宝くじの統計的解説(坂口孝則)

故・忌野清志郎さんは、宝くじを買ったとき、「どうせ当たらないぞ」と忠告を受けたのにたいし「でも、買わなきゃ当たらないでしょ」と応えました。名曲『宝くじは買わない』をヒットさせたあとのことです。ここに私は宝くじに惹かれる微妙な心理を見ます。

9月末に「オータムジャンボ宝くじ」が発売されました。10月23日に抽選が行われます。さて、この宝くじにはロトやナンバーズなどさまざまな種類があり、日本人のなかで1年に1回以上は購入する人口は5592万人にいたります。最高当選金額が引き上げられた関係もあって、宝くじ販売は伸びています。

ただし、宝くじは外れるのが当然のきわめて効率の悪い金融資産といえます。日本の法令で当選金額は発売総額の5割を超えてはならない、と定められています。実際に2013年度にはなんと9444億円の宝くじが売られ、その46.5%しか還元されていません。これは他の公営ギャンブルと比較しても劣った数字です。1000円とすると、465円のみ戻ってくる計算で、それは保険の還元率と相似します。

宝くじの購入者は一様に「夢」を語りますが、たとえばジャンボ宝くじの5万円の当たりも確率は5000分の1ですし、300円も確率は10分の1ですから、まともな確率計算ができれば購入対象とはなりえません。さらに1等は1000万分の1にすぎません。私は忌野清志郎さん率いるRCサクセションのファンで、日比谷公会堂で演奏された「ヒッピーに捧ぐ」に号泣しました。日比谷公会堂でいうと、収容人数2000人なので5000回のライブをしたとして観客一人が当選するにすぎません。わかりにくいでしょうか。28歳から38歳までの結婚適齢期の男性は約1000万人いますが、その一人しか当たらないルーレットがあるようなものです。もっとわかりやすくいうと、1989年当時、新日本プロレス初の東京ドーム大会が開催されましたが、その観客54000人が185回の興行を繰り返してやっと一人が当たるレベルです。いや、あのときの獣神ライガーはかっこよかったですね。

宝くじに大当たりしたひとたちを追跡すると、その多くが浪費のうえそれまでの生活に戻っていたり、あるいは事業などを始めて逆に借金を抱えてしまっていたりしている、といくつかのアメリカの調査は語ります。いっぽうで、億万長者の特性を調べると、平凡な共働き夫婦が多く、コツコツと預貯金を重ね、資産が100万ドルを超える豊かな老後を迎えるにいたったとされます(書籍『The Millionaire Next Door』)。真面目に働く、支出を抑える、お金を貯める――。どうも凡庸な結論にこそ真実がありそうです。

ところで、この話を書いているときに、我が家では子どもが大きくなりなにかとお金がかかるようになったため、妻から家に入れるお金の増額を依頼されました。いや、正確には脅迫に近い形相で、獣神ライガーかと見間違えました。どうするか……。悩んだ私は宝くじを買ってみることにしました。いやいやこれも原稿執筆取材の一環です。確率的にはトクしないとは思いますが、まあ、買わなきゃ当たらないでしょうから。

 <了>

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