「持続可能な調達」を最低限正しく理解する 16(牧野直哉)

前回に引き続き「持続可能な調達」を実践するために必要な具体的な9つの取り組みについて述べます。

3.人権侵害やハラスメントの通報・相談ができる体制にある

本来的に企業で雇用される従業員にまつわる問題は、企業内でまず解決への取り組みが行われるべきです。雇用条件に関する問題であれば、直属の管理者や上司に話をしたり、社内の人事部門に相談したりします。そのような取り組みの中で、解決が図られないからこそ、不利益を被っている従業員が外部に訴え、問題の内容が基本的人権にまつわる話であり、企業にブランド力やネームバリューがある場合には、従業員への不適切な対応が社会的に問題視される構図なのです。

したがって、まず社内で起こった問題を社内で解決するために、問題点を上司や人事といった通常の組織以外に、適切な窓口を設け対応体制の整備が必要です。さまざまなハラスメントの問題に、社内で組織構成とは独立した「相談員」を設置するのが典型的な対応です。また、従業員が会社に訴えることで、訴えた従業員に対する不利益はもちろん、従業員が所属する部門やその上司にも不利益が発生しないような対応が重要です。もちろん、問題によっては上司の対応に是正を求めるケースもあるでしょう。しかし、相談窓口の対応は、会社や従業員のどちらかに偏って対応するのではなく、フェアーに対処して発生している問題や不利益を解消しなければなりません。

こういった「相談窓口の設定」は、前々回の記事でもご紹介しましたが、ファーストリテイリングが行っているサプライヤーの工場に設置した通報制度が、先進的なケースです。社内のみならず、サプライヤーの労働環境にも配慮した取り組みとして評価されます。サプライヤーの側からすると、社内の出来事に口出しをしてほしくないといった対応もあるかもしれません。しかし、アパレル業界ではそういった会社の垣根をとり払わないと、サプライチェーンにおけるブランド力の維持ができない共通認識があるために、サプライヤー含めて納得してこうた取り組みを実現させているのでしょう。

調達購買部門における一般的な取り組みとしては、まずサプライヤーに対して人権侵害やハラスメントが発生した場合、相談窓口や通報制度を整備しているかどうかを確認します。上司や、人事部門といった窓口だけではなく、職制と独立した窓口の整備が鍵です。その上で、サプライヤー訪問(監査)時に、そういった相談窓口や通報制度の存在を、わかりやすく社内に示しているかどうかについて、サプライヤー社内の掲示板や、社内を歩きながら確認しましょう。窓口を設置するだけで、その存在を従業員が知らなければ、窓口が存在しないのと同じです。この点は、設置と告知がバランスよく実行されているかどうかを確認します。

4.環境(地球温暖化、汚染物質、自然環境)に配慮する具体的な取り組みをおこなっている

このテーマは、次の4つのトピックが存在します。

(1)汚染の予防
(2)持続可能な資源の利用
(3)気候変動の緩和及び気候変動への適応
(4)環境保護、生物多様性、及び自然生息地の回復

テーマによって、それぞれ対応のセオリーが存在します。すべてのテーマに完璧な対応を求めるのが理想です。しかし、事業形態や企業規模によっても取り組むべきテーマ、社会的なニーズの高さは異なってきます。今回は、理想論ではなく。調達・購買の現場で活用可能な方法論を述べます。

まず、業種や企業規模にかかわらず必ず実行しなければならないポイントは、(1)汚染の予防です。地球環境の汚染源としては、日本では大気汚染、水質汚濁、騒音、悪臭、地盤沈下、土壌汚染、振動が「典型七公害」とされています。「典型7公害」でも、企業の立地場所によって基準も異なります。調達・購買部門がサプライヤーをチェックする際は、まず以下のホームページを参照してください。

環境法令.com 「簡単チェックシート」
http://www.kankyohourei.com/about/check.html

ご覧いただくと「全然簡単じゃないよ」と思われるかもしれません。理想論としては、こういった環境法令すべての適用有無を確認し、適用される法令の順守状況を確認するのがセオリーです。しかし、それも手間だとお感じなられる場合は、次の3つの質問をサプライヤーに行います。

①自社の事業運営もしくは、工場の稼働に適用される環境関連法令の種類を理解している。具体的に法令名を教えてください。
②法令順守を定期的にチェックしており、常に参照可能な状態になっており、提出か閲覧が可能になっていますか
③周囲からの問題点の指摘、クレームの対応窓口が指定されていますか?

この3つの質問を、サプライヤー評価の際に確認します。その上で、サプライヤー訪問時に、②について管理状況を確認すると共に、③について近年になにか内外から指摘を受けていないかどうかを確認します。

「(2)持続可能な資源の利用」と「(3)気候変動の緩和及び気候変動への適応」は、規模の小さなサプライヤーでは、なかなか自社で取り組む問題になりづらい内容です。このテーマのトピックスは、なんといっても二酸化炭素の排出量です。先進的な取り組みでは、再生可能エネルギーを活用した発電による電気を駆動源にして、工場を稼働させたり、物流に活用したりといった取り組みがあります。事実、大手のグローバルロジスティクス企業では、自社で電気自動車の開発を行ったり、燃料電池車の導入を模索したりといった取り組みが報告されています。このトピックスは、サプライヤーが株式を公開している=注目されやすいといった場合に、対応状況を確認してみます。

最後「(4)環境保護、生物多様性、及び自然生息地の回復」ですが、このトピックスは、(1)~(3)の順守を適切に確認すれば実現される内容も含まれています。もちろん、ISO26000や20400では、積極的な対応を期待されているのも事実です。そして、規模や業種に限らず、地球環境は関連性をもっており、ちょっと位なら大丈夫だろうといった考え方は慎むべきです。そのような前提にたっている限り、(1)~(3)の確認をまずおこなって、(4)への対応は将来的な課題とします。

(つづく)

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