ほんとうの調達・購買・資材理論(牧野直哉)

8.調達購買部門の納期管理

8-5積極的な在庫活用方法 ~在庫を「罪庫」にしない考え方

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在庫は、デメリットばかりが強調されています。ここでは在庫のメリットに目を向け、その可能性を探ってみます。

☆在庫ゼロを目指すべきか

必要なタイミングで、必要な量だけ購入するのは、バイヤー企業にとって在庫もゼロあるいは減少し、さまざまなメリットを生みます。企業の運転資金や、在庫管理コストの削減、キャッシュフローの増加によって、企業の財務体質の改善に大きく貢献します。しかし、ほんとうに在庫をゼロにすれば、メリットばかりでデメリットはなくなるのでしょうか。

在庫を削減しゼロを目指す取り組みは、多くの企業で取り組まれています。しかし、実態は一部の大手企業で実現しているに過ぎません。しかも、実現している大手企業を頂点としたサプライチェーン全体を見れば、流通段階、サプライヤー社内に在庫が存在しています。私が知る限り、多くの大手企業は、自社の在庫ゼロを掲げつつ、サプライヤーには原材料から完成品まで在庫が存在します。サプライチェーン全体を見たとき、決して在庫ゼロではありません。

闇雲に在庫ゼロを目指すよりも、まず在庫状況の掌握をおこない、その上で現状を踏まえた適正在庫量の算出と確保、その上で在庫削減し、段階を経て在庫ゼロを実現させなければなりません。在庫は「諸悪の根源」とばかりに、ただ闇雲に在庫だけを削減する活動には、むしろデメリットが多い、そしてそのデメリットは、調達・購買部門だけでなく、サプライヤーでも発生する事実を、決して忘れてはなりません。

☆在庫を納期短縮へ活用する

自社(バイヤー企業)の生産リードタイムと、顧客ニーズとの間に存在するギャップは、調達・購買部門とサプライヤーで納期短縮の取り組みだけでは解消しません。サプライチェーンのどこかに在庫は存在し、顧客ニーズと実態のギャップを埋める役割を担っています。

在庫ゼロを目標として推しすすめ、実際には存在する在庫を表面的に消してしまうよりも、在庫の存在を顕在化させ、適切な在庫管理をおこなうべきです。在庫は納期短縮に積極的に活用して、自社の優位性を確保します。

どのように在庫するか。それは、営業部門から販売見通しが根拠となります。将来的におこなう在庫削減活動でも、どのような基準で在庫を削減するかの判断は、営業による販売見通しをもとに検討します。在庫ゼロを目指し、欠品によって販売機会を失うのであれば、まず現時点における顧客ニーズのリードタイム実現に必要な在庫を確保すべきです。その上で、在庫削減活動をすれば良いのです。

☆在庫を災害発生リスクに活用する

2011年の大震災のときには、震災発生後にサプライチェーンが寸断され、その影響は日本国内のみならず、全世界に及びました。その後、被災地に所在するサプライヤーを除き、2か月後に供給は再開されました。2011年の震災から得た調達・購買部門の教訓の1つは、震災発生後2か月間をどう乗り切るかです。災害発生リスクに備え、購入品の在庫活用を検討します。

前回の震災後、適切に在庫管理をおこなっていた企業では、震災後の生産再開を比較的早期に実現しています。在庫管理の仕組みに加え、倉庫の耐震性、耐火性を考慮し、在庫負担もサプライヤーとのシェアを検討します。一方的に、サプライヤーに複数拠点の確保を申し入れたり、量産効果を犠牲にする複数社購買を進めたりするのと同じく、在庫確保も選択肢とすべきなのです。

<つづく>

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