緊急講義!サプライヤーの能力不足対策 2(牧野直哉)

サプライヤーの能力が不足する事態は、調達・購買部門だけではなく全社的な問題であり、早急な解決が必要です。そして「早急」とは、発生した結果で起こる悪影響を一刻も早く解消するだけではなく、できるだけ発生させない予防管理が極めて重要です。実際に発生してしまうと、生産能力の確保や納期遅延の解消には多大な負荷と、コストが発生してしまいます。それでは、具体的な予防管理の方法論について述べます。

●サプライヤーからのヒアリング

前回は公表されているデータから、現在の日本における稼働率、有効求人倍率は読み取って、サプライヤーの能力がどのような状況にあるのかについて確認方法を学びました。2つのデータから導かれた仮定は、企業における操業度は非常に高く、また人員リソースの確保にも苦労する企業の姿が浮かび上がりました。

そういったマクロのデータに加えて、今回は企業が置かれた調達環境について確認します。調達・購買部門はサプライヤーと直接接点があります。サプライヤーとコミュニケーションを通じ現在の置かれた状況を確認します。

こういった一連の確認作業の目的は、サプライヤーの能力が不足している、あるいは将来的に不足する可能性があるといった厳しい調達環境を社内の関連部門に説明し、協力を仰ぐ場合に不可欠な根拠の獲得です。サプライヤーの能力不足の解消は、価格のみならず購入条件の見直しが必要です。見直しは多くの場合、調達・購買部門の業績だけではなく、バイヤー企業の経営にマイナスの影響与える要素も含まれます。マイナス要素を最小限に食い止めるサプライヤー-能力不足を顕在化させない活動に理解を得て、調達・購買部門のアクションが全社的なコンセンサスのもとに実行できるかどうかが、被害を食い止める大きな要素になるのです。

サプライヤーの置かれた環境確認するには、営業パーソンとのコミュニケーションを活用します。3つのポイントでバイヤーがヒアリングします。

1つ目は、サプライヤーの操業、稼働率、忙しさに関する全体感の確認です。残業できているかどうか。残業時間はどの程度か。業績の見通しは。といった質問で、サプライヤーが忙しいのかどうか、忙しさの程度について情報収集します。

ここで「残業できているかどうか」は、最近の働き方改革に伴う企業の動きを探る意味合いがあります。長時間労働是正に、多くの企業で残業時間の規制が強まっています。全体的に人手不足に直面する中、残業規制によって労働時間が減少すれば、サプライヤー生産能力の減少に直結します。働き方改革は、バイヤー企業とサプライヤーが協力して推し進めるべき課題です。本来的には生産効率の向上と一緒に残業時間削減するべきですが、最近の傾向としては、とにかくまず労働時間を減らすといった傾向が強まっています。一時的にもサプライヤーの能力に影響を与える可能性があるのです。そして「残業や休日出勤でなんとかしろ!」といった形で、バイヤー企業はサプライヤーに対し強く要求できない環境が整いつつあります。サプライヤーの労働時間管理に対する認識をしっかりと掌握しましょう。

2つ目は、具体的なサプライヤーの生産や納入に影響する阻害要因の確認です。これまでの購入実績によって、何かボトルネックの存在に気づいていれば、解消への取り組みが行われているかどうか確認しましょう。ボトルネックの解消の観点であれば、取引関係にあるバイヤー企業であれば大手を振って確認できます。また、従来はなかった問題が新たに登場している場合も想定します。受注量の拡大に伴って、従来よりも人手不足の問題が大きくなったといった状況も十分に想定の範囲内です。そういった予兆や雰囲気を感じとったら、具体的なアクションへつなげましょう。

最後は、サプライヤーの顧客に関する話です。12月と1月は、忘年会や賀詞交換会といったバイヤー企業とサプライヤーが一堂に会するイベントが多く開催されます。サプライヤーの営業パーソンであれば、バイヤー企業と競合関係にある企業の賀詞交換会に参加している可能性も高いでしょう。競合企業のトップがどんな話をしているのか、どのような購入見通しを持っているのか、サプライヤーとしてどんな対応を求められ、どのように行動するのかヒアリングします。自分たちの発注量が多く、サプライヤーの売り上げの過半数以上占める場合、自社の意向が強く働くサプライヤーと言えるでしょう。しかし、サプライヤーにとって多くの顧客のなかの1社である場合、他社の動向も踏まえた対応が必要になるのです。

●マクロ情報とサプライヤーヒアリング情報のクロスチェック


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サプライヤーからヒアリングした内容と、これまでに確認した公表されているデータとを照らし合わせ、サプライヤー個々の稼働率であり、忙しさの観点でクロスチェックします。「忙しさ」のサプライヤーごとの度合いを判断するのです。バイヤー企業にとって、重要度の高いサプライヤーで、繁忙度が高いサプライヤーに対しては、能力確保の取り組みを具体的に行っていきます。

最近の調達環境を考えると、非常に多くのサプライヤーで繁忙度の高い状況が浮き彫りになるでしょう。しかし、能力確保につながる取り組みは、バイヤー企業にとって重要性の高いサプライヤーから優先順位をつけて