サプライヤーミーティングが危ない?!(牧野直哉)

2010年以降、日本の自動車部品メーカーが、アメリカ、韓国で、カルテルを結んだとして摘発されています。その罰金額は、もっとも多い例では矢崎総業の564億円。同社はグローバルで1兆5千億円(2013年度)を売上げているものの、罰金を科せられた米州では4511億円を支払い、同地域の売上げの10%以上を占めています。矢崎総業のみならず、日本の大手自動車部品メーカーが、これまで数十億~数百億の罰金を科せられ、すでにカルテルに関係した30名以上が米国の刑務所に収監されています。

グローバルマーケットにおけるカルテル排除の動きは、調達・購買部門にとって歓迎すべき側面もあります。米国ではカルテルを結んだ企業の顧客企業が、損害賠償請求訴訟を起こしています。こういった風潮によって、サプライヤー側の不法な結託を防止し、自由競争の元で調達・購買が可能となるためです。

一方で大きな問題点もあります。カルテルを助長する商慣習として、サプライヤーミーティングや、サプライヤーを一堂に会した懇親会の開催が指摘されている点です。サプライヤーミーティングや懇親会が、同業他社との接触を助長している、いうなればカルテルの温床と見なされてしまうのです。

過去に開催したサプライヤーミーティングで、こんなことがありました。同一カテゴリーの競合関係にあるサプライヤーを複数社招待しました。あるサプライヤーの担当者は、懇親会の間、ずっと黙っているのです。最低限の相づちをおこなうのみ。いったいどうしたんですか?と尋ねると、同業他社がいる場所での会話は、社内規定で禁止されていますとのこと。2005年世間を騒がせた橋梁(きょうりょう)談合事件の後でした。当時、私は「少しやり過ぎではないか」との印象を持ちました。しかし、私の持った印象が今、グローバルでは訴追される可能性を持っているのです。

このメルマガでは、「サプライヤーミーティングの開催方法」についてお伝えしました。(69号、70号、有料会員のかたは、バックナンバーをご参照ください)サプライヤーミーティングには次の3つの開催方法があります。

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この3種類の開催形態は、自社(バイヤー企業)都合によって決定しています。どういった情報をサプライヤーに伝えるのか。どういった関係性を、どこのサプライヤーと構築するのか。同業他社との接触によって生じるカルテルのようなリスクに配慮していません。主な開催方法は、同業他社が同じ会場に集う可能性が高いスタイルです。

これからサプライヤーミーティングを開催する場合、同業他社を別々に召集し、複数回開催するといった配慮、具体的には一堂に会するのでなく、よりサプライヤー個別に対応するスタイルが必要になるかもしれません。サプライヤーミーティングとは、そもそもサプライヤーへ自社の事業状況や、将来見通し、具体的な要求事項を伝達する場です。であるならば、より自社(バイヤー企業)とサプライヤーの担当者間を基点として、購入対象の重要度合いによって、法人間の関係性を高めていくといった、個々のサプライヤーへの対応がポイントです。

サプライヤーミーティングの価値がなくなるのかと言えば、違います。サプライヤーミーティングはあくまでも手段であり、また別の方法を採用すれば良いだけです。今回の事例では、日本と海外の商習慣の違いといった理由はまったく聞きいれられませんでした。コンプライアンス(遵法経営)をおこなうには、どのように疑念を一掃しつつ、サプライヤーミーティングと同じ効果を、別の手段によって生みだすかがカギです。

サプライヤーミーティングのメリットは、自社(バイヤー企業)の主張を公式的なミーティングの場の発言による「重みづけ」「権威づけ」です。公式的な場での発言ですから、自社(バイヤー企業)でも十分な発言内容の検討がおこなわれるはずです。「公式」との意味では、文書でサプライヤーの然るべき相手への発信、代替案として想定できます。インターネットを活用したウェブカンファレンスといった手法も考えられるでしょう。

サプライヤーミーティングでも、別な手法を使っても、ミーティングでの発言だけ、あるいは文書、ウェブカンファレンスの場だけでは、サプライヤーに自社(バイヤー企業)の意向は届きません。同じ内容を、担当バイヤーなり、関連部門から繰り返しサプライヤーへ伝え、初めてサプライヤーの関係者が理解します。サプライヤーミーティングがあろうとなかろうと、日常業務の中でおこなわれるコミュニケーションは重要です。グローバルマーケットのカルテル摘発強化の影響で、サプライヤーミーティングの開催を見送るといった短絡的な判断でなく、自社(バイヤー企業)の意志を、どのようにサプライヤーへ伝えるのか。その本質的な目的を達成するための方法論を工夫して編み出さなければ、サプライヤーの活用、自社(バイヤー企業)事業への貢献は実現しないと肝に銘じなければなりません。そのためには、実はサプライヤーミーティングは、ミーティングの場よりも、事前準備であり、事後のフォローがはるかに重要であるとの事実を、今改めて再認識する必要がありそうです。その上で、サプライヤーミーティングを、開催方法を工夫して継続する、あるいは別の方法の採用を決定しなければならないのです。

<了>

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