大量生産と少量生産の概念見取り図(坂口孝則)

現在、製造業で話題になっているものといえば、「インダストリー4.0」や「IoT」 あるいは「スマートファクトリー」などの新しい単語です。それを一言でいってしまえば、これまでの産業構造が大量生産から少量生産に切り替わり、かつグローバルで戦わなければいけない。この難題に対して様々な解決策が打ち出されてきたといえます。

さてそのときに製造業の将来をどのように考えればいいのでしょうか?

そして自社の行く道をどのように想定すればいいのでしょうか?

これまで議論が錯綜しているように私は思います。従ってそこでこのような概念図で整理してみました。これを使って皆さんの職場でも、次の調達・購買施策をどのように考えるのか議論していただければ幸いです。

ではこれを説明します。

すなわち今の状況は新しいのではなくて、昔の状況が先祖返りした状況だと思った方が良いのですね。

まず19世紀にほとんど大量生産というものはありませんでした。手芸工業という言葉がありますが、それぞれのお客様に対して一品一様の製品を作っていたのです。

くわえて、例えば米国で見てみましょう。米国は200年前まで70%の労働者が農業に従事していました。すなわちサラリーマンはほとんどおらず自営業者が大半だったわけです。そこから米国は工業化社会の道に歩みだし19世紀の設備の進展を得て20世紀の大量生産の時代に突入します。

なお、日本の工業社会の到来というのは100年前に考えて良いでしょう。なぜならば、このころ、海を隔てた米国ではテイラー主義というものが勃興し、科学的管理法が確立されました。これは労働者という人間を機械のように扱おうとする初めての試みでした。

それに対して日本では山縣有朋が、それまで農民ばかりだった日本人を、教育によって工場労働者に変えようという試みをはじめました。例えば代表的なものは、なんば歩きの矯正です。ナンバ歩きとは右手と右足、左手と左足を同時に出しながら歩くやり方ですが、100年前まで日本人はその歩き方をすることが大半でした。

したがって時代劇などを見ると今の歩き方とほぼ同じ動きをしていますが、あれは大間違いなわけです。そもそも今の歩き方をしているということを疑わないこと自体が、工業化社会が骨身にしみていることの証拠でもあります。

さてそこから、広告会社の博報堂は大衆から分衆・群衆という言い方をしましたが、個別のニーズにマッチしたような生産活動が高まり、そこからマスカスタマイゼーションやBPO(ボトムオブザピラミッド)と呼ばれる低所得者向けのビジネスに進化していったわけです。

これを考えるに面白いのは、マスカスタマイゼーションというのは冒頭とでも申しましたとおり、昔の産業構造に近いことをやっているわけです。昔は一品一様だったものが設備の制約によって出来なかった。それを今回、設備の制約が外れることによって、マスカスタマイゼーションが実現できるようになったわけです。

ここで重要な指摘は、特に先進国の中で日本というのは、一品一様の文化があまりにも強く、それはいまだに浸透している点です。

例えばある学者の説では日本人の残業時間が多いのは顧客カスタマイズがあまりにも徹底しすぎていることです。例えば同じ工業大国であるドイツはほとんどカスタマイズはやりません。従ってお客様に自分の仕様を強制するというスタイルをとっています。

従って残業時間は少ないけれども、さほど生きやすくは無い国です。日本は非常に残業時間が多い一方で、すごく暮らしやすい国になっています。私がよく指摘している通りアパレルの領域などを見てみると、日本は1950年代や60年代においても主婦のミシンの使用比率が先進国と比べても高く、衣類を作るという発想がもともと主婦に備わっています。

買うのではなく作る。これはおそらく日本のこれからの産業の競争力を考えるにも非常に大きなヒントになるでしょう。

<了>

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