バイヤー現場論(牧野直哉)

6.災害に遭遇したとき

日本は、毎年さまざまな地域で大きな天災が発生しています。昨年は関東で洪水、今年は熊本で地震や火山が噴火しました。自然災害は必ず起こり、自分や家族に被害がないのは、たまたま、全く偶然だと考えるべきです。いずれ誰の身にも降りかかる災害に、自分や家族の身は、自分達で守る意識を持って、想定した準備が必要です。社内でも、サプライヤ=社外からの来訪者を日常的に多く受け入れている調達・購買部門です。業務時間中に災害に見舞われる可能性が高まった段階と、実際に災害に見舞われた場合を想定して、社内に残っているサプライヤ担当者への対応策を検討します。重要なのは、初期動作に自社メンバーの安全確認とともに、来訪者であるサプライヤ担当者の安全確認方法です。

①来訪者を含めた動静確認

皆さんの勤務先には、一日平均すると、どれくらいの来訪者がいるでしょうか。時期によって多少もあるでしょう。業務時間中に地震に襲われた場合、自社社員の安全確認はおこなうはずです。加えて、来るべき事態への準備として避難訓練をおこなって設定された避難場所に一時的に退避して社員の安全を確保するでしょう。そういった非常時の行動マニュアルに、サプライヤからの来訪者の対応は含まれているでしょうか。社内の工場や事務所のある社屋に被害があった場合、社員だけではなく、サプライヤの担当者が巻きこまれている可能性もあります。サプライヤの来訪者も、調達・購買部門ではなく他の部門で打ち合わせをおこなっているかもしれません。調達・購買部門で避難が必要な状況で、来訪者にどうやって安全を提供するのかを含めて事前の準備をおこないます。従業員の安否確認とともに、来訪者の安否をどのように確認するか、その方法を明確にします。

②社員と同じように扱う姿勢をもつ

緊急時、企業では自社内の安全とともに、通勤経路の安全確認をおこなって、社員を社内にとどめるのか、業務時間であっても退社を認めるのかを判断します。一時的に社内にとどまる場合、来訪していたサプライヤの担当者にも、社員と同じように対処します。社員には、自分の席がありフロアがあります。サプライヤには、一時的に社内用の会議室を開放して待機場所とします。また、交通機関のマヒによって、社内での待機を余儀なくされた場合は、社員と同じく飲料水や食糧を提供します。こういった準備をおこなうには、一日当たりの平均的な来訪者数の掌握は非常に重要です。最近では、来訪記録がデータとして残っている企業も多いでしょうから、調達・購買部門のメンバーに加えて、平均的な来訪者の人数を含めて、緊急時の必要アイテムを確保します。

自社が災害発生時にどのように対応するかを説明する資料を作成し、事前に準備した内容はサプライヤに配布してもいいでしょう。打ち合わせ開始時に非常口の確認をおこなうといった、極めて短時間でできる防災意識の啓発も有効です。日常的なサプライヤへの配慮が、自分達の防災意識の向上にも影響します。突然やってくる災害には、平常時の準備が有効です。来訪されるサプライヤと一体的な対処を心掛けましょう。

③来訪者の判断を尊重する

当面の危機的な状況が回避されて安全が確保されて以降は、来訪者の意志を尊重します。自社従業員ではないので、自社の判断と、来訪者の判断が異なる場合は、相手の意志を尊重します。ただし、周辺の情報はできるだけ的確に提供するとともに、保護してほしいとの申し出には、社員と変わらない環境を提供します。

サプライヤの来訪者は、自分たちの無事を所属元や、家族に一刻も早く伝えたいとのニーズを持っているはずです。自社では同じタイミングで、さまざまな情報収集をおこなっているはずです。個人で携帯電話やインターネットへの接続手段を持っているケースが多いですが、通信手段のシェアや電源の提供も考慮しておこないます。そういった非常時にサプライヤへ配慮できるかどうかは、日常時に討議をして決めておく必要があります。自社の従業員や、サプライチェーンの現状をどのように確認するかと同時に、自社を来訪しているサプライヤへの対応内容もあらかじめ決めておきます。

④熊本地震からの教訓

今年4月14日、16日に相次いで震度7の地震に見舞われた熊本県。今回の地震では、家屋や工場、道路や橋りょうといった建造物の大きな被害が印象的でした。地震発生後に工場稼働を停止した自動車メーカーへ、部品を納入しているメーカーから「「(被災した工場から)金型を取り出すのに時間がかかったのは反省している。今後は(復旧までの)リードタイムの短縮に取り組みたい(4月28日付日本経済新聞)」と発表されました。まさに産業界に影響した建物被害を象徴しています。

現在でもGoogleで熊本地震を画像検索すると、熊本城や瓦屋根の住宅の一階部分が押し潰されている写真を多く目にします。建築当時の建築基準法の内容によって定められた耐震基準が異なっているためです。

耐震基準には、1981年5月までの旧耐震基準と、1981年6月以降の新耐震基準が存在します。旧耐震基準は「中規模(震度5強程度)の地震動でほとんど損傷しない」検証をおこなうとされ、新耐震基準は「大規模地震(震度6強~7)で倒壊・崩壊しない」検証をおこなうとされています。旧耐震基準から新耐震基準へ変更されるきっかけは、1978年に発生した宮城県沖地震です。新耐震基準も、1995年の阪神・淡路大震災の発生により、木造住宅の仕様規定が追加された2000年基準になりました。

自社やサプライヤの建物が、いつ建築されたのか。これは、実際に完成したタイミングではなく、建築確認済証の交付日が1981年(昭和56年)6月1日以降であるかどうかを確認します。このページには、被害の大きかった益城町における耐震基準と倒壊した建物の割合を公表しています。

・旧耐震基準による建物702棟のうち225棟が倒壊(32.1%)
・新耐震基準による建物1042棟のうち80棟が倒壊( 7.6%)

報告書では、鉄筋コンクリートや木造のケースでの詳細な分析がおこなわれています。こういったデータを参照すれば、サプライヤの建物の建築時期確認の必要性はご理解いただけるはずですね。新耐震基準か、旧耐震規準だけで良いのです。建物の倒壊可能性は異なるし、倒壊した場合の被害もちがうはずです。災害が起こった場合に想定されるリスクの掌握をオススメします。

 <つづく>

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