短期連載・坂口孝則の情報収集講座(坂口孝則)

この大学からかぞえて20年ほど、ずっと「調べて書いて、発表する」行為を続けてきました。社会人になると、「この資料作っておいて」といきなり言われるケースは多いはずです。むしろ、会社員の仕事の大半は、資料作成といっても良いかもしれません。そこで自分なりに総括したい気持ちもあり、『情報収集講座』と題し、短期連載としてメルマガに掲載することにしました。

【第6回】情報収集開始にあたり整理すべきこと

ではこれからより具体的な情報収集の話に移っていきます。ただ、まずは資料作成の話からです。本書は資料作成の話ではなく情報収集の話ではあります。ただ、目的物である資料の特性によって情報収集も変わってきますので、資料作成のあらましからお話しします。

まず資料作成の大まかな流れは、①その資料依頼する上司の意図を明確にヒアリングすることでした。②その上で仮説を構築し、③実際に情報収集し、④資料作成に取りかかるといった流れです。

上司へのヒアリングの大切さは前章で書いておきました。それをもとに、資料作成の前提条件をあらためて整理しておくのが、情報収集のコツです。英語で5W2Hという言葉があります。これにしたがって整理しておくのです。

*情報調査開始時に整理しておくべきこと

□Why:資料の存在目的です。この時点で自信をもって存在意義を語れなければ、上司にヒアリングするところから繰り返しましょう。とはいってもあなたは複数の部署に属しているわけではないでしょうから、目的は限られているはずです。例えば営業部門であったとしたら、どの市場にビジネスチャンスがあるか、とか。あるいは、市場が飽和するタイミングはいつか、だとかが該当するはずです。

□What:調べる対象です。対象が曖昧すぎて何を調べていいのか最後まで定まらないケースがよくあるからです。たとえば、「食品の市場」について調べるときに、各メーカーの生産額なのかそれとも販売額かによってもちろん結果は異なります。なぜならば商品によっては生産したものの大半が輸出されるかもしれず、必ずしも日本の消費者がそれをすべて購入するわけではないからです。

□When:これは上司ヒアリングの際に書いた締め切りの意味も含んでいます。締め切りから逆算していつまでにどんなデータを収集するか決めましょう。たとえば上司の中間レビューが必要だった場合は、いつまでにまず仕上げるべきなのか、ブラッシュアップした完成版をいつ提出するべきなのか、あるいは報告会がいつあるのかといったことをスケジューリングしておきましょう。
くわえて、このWhenでは、データ範囲も意識してください。資料を調べるのは日本の市場のみを計画するのか、自社が拠点を持っているアジアも含めるのか、あるいは広くグローバルな市場を調べるかによって、あたる情報源が違います。

□Who:これは二つの意味で整理しておく必要があります。まず一つ目はその資料を評価する人が誰なのかと言う評価者についての質問です。そしてもう一つの意味は、公的なところに出るのかどうかです。クローズドな場であれば、やや不確実な第三者からの情報も、口頭でフォローしながら載せることもできるでしょう。しかし、広報資料やPR資料などに載せるほどではなくても、なんらか外部に接する機会のある資料だとしたときに、著作権で守られている資料(他社資料、メディア記事)などを勝手に貼り付けていると問題になります。

□How much:これは文字どおり資料作成にかけられるコストです。たとえば専門的なデータ資料は10万円を超えるものもあります。専門書であれば1万円を超すものも珍しくありません。それとも数百円であれば図書館でのコピーくらいになります。0円であれば、社内外のヒアリングやインターネットで政府関連の統計資料を探す等々になるでしょう。資料作成の予算管理です。

□How:パワーポイント、ワード、エクセル、あるいは手書きメモ、口頭などの資料報告手段です。そして可能であれば、資料の構成などについて上司とあらかじめ合意しておくのが良いでしょう。構成については次節でくわしく説明します。

*自分なりのフォーマットを作っておこう

ちなみに私は自分に自信がないので、資料作成や情報収集のときには、前述のような5W2Hをまとめてノートに記載します。いきなりパソコンで情報収集したり、とにかく動き出したりするひとは相当な自信家なのだと思います。

