ほんとうの調達・購買・資材理論  緊急論考~日本のものづくり力について(牧野直哉)

先日、相次いで聞いた2つの話。内容はこのようなものでした。

1. 量産力の衰退

一部の地域(中部地方)を除き、製造業の「量産力」が低下している。量産する顧客が少なくなったのが先か、対応できるサプライヤーが少なくなったのが先かは不明。しかし、量産段階になって、品質維持のできないサプライヤーが多い。

2. 長期契約を希望するバイヤー企業に対応できない、思考停止サプライヤーの存在

当初数量を提示し、将来的に10年~15年間、生産数量は5年目以降、当初数量の3倍になる見積依頼をおこなったが、明確に10~15年先までの計画を提示できるサプライヤーが、日本では極めて少なく、単年度契約を前提とした見積提示しかできない。

この二つの話を聞いて、残念ながら私も納得せざるを得ませんでした。まず「量産力衰退」は、新しいサプライヤーを開拓する際、金太郎飴の様に「多品種少量」「短納期」「低コスト」という3点をくり返す営業パーソンばかり。具体的にどのように成立させるのかを質問すると、ほぼ「気合い」しかない精神論を展開します。また「長期契約への思考停止」は、10年と言った長期的な契約を締結するために必要な手立て、あるいは見積書を作成するための具体的な方法を知りません。明確な数量が提示されているわけで、前提条件としては、経営に関するあらゆる方面に思いをめぐらせることができるはずです。これは企業経営をどのように進めるかが問われる事例です。しかし、サプライヤーの反応は、単年度契約の積み重ねか、もしくはよくわからないリスクをなんでもかんでも盛り込んだグローバルマーケットでの競争力のない見積です。ちなみに、2つめのケースには後日談があります。あるグローバル企業で、将来確実に増大する需要と、顧客のコストダウン要求に答えるために、内外作比率 8:2を 内作2:外作8へと、購入比率を拡大するための新規サプライヤー開拓活動を全世界的におこないました。アジア太平洋地域では、日本をはじめとして、台湾、中国、韓国、他のASEAN諸国まで約300社のサプライヤーをチェックしました。最終的に、技術力、品質管理能力で残ったサプライヤーは、20社あまり。1社の台湾企業を除いて、他はすべて日本企業でした。

しかし、技術力や品質管理能力で勝ち残っても、次の段階でふるい落とされつつあります。このケースでは、実際に日本でなく、他の地域のサプライヤーへの発注が決まりつつあります。果たして日本企業に欠けていたものはなんでしょうか。

かつて「良いモノを作れば売れる」といったことがいわれていました。事実、私が勤務していた企業でも、技術系出身の幹部が「良いモノ」づくりを志向し、良いモノさえ作れば、あとは自然に売れていくかの如くに語られていました。これは、ある側面では正しいですね。卓越した機能、デザインと、適正な売価を設定すれば、欲しい人が群がって買いにきてくれることも、可能性としてはゼロではありません。しかし、良いモノが存在することを消費者が知らなかったらどうなるか。どんなに優れた素晴らしい良いモノであっても、世の中にその存在が知られていなければ、売れるはずもありません。

モノを設計し、実際に企業内で製造をおこなうのは、技術部門の設計者だったり、製造部門だったりします。では、設計部門と製造部門だけで製造会社として成り立つことができるか。答えはノーですね。近年のヒット商品と言えば、Apple社の製品でしょうか。私が申し上げるまでもなく、Appleには製造部門がありません。しかし、良いモノを設計し、製造こそ外力を活用していますが、世界中に製品を販売しています。

日本企業に欠けているもの、それは製造を直接的でなく、間接的に支える企業内機能の軽視です。例えば、冒頭に登場したケースで、日本企業に欠けていたものは、経営力です。具体的には、一定期間における製造ノウハウの維持に必要な、リソースを確保しつづける計画を立てることができないのです。これは、MBAの世界でいうところの、ファイナンス理論の基礎の部分です。企業内では、経理・財務部門が、原価管理や資金管理(資金繰り)以外の機能を持っていないことで、10年~15年の確定した仕事を失ったのです。先が見えないことを嘆きつつ、見ることができた先には対処する術を持たない、それが技術面、品質管理面で優れたとされる日本企業の姿です。

企業によっても、製造が強かったり、営業が強かったりといった、部門の持つ力の濃淡がありますね。メーカーであれば、設計や製造が社内で強い力を持つことが多くなります。我々が属する調達購買部門が強い企業ってありますか(笑)残念ながら、あまり耳にしたことはありません。企業経営にもっとも影響力を持つ調達購買部門になる必要はないんです。ただ、部門によって力を持っている度合い・濃淡は、できるだけない方がいいでしょう。バランスを取ることが、イコール各部門が対等に対峙できている証であり、企業経営に必要なあらゆる事象への取り組みが反映されるためです。

そして、振り返って考える調達購買部門。先に書いたケースでは、担当バイヤーが日本の技術力、品質管理能力の優秀なサプライヤーに、ファイナンス理論をベースにした見積作成方法を教えているそうです。サプライヤーの、営業でなく社長や経理部門の担当者と打ち合わせを重ねています。ものづくりの復権には、実はものづくり以外の機能とのバランスの良い企業運営ではないか。そこでの調達購買部門の役割は大きいはずです。そのためには、見積の作成方法を教えるバイヤーにならなければならない。みなさんは、向こう10年間で生産数量が3倍に拡大する製品の見積に必要な要素、わかりますか。

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