を必要としない業務と思われがちです。しかし、決まっている手順を確実におこなうのはとても重要ですし、確実にできるだけ速くおこなう工夫をおこなうのも大事です。ルーティンワークを効率的に処理して余裕が生まれれば、付加価値の高い業務に時間を割けますし、突発的な出来事にも俊敏に対応できます。
調達・購買部門の場合、多くのルーティンワークの後工程に、サプライヤーが位置しています。サプライヤーに確実に仕事をしてもらい納入してもらうにも、自らの工程を、よどみなく確実に処理しなければなりません。ルーティンであればこそ、後工程へ混乱のタネを送ってはならないのです。
①ルーティンワークの意味を理解する
調達・購買部門における重要なルーティンワークは、サプライヤーへの注文書発行業務です。実際に注文書を発行するときを想定してみます。
注文書を発行する場合は、最低限でも次の内容の決定が必要です。
1)購入対象品を特定する仕様や図面、規格
2)数量
3)納期
4)サプライヤー名称
5)価格
1)~5)で、バイヤーが主体的に決定できるのは、発注先である「4)サプライヤー名称」と購入時の「5)価格」です。それでは、残された1)~3)の要素は、どのように決定されるでしょうか。
「1)購入対象品を特定する仕様や図面、規格」は、設計や営業、それ以外の社内関連部門といった「購入要求部門」が決定します。購入対象の持つ性格によって、設計や営業、それ以外の社内関連部門の先には、顧客であったり、社内の「ユーザー」であったりがいるはずです。ユーザーの希望をまとめて文書化し、初めてサプライヤーへ発注可能となります。したがって、1)は社内の購入要求部門が前工程で、さらなる前工程はユーザーになります。
続いて「2)数量」は、1)と同じく、購入要求部門が設定します。顧客へ納入するのであれば、顧客からの注文書であり、社内関連部門であれば、予算が、購入の根拠になります。前工程は1)と同じです。3)も同じです。
調達・購買部門の前工程には、すべて同じ企業内の別部門が存在します。こんな例を考えてみます。サプライヤーからの調達リードタイムが4週間必要な購入品があります。しかし1)~3)にある社内関連部門からの情報提供は、納期まで3週間の段階でしか提供されず、調達・購買部門で不条理な納期フォローを恒常的におこなっています。このような状況では、毎回サプライヤーから回答された調達リードタイムを大幅に踏み込んで注文書を作成し、注文書を発行した後もフォローし納期短縮を実現させなければなりません。
ルーティンワークは、社内関連部門から入手した情報をもとに、調達・購買部門でサプライヤーから得ている情報を合わせて注文書をすれば完了します。しかし、本来であれば一度は事務処理が完了するはずの注文書発行をおこなった後に、納期調整を余儀なくされています。こういった状況では、異なる2つの方向に、それぞれ異なった内容で改善をおこなわなければなりません。
一つ目は、サプライヤーへ調達リードタイムの短縮要請です。3週間前の発注で、希望納期を順守できないのかどうかを確認します。購入品の性格によって、納期短縮の余地も異なるでしょう。しかし、慢性的に希望納期が守られない状況は改善して、余計な仕事を減らさなければなりません。サプライヤーに対して、なぜ4週間なのか、必要なリードタイムの理由を確認し、納期短縮への対応を協議します。
二つ目は、社内関連部門への発注タイミング前倒しです。継続的に発注している場合は、発注準備に具体的にはどのような作業が発生して、一週間のギャップを、バイヤー企業側で解消できないかどうかを確認します。
単発で継続性を持たない発注の場合は、既に希望納期と納入日のギャップが顕在化している段階なので、サプライヤーへの納期短縮要請しか改善方法はありません。しかし、繰り返し発注する場合は、同じような調整を避ける取り組みを、社内とサプライヤーの双方におこないます。ただ発生しているリードタイムの短縮を双方へ依頼するのではなく、ギャップが存在する期間の発生根拠の確認から始めます。こういった取り組みには、調達・購買部門のルーティンワークだけでなく、前後工程含めたプロセス、サプライチェーン全体の中で、業務の位置付けの理解が必要です。
②チェック機能を持つ
ルーティン作業によって生みだされるアウトプットの内容確認です。ルーティン作業は、正しくアウトプットしてこそ、分担して責任を持っているプロセスの責任が完了します。チェックするためには、ルーティンを正しくおこなう手順を明確にします。複数の担当者が同じルーティンをこなす場合は、全員が同じプロセスでルーティンを完了させます。また、組織内でアウトプットの確認をおこなう場合は、確認方法も規定します。こういった取り組みによって、ルーティン作業を複数でおこなっても、作業品質の維持が可能となり、アウトプットのレベルが均一化されます。
③改善する
確定させたルーティン作業のプロセスそのものを疑い、問題意識をみいだす取り組みです。この取り組みのモチベーションの原泉は「できるだけ、少しでもラクしたい」人間の本来持つ怠けたい心を活用します。
プロセスを構築する場合、確実な業務遂行を目指せば、実施内容は安全サイドに傾き、確認内容も多くなります。ルーティンとは、同じ作業を繰り返しますので、一回の作業を完了するための作業内容が多ければ、それだけすべてを完了させるのに時間を要します。
複数の担当者が同じ作業をおこなう場合、その作業への着眼点は、それぞれに異なります。効率化を進めるために省略できたり、よくよく考えれば重複していたりする作業があれば、そういった問題意識をもった作業をおこなう全員で共有します。その上で、ルーティン作業のプロセスの見直しをおこない、より効率的なルーティンワークを目指します。
<つづく>