ほんとうの調達・購買・資材理論(牧野直哉)
●4-10サプライヤマネジメントに必要な総務部門との良好な関係
総務部門は、従業員の働きやすい環境整備を行い、業務上の支障を減らすための各部門へのサポートが主な業務です。調達購買部門と総務部門の関係ということで、少し疑問を持たれた方もおられるでしょう。しかし、広い業務範囲を持つ総務部門だからこそ、調達購買業務ともさまざまな関連性を持っています。サプライチェーン上でつながりのある部門ほどの密度ではなくとも、良好な協力関係の構築が必要です。
☆法務関連機能との連携
サプライヤからの購入は、契約をもとにして行われます。基本的な契約内容を調達購買部門で作成した場合、契約内容が、民法や商法その他関連する法規に抵触しないかどうか、最終的には法務部門での確認が必要です。大企業では、独立した法務部門を持っています。組織として独立していない場合は総務部門に法務機能があるはずです。いざ、サプライヤと契約する段階になって、あわてて契約内容の法務的な確認を総務(法務)部門へ依頼するのではなく、確認に要する時間を踏まえた業務プロセスを構築します。
また近年では、従来から存在する法規制に加え、新たな法律が登場しています。新たな法律には、①調達購買部門のみで対応するもの ②全社的な対応を要するものに分別されます。米国SOx法に関連したJ-SOx法への対処は後者となり、調達購買部門のみならず全社での内部統制を確立し、正しい財務データの提供を担保しなければなりません。一方、日本企業では直接的に課されるケースは少ないと想定する紛争鉱物規制の問題は、総務(法務)部門を経由し専門家のアドバイスを得ながら、調達購買部門主導で対応しなければなりません。
また、法律だけでなく、CSR観点からのグリーン調達や、持続可能性の担保といった課題は、全社的に推進する課題です。調達購買部門の対応は、サプライヤと協力しておこないます。推進に際しては、その内容を法務部門と共有しておこないます。
☆社内設備管理・什器購入へのサポート
総務部門は、自社の建物や社内設備の管理責任を持っています。建物の維持管理や設備に関連する購買は、仕様が汎用的であるため、競争原理を導入しやすい領域です。一方調達購買部門が、価格のみでサプライヤを選定し、十分な効果が得られない、あるいはトラブルが発生した場合、ユーザーである調達購買部門も含めた従業員の業務遂行に影響がおよびます。
したがって、総務部門はコストよりも確実な実行に軸足を置き、実績のあるサプライヤを選定する傾向があります。ここでは、調達購買部門の責務であるコスト削減と、安定した業務の遂行のバランス感覚が重要です。調達購買部門は、総務部門の要求内容を実現できるサプライヤを複数揃え、競合環境を整え購入価格の低減を画策します。同時に、総務部門に対して、ニーズの明確化=仕様書化を働きかけて、競合の実現を進めます。
☆防犯・防災対策での協力体制
調達購買部門には、多くのサプライヤの担当者が訪問します。大きな災害が発生した場合の来訪者への対応手順も、総務と一緒に検討し確認しておきます。商談スペースや、会議室、応接室からの避難経路の確認や、誘導方法の社内周知なども、総務部門と共に準備を進めます。同時に、企業としてのBCP(事業継続計画)の策定も、総務部門でまとめている場合が多くなります。総務部門から企業として事業継続の考え方を入手し、調達購買部門でサプライヤを巻き込んだ事業継続計画を策定します。
また、調達購買部門は、購入に必要な仕様書や、図面といった機密に該当する情報をサプライヤへ提示する機会が多くなります。また、サプライヤの担当者の、社内への立ち入りも多くなります。総務部門とは、サプライヤとの間で想定されるさまざまな場面での情報管理のあり方について、アドバイスを受けて指針や対応方法を決定します。社内全体の情報管理に関する考え方があって、その遵守をサプライヤとともに構築するためにはどうすれば良いかを考えるのが調達購買部門の役割になります。
例えば、近年多くの企業で一般化している機密保持協定も、調達購買部門ではサプライヤとの間で締結します。しかし、企業内からの情報の出口は、調達購買部門に限らず、さまざまな部門や場面を想定して、総合的に情報管理状態を担保する必要があります。例えば、サプライヤに見積依頼をおこなう場合も、仕様書や図面に代表される社内情報を社外に提示します。調達購買部門で管理し、厳しい規制をおこなっても、社内の要求部門から調達購買部門のあずかり知らないところで社内情報が流出する可能性があります。そういった意味で、調達購買部門からみて総務部門の取り組みに不足部分があるばあいは、対応推進を申し入れましょう。
(つづく)