調達・購買に必要な業界分析 #3(牧野直哉)

前回は、いわゆる一般的な業界分析と、調達・購買部門がおこなう業界分析の違いについて述べました。今回は、調達・購買部門における業界分析を、もう少し詳細に確認します。



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上図の赤線で囲んだ部分が、現在の自社と発注するサプライヤで構成された自社にとっての「業界」です。前回の最後に「関係性のある企業の情報入手を試みるとしました。「関係性」とは、次の3点です。

1.既に購入しているサプライヤ

この関係性への言及は不要ですね。購入するために、サプライヤの実態の確認を試みて、企業としてのデータも入手しているはずです。これまでおこなってきたサプライヤマネジメントの実効性を確認します。

2.自社とサプライヤの「周辺」に存在する企業

サプライヤとともに、自社の競合企業も含まれます。現時点では、関係性はありません。しかし将来的に関係性を構築する可能性として、次の3点のポイントで企業の存在を確認します。

①業種

自社あるいは、サプライヤの業種と同じ業種の企業を確認します。例えばインターネットで業界名をキーワードに検索すると、該当する企業が判明します。判明した企業からすぐに購入可能かどうかは不明ですが、この段階では「あぁ、こんな企業があるんだ」のレベルでOKです。

②地域

①の検索では、たくさんの企業が検索結果にヒットするはずです。次は業界名+地域名で検索してみましょう。地域名は、自社やサプライヤと同じ都道府県を入力します。これは絞りこみ作業になります。

③顧客

上記2つで判明した企業を、更に「サプライヤの顧客=自社の競合企業」との観点で、絞り込み検索してみます。同じ業種で、自社の競合企業を顧客にもつ企業は、潜在的なサプライヤである可能性が高くなります。

3.自社と現時点では関係ないサプライヤ

上図の左下の部分です。これまでにおこなってきた検索と絞りこみ作業では関係性や、その可能性を見いだせなかった企業です。いやいや、そんなの雲をつかむ話じゃないかとおっしゃるかもしれません。しかし近年では、この連載の第一回で御紹介したレコード・CD業界におけるAppleのように、従来全く競合ではなかった企業で、サプライチェーン的にも上流と下流で役割分担をおこなっていたような会社が競合となる事態が、多く発生しています。また、次のような企業がプレーヤーとして参加する業界があります。どんな業界かおわかりになりますか?


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これは人工知能(AI)の業界です。かつての優良企業から、現在のトップ企業までさまざまな企業が、人工知能における覇権をねらって研究開発をおこなっています。各社とも、現事業の発展に人工知能の技術が有効だと考えられているため、従来の業界分類では、さまざまな業界の企業が、同じ人工知能業界を構成しているのです。人工知能は、新技術/新商品であり、大いに期待できる技術かつ、さまざまな用途に活用できる商品展開が可能であり、様々なリソースのバックボーンをもつ企業が登場するのです。

そして、こういったケースの場合は、各社の戦略の違いに注目します。現在の事業内容+新技術=何を生むのかがポイントです。まだまだどこが主導権を握るかはわかりません。今後の各社の開発競争の成否によって、勢力図は大きく変わるでしょう。また、各社の展開も自社開発のみならず、提携・買収といった手段で競争を有利な展開を画策するはずです。こういった業界は、来年は全く異なる企業で業界を構成している可能性が高くなります。

自社を中心にした周辺と、従来全く関係のなかった部分まで目を配るのが業界分析としました。現代の業界分析をおこなう目的は、従来の業界を撃ち破る「破壊者」の存在確認です。企業は日常的な競争にさらされています。調達・購買部門でも、いったい誰と競争しているのか。そして、競争状態をどのように活用するのかを、常に意識して業務を進めなければなりません。ポイントは2つです。

まず、業界の外から突然やって来る「破壊者」です。従来、業界構造の変化は、業界内の企業の行動によって引き起こされていました。しかし、昨今の業界再編は業界の外の企業による「多角化」によって引き起こされます。しかし、業界外にある企業が、突然大きな力をもって、自社の脅威にはなりません。新たな展開がかいま見える瞬間があり、その動きに自社がどう対応するかがカギです。自社の事業展開にどのような影響を与える可能性があるのかを見極めて対処します。

新たな脅威の出現に、過去の「業界」の理解だけで対処は困難です。自社とサプライヤで構成する業界では「どう活用するか」の視点が必要です。筆者が担当している業界でも、次のような動きがありました。


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これは、M社で購入している航空宇宙関連製品の部品供給に関する発注先です。材料から加工法まで、細部にわたる検討と確認を要します。価格よりも、精度や機能といった品質が優先される世界です。各種金属材料から削りだして生産していました。しかし、新たに「3Dプリンター」が登場し、試作段階では新しい設備を導入した鋳物製造業者C社の参入が可能になりました。現在進行形でA社、B社の発注量に大きな影響はでていません。両社ともまだ騒ぐほどではないと認識している段階です。しかし、鋳物メーカーC社の今後の取り組みによる改善で、A社とB社にとって大きな脅威になる可能性を秘めています。

自社にはA社とB社とともに、これまで取り組んできた品質確保に代表されるノウハウがあります。そういった自社のリソースをC社に提供して、自社にとって都合の良い脅威の育成をおこないます。

調達・購買部門における業界分析のポイントをまとめます。

1.業界分析は
「営業視点」
「調達・購買視点」の2種類あり、どちらも調達・購買部門で活用可能

2.業界分析の切り口は、まず既存サプライヤの集合から
関連性のキーは①業種 ②地域 ③顧客 の3つ

3.調達・購買部門でも意識すべき破壊者
調達・購買部門では、破壊者は恐れるのではなく、既存サプライヤの牽制(けんせい)に活用し、すべて自社の優位性獲得へ貢献を目指す

調達・購買部門で業界分析とは、少し違和感を覚えた方も多いでしょう。しかし、サプライヤをどのように自社に都合良く競争させるかを考えるとき、これまで述べた分析による結果がなければ、適切な方法論は見いだせません。また、全く想定していなかった、競合企業の出現による脅威は、全社で対処すべき、企業の大きな課題です。これまで日本の電機メーカーは、この部分に対処できませんでした。各社とも、自社の強みを生かした生き残りを計っていますが、1990年代にひん死の状態だったAppleは、時価総額世界一にまで昇りつめました。皆さんの御勤務先でも、同じような成長は可能です。今後も、従来の調達・購買業務では、余り知られていない内容を述べてゆきます。

<おわり>

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