バイヤー現場論(牧野直哉)
5.電話をかけるとき/電話をうけるとき
日常的に使用する電話は、離れた相手とコミュニケーションをおこなう手段です。しかし、相手の姿が見えず、置かれた状況がわかりづらい状況でおこなわれるコミュニケーションであり、使用には注意が必要です。いまさら電話のかけ方?ではなく、当たり前の手段だからこそ、効果的に活用する術を学びます。また、電話でおこなわれるコミュニケーションの多くは、記録に残りません。この点が、後々言った言わないの思わぬトラブルの源にもなります。そういった電話でおこなうコミュニケーションの特徴を正しく理解します。電話をより効率的に活用する方法論は、次の三点です。
①電話で話ができるかどうかを確認する
電話は、相手の都合お構いなしに、自分の都合だけで送話できます。まして、サプライヤーの顧客企業の担当者に当たるバイヤーからの電話は、営業パーソンにとっても優先度が高くなるはずです。しかし、そういった関係性に甘えて、自分の意のままに突然かつ、長時間、電話で話を続けて良いのでしょうか。
電話は、離れた場所にあっても直接コミュニケーションが実現する非常に便利なツールです。一方、現在一般的な電話は、相手の姿が見えません。したがって、相手がどのような状況で、電話を受けているかわかりません。オフィスであれば、何ら問題ないでしょう。しかし、相手の置かれた状況によっては、長電話や、電話使用に注意しなければなりません。
例えば、日常ではなく、何らかの災害の発生を想定してみます。大きな災害が発生し、被害を受けた地域に取引をしているサプライヤーがあるとします。一方、バイヤーの勤務地には被害がない、若しくは軽微な場合です。バイヤーからすれば、自社へ納入が継続されるのかどうかがもっとも気になります。そこで、サプライヤーの営業パーソンへ電話します。まず、第一声で何を話すべきでしょうか。災害に襲われた地域には、電話がかかりにくいなかで、電話がつながったらどうするか。
「××さん、ご家族含めて大丈夫ですか?今、電話で話せますか?」
まず、相手へ配慮する姿勢を伝えます。重要なポイントは、間違っても「明日の納品、大丈夫ですか」などと聞かない点です。もちろん、バイヤーにとって自社の被害がない、あるいは軽微であれば、気になるのは明日の納品かもしれません。しかし、電話の相手は、置かれた状況が分からずに途方に暮れていたり、最悪の場合は、身の危険にさらされていたりします。そういった相手への配慮は、非常時にはもちろん、日常でも重要です。電話の相手が、外出している、営業パーソンはそういった状況も多いはずです。電話の冒頭に会話して良いかどうかを確認して、電話の受け手の状況を確認し、かつできるだけ短く切りあげます。
②準備して電話する
できるだけ短く、効率的に話を済ませるために、電話をする前に「準備」をします。電話する前、手元のメモに、電話するに至った要件のポイントやキーワードを書き出します。そして、これがポイント。「他に何かないかな」と思いを巡らせ、思い付いた内容もメモし、相手に伝えます。どんなサプライヤーにも確認すべき内容は多岐に渡ります。例えば、最近の納期遵守率や、良品率は、定期的にデータ化しているバイヤー企業も多いはずです。そういったデータに何らかの変化がある場合は、合わせて伝えます。また、伝える内容が多くなる場合は、確実な情報伝達を実現するためにも、まずメールを送った上で、優先順位や回答期日を伝えるために電話を使用します。
メモに残す、あるいは伝えた内容をメールで送るのは、後々の言った言わないで起こる「もめごと」の回避にも役立ちます。バイヤー自身のタスクリストにもなります。「電話しよう」と思いたった機会を、相手とコミュニケ-ションをとるだけでなく、タスクの進ちょく状況の確認や、対応する優先順位の見直しの貴重なタイミングとして捉えます。電話で会話をしている最中、あなたと電話の相手の双方の時間を専有しています。せっかくの機会が生む効果を、二倍にも三倍にも有効に活用します。
③主な意思伝達手段にはしない
相手の時間を専有したり、状況が分からなかったり、電話でのコミュニケーションは、さまざまなリスクを持っています。パソコンやスマフォも、メールを使えば、相手に自分の意志を確実に伝えられます。メールやFAXは送信日や送信内容が残るのが、最大のメリットです。しかし、いますぐに確認したい、知りたいとの欲求に答えてくれる便利なツールであるのも事実です。電話のメリット、デメリットを正しく認識して、デメリットをカバーする取り組みを合わせて実行します。ビジネスの意思疎通で、相手の都合を考えると、ベストな手段はメールです。合わせて電話も補助的な手段として合わせて活用しましょう。
<つづく>