連載「2019年から2038年まで何が起きるか」(坂口孝則)

*2019年から2038年まで日本で起きることを予想し、みなさまのビジネスに応用いただく連載です。

<2026年①>

「2026年若者マーケティングのキーは、SNSと愛国になる」
沈みゆく国の、しかし満足している若者たち

P・Politics(政治):若い低所得層の税負担軽減のため基礎控除枠が拡大。
E・Economy(経済):学生は仕送り金額が最低へ。若い社会人も消費支出を減らす。
S・Society(社会):逆説的に若い層の生活満足度はむしろ高まり、愛国的な傾向を見せていく。
T・Technology(技術):SNSなどがさらに発展し、ライフログを簡単に公開できるようになる。

残念ながら経済的には恵まれているとはいえない若者たちは、しかし、生活の満足度をあげている。消費支出はたしかに減っているものの、合理的な消費を行っている。SNSで日常をシェアし、そして愛国的な傾向を濃くする若者たち。彼らに必要なのは常時接続の人間関係のなかで「いいね」を得られる商品となる。

・現代に若者を語るということ

2026年には、ちびまる子ちゃん連載開始40周年、ウルトラシリーズ生誕60周年、仮面ライダーシリーズ生誕55周年、さらにはサザエさん生誕80周年となる。古典的作品の記念年だ。2025年はシニアビジネスをとりあげた。それと同時に考えてみたいのが、若者向けビジネスの動向だ。

私は1995年を、旧来的な日本システムが崩壊した年だと考えている。速水健郎さんは『1995年』という書を出しているほどだ。阪神・淡路大震災、地下鉄サリン事件、マイクロソフトWindows 95発表、『新世紀エヴァンゲリオン』のテレビシリーズの初放映。そして、バブル崩壊が決定的になった年――。私は当時、まだ17歳にすぎなかった。しかし、日本がふるえているのがわかった。

1996年をよくも悪くも、形を変えた日本元年とすれば、そこで生まれたひとたちが2026年には30歳を迎える。現在、就職活動をしている年代だ。

なお、ほとんどの読者が「共修(きょうしゅう)」という単語を知らないと思う。これは、技術・家庭科のような学校教育を男女いっしょに学習する意味だ。家庭科の男女共修は、1993年に中学で、1994年には高校で実施されている。この年代はゆえに、フラットな教育を受けた第一世代ともいえる。

・若者はモノを買わないか

よく「若者はモノを買わない」というけれど、ちょっと極端すぎると思う。巷の言論を見ると、若者がまったく物質を買わないかのような印象を受ける。ただそんなことはない。データうんぬんではなく、街中を歩いていると、じっくりと吟味して衣料を買う若者を見る。昔のようにセダンを買って彼女とデートする、というわかりやすい消費から、こだわって分野を特定し消費するスタイルに変わっただけではないか。

実際に、若者がモノを買わないのであれば、昔と比べて貯蓄率が何十倍になってもいいはずだが(生活費以外をすべて貯蓄にまわすスタイル)、実際にはそうなっていない。けっきょく、何かには使っているのだ。1か月あたりの消費支出の推移を見てみると、たしかに下がってはいる。

http://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_research/white_paper/pdf/2017_whitepaper_0004.pdf

それでもなお、「若者はモノを買わない性質になった」と断じたいひとがいる。とくに大学生は、モノに興味がないではないか、と。私は人間性の変化にあまり与するものではない。ただ、それがあるとしたら、原因は、たんに若者がお金をもっていないからだ。

東京地区私立大学教職員組合連合の「私立大学新入生の家計負担調査2016年度」によると、仕送りの額が右肩下がりにある。1994年度にピークをつけた124,900円から、2016年度85,700円まで急落している(http://tfpu.or.jp/wp-content/uploads/2017/05/2016kakeihutan-essence20170405.pdf)。

この日本では、半数の大学生が奨学金を含む借金によって学生生活を切り盛りしている。コスパ重視はしかたのない側面がある。

救済制度も拡大してきたものの、社会人になってからも奨学金が借金として重くのしかかる。行政は、正社員化の促進している。このままだと、若い低所得層の税負担軽減へ所得税の基礎控除も拡大していくだろう。

・とはいえ若者消費に特徴はあるか

仕事柄、さまざまな会社の社員と話す機会がある。そのなかには配属されたばかりの新入社員もいる。そこで、「最近の若者は」と論を展開したいところだが、そう簡単ではない。評論家のいうような一様な傾向などありはしない。実にさまざまだ。

とはいえ、現代の傾向からビジネスのヒントを得ようとすれば、次の三つが若者に特徴づけられる。

①金はないけど満足
②等身大のカリスマが好き
③日本が大好き

次回以降、これを説明していきたい。

<つづく>

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