なお、この5W2Hを整理する、というのは、お客への商談などでも役に立ちます。商談を受けて提案資料をつくることがあると思いますが、そのときに5W2Hが明確になっていないと気持ちが悪くなるのです。そうなると商談のときに、「ああ、あれを聞かなきゃ」と思えるようになります。相手からいかに情報を引き出すかがビジネスの肝要ですから、5W2H明確化はさまざまな領域に応用可能です。

【第7回】ストーリーチャートを作成し情報収集をはじめよう

前節のHowで書いたとおり、資料作成においては、上司とあらかじめ構成や完成形について合意しておくことが重要です。その合意のためには二つのツールを使います。まず一つ目はストーリーチャート。もう一つが資料のポンチ絵です。

ストーリーチャートとは、最終的に出来上がる資料はどのようなストーリーで、かつどのような構成になっているかを説明したものです。エクセルなどで作成してください。1ページ目の表紙から、最終ページまで、それぞれ何を書くのか表現したものです。

ここではパワーポイント資料で説明します(そのストーリーチャートをエクセルで作る、という意味です)。形式は任意でかまいませんが、「まず1ページ目は表紙。2枚目は目次があって。次に……」とエクセルに打ち込んでいきます。そして、ページ番号をふります。ページ番号を示すのが重要なのは、まずぱっと見たときにこの資料が何ページぐらいの厚みを持っているかが分かるからです。

中身によって資料のページ数が決まると思うかもしれませんが、実際にはページ量によって内容が決まります。それは、必要量に応じて旅行バッグが異なるのではなく、もっている旅行バッグによって中身が変わるのとおなじです。したがってストーリーチャートの有効性は、まず上司に見せたときにこれは10ページの資料になるか、あるいは100ページの資料になるか、そのイメージを伝えられることです。そこでたとえば上司は「いやこんなたくさんの資料は要らない、5ページに収めてくれ」というかもしれません。

そして記載すべきはスライドのタイトルです。スライドのタイトルは何を示すのかを書きます。次に、メッセージボックスです。このメッセージボックスは、「この1枚でどのようなメッセージを言いたいのか」、一言でまとめてください。私が以前に在籍した会社では、このメッセージボックスを「成年の主張」と呼んでいました。主張や言いたいことがないページは存在してはいけないのです。もしこのストーリーチャートを書くときに、あなたがメッセージボックスのなかに何も書けなかったら、あなたは無意味な資料ページを作ろうとしているのかもしれません。

そして最後に備考欄です。この備考欄では、一体どのような情報集めるだとか、ここで使うデータだとかを記載していきます。

ストーリーチャートを作成するときに私がいつもお勧めしているのは、表紙や目次の次にエグゼクティブサマリーを書いておくことです。エグゼクティブサマリーとはすなわち時間がないひとのために、そこだけ見れば資料の大半がわかる要約ページです。ここまでしておけば、資料の作成後に上司との思い違いはだいぶ少なくなります。

*できればポンチ絵も書いておこう

ただここで終わってはいけません。さらにこの資料のポンチ絵を書きましょう。ポンチ絵とは、その資料の1ページ1ページは、具体的にどういう体裁ですよと、ラフに手書きしたものです。みなさんは映画やアニメで「絵コンテ」なるものを聞いた経験があるかもしれません。あれは監督がまずアニメーターが作画する前に、イメージを手書きしたものです。いきなりアニメ作成をするより、あれを作っておいた方が関係者に対して明確なイメージを与えられます。

このポンチ絵を作るなんて非常にめんどうくさいというひとがいます。が、実際は逆です。ここまで作っておくとまず間違いは起こりません。さらに重要なのはこのストーリーチャートを作ることによって、あなたがどんな結論に対して、何を情報収集し、そしてどのような論理を構成し、どう伝えるべきかを整理できる点です。

ところでこのストーリーチャートは、私の先輩から教えてもらった方法で、役員報告資料や取引先企業の社長報告などで活用していました。実際の情報収集をする前に、この資料の論理性や一貫性をものすごく厳密に確認するんですよね。もうストーリーチャートが明確で論理性をもっていれば、それだけで資料作成は成功したようなもんだ、という気迫すら私は感じました。

ストーリーチャート作成は簡単のように見えますが、いちど作ろうとすると、自分がいかに非論理的な人間かわかります。そして、資料を端的にまとめようとすると、まとまらず、なんて曖昧な思考をしているんだろう、と恥ずかしくすらなります。

 <つづく>

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