The対談 2~日本製品が高品質は本当か?(ほんとうの調達・購買・資材理論事務局)
●明文化の限界
坂口:なるほど。じゃあ、「明らかにこれは仕様書を守ってないじゃないか」と。「規定を守ってないじゃないか」っていうケースはあるんですか?
牧野:仕様書上で定義されたものが、容易に検証可能なものであれば、指摘して修正させたり、作り直させたりすることができるんですけど、検証が難しいものっていうのは、いつも論争になりますね。
坂口:例えば?
牧野:溶接とか。ちゃんとビートが、保たれているかとかね。
坂口:その場合は、確かにその意味で言うと、溶接のそこまでを描いてる図面ってないと思うんですけども、その場合っていうのは、試作品は必ずチェックなさっているですか?
牧野:もちろん。
坂口:それはできているんですか?
牧野:試作品ではできている。品質の維持の考え方が異なるケースが多いんですよ。テクニシャンのマインドの問題なのか分からないですけれども、なかなか一定しない。だから、日本はすごいなと思うんですよ。
坂口:通常、日本人は「最初いいものを彼らが持ってきて、そのあと手抜きしてる」と思うんだけれども、僕はそこまで人間って分かりやすくない存在だと思うんですよ。実際はそれなりに真面目にやってるし、彼らもあえてそういうことで論争に巻き込まれたくないはずなんですよ。きっと。そうでしょ。だって、「これ、やったら日本人は騒ぐだろう。ざまあみろ、ハハハ」とか言って、100個とか1,000個作るやつって、なかなかいないと思うんですよ。だから問題は、仕様には載ってないんだけれども、これは常識的にやらざるを得ないよねっていう共同認識が、日本メーカーと中国メーカーは違うっていうことですよね。きっと。
牧野:そうなんですよね、そこまで煎じきって発注しないとダメってこと。
●追いつかれる日本
坂口:なるほど。でも、次回以降、不具合は起きないわけでしょ。牧野:突き詰めれば、そうですね。ただ、なかなかいばらの道ですけど。とはいえ、品質レベルが追いついている海外サプライヤって、すでに結構多いんじゃないかと思うんですよ。私も日本メーカーの調達活動をすべてを網羅しているわけじゃないので、あくまでも印象論ですけど。特に中国の場合は、「ビジネスの規模が3桁違う」んですよ。「中国のローカル企業を相手にするのと、日系企業、日本の企業を相手にするので、もう3桁違うから日本の企業は相手にできない」と、こうやってはっきり言われる……実際にiPhoneみたいな製品が実現しているのをみると、なおさらそう思う。だから、盲目的に国名を主語にして、品質が良いとか悪いとかを結論付けるのは、問題なんですよ。
●外観品質にこだわる日本
坂口:なるほど。ちなみにさっきの溶接の例でいうと、その溶接が違うことによって、製品の劣化スピードが速まるみたいなことを証明できたりするんですか?
牧野:証明できない。だからもうほんとに外観。日本人は見た目にこだわりすぎるとも言える。
坂口:なるほどね。じゃあ、製品的な物理条件は全部満たしているとすると、彼らからすると「そっちの趣味」と言われても仕方ないがないところがあるわけですか?
牧野:ただ、外観を非常に気にされるお客様は、当然中国にもいるはずなので。消費者が、どういったものを望むかっていうところの見極めが重要。むやみに、外観の高品質ばかり追求してもしょうがないんじゃないですかと。(笑)
●現地子会社と日本本社の品質は同一か
坂口:ところで、僕は世界各地に子会社をもっている企業で働いていました。外資系メーカーが不良品を生じてしまったとします。そのときに言われたのが、「でも、オタクのアメリカ拠点は、これで受け入れてくれてる」と。
牧野:そう、その通り。(笑)
坂口:かつ、同時に「世界均一品質を謳っているでしょう」と。「そうだね」と。「だから、世界同一品質を謳ったアメリカでこれを受け入れているんだったら、一緒じゃね?」って言われて、「それは一理あるわ」と思うんですよね。
そのときに必ず出てくるのが、「いや、日本の消費者っていうのはもっと厳しいんだ」と。「えっ、おかしいですね」と。「それ輸出車でしょ?」とつっこまれる。そうなんですよ、大半は。「輸出車だったら日本人関係ないじゃないですか?」みたいな。「いや、それでも一部は日本人が消費するんだ」という苦しい話をすると、「いや、それでもおかしいですよね」と。「なぜならば、アメリカから逆輸入しているじゃないですか?」と。そう言われると、俺も困るなあみたいな。ということは、最終的に残るのは品質管理担当者の違いだけじゃないですか。(笑)
牧野:そうですよね。確かに。
●インフラ更新問題から、爆買い現象まで
坂口:確かに。で、話はちょっと冗談めかしく話しましたけど、話を戻すと、1980年代にアメリカって公共インフラが今の日本みたいにガンガン崩れていったんですよ。それは原因は何だったかっていうとすごく簡単で寿命。大体50年周期でインフラって駄目になるんですけども、アメリカでいうと1930年代にインフラを大幅構築してるんですね。建設していて、ちょうど、50年後の1980年代に駄目になってきたと。で、それが何で僕は面白いかっていうと、日本のインフラができたのって高度成長期なんですよ。1960年代なんですよ。ちょうど50年後って今なんですよ。今、崩れてきているっていうのは、非常に示唆的な話なんですよと思っているんです。アメリカは税金を使って上手くやったと。でも日本って今、税金を使ってすべてやり直すって無理でしょ。
牧野:そうですね。
坂口:もう一つ言うと、例えば、中国人が日本で敢えて買うのは、日本で買ったら高品質だっていうのは確かにあるでしょう?
牧野:そうですね。
坂口:ただ、買う理由がね。高品質だからか、中身が本物だから安心できるからなのかはちょっと微妙ですけどね。
牧野:そうですよね。テレビとかマスコミを見ていると、中国は今、日本のことを目の敵にしていますけど、でも、一部の国民レベルではわざわざ日本に来て、日本の製品をたくさん買ってるのが不思議ですね。取り扱い説明書とか、商品に日本語表示があるものが、中国では理解できないけどステータスになってるとかいうのを聞くと、国家レベルと国民レベルのギャップを感じるんですよ。ギャップって、そもそもほんとうに存在するものなのか、それとも、マスコミにただ煽られてるだけなのか、どっちなんでしょうね。
坂口:それは微妙ですね。例えばなんですけど、日本人が「ルーマニアの国民ってどう思います?」って聞かれたら、大半は「いや、知らねえし、考えたこともないし、どっちでもいいよ」みたいな意見になると思うんですね。ただ、「中国は?」って聞かれたら、みんな何となく意見を持っているでしょ。端的に言うと、中国は近いから。もっと皮肉なことを言うと、中国がブラジルくらい遠くにあったとしますね。来ないでしょう、日本に。きっと。
牧野:来ないね。確かに来ない。
坂口:きっと来ないですよ。やっぱり近いからということでしょうね。でも、この前不思議に思ったのは、今、日本で最も商品を安く買えるのって、中国人なんですよ。なぜかっていうと、家電量販店に行ったら、ポイントつくでしょ。で、成田空港で8%免税申告をすれば、合計でポイント+8%引きで買えるんですよ。さらに中国のクレジットカードを使ったら追加で5%引きです。
牧野:なるほどねえ。
坂口:そうですね。だから、不思議な話だけど、それほどの経済的な恩恵があるんだったら来るでしょうねえ。
牧野:なるほどね。
坂口:僕はちなみに中国人は日本を嫌っていると思っていませんけどね。具体的にどんな質問をしているかによって全然答えが違うはずですし。僕が生身の人間として知っている中国人からすると、正直そんなことを日頃考えている人はいませんよ。日頃はみんな自分の生活に忙しくて、スーパーで何を買おうというのを考えている人がいても、敢(あ)えて日本人とは何とかって考えている人はいないわけですよ。
牧野:ですよね。普通に中国の方と話をしていても、あんな論調で議論をすることなんて、まずないし、意見の相違もないじゃないですか。そこはあえて避けてるというか話題に出さないっていう部分はあると思うんですけどね。
坂口:ちょっと話が違うかもしれないですけど、何で日本人って中国人が嫌いなんですかね? それが、いまいち、まだ実感として分からないんですよね。
牧野:それは、ちょうど今年70年になりましたけども、あの日中戦争の頃の明らかに中国人とか、朝鮮人っていうのを低く見てた……。歴史経緯な影響かと。私がすごく実感するのは、小さい頃最初に自分が持って撮影したカメラって普通にバカチョンカメラって言ってたんですよ。今は全然その言葉を使えないでしょう?
坂口:「チョン」っていうのはもともと朝鮮人って意味じゃないんですけどね(バケーションカメラの略)。だけど、これまた不思議なもんですけど、世の中多数の人はそう思って朝鮮人だって思ってたら使えなくなるでしょう。それは、実際、僕も使いませんしね。
<つづく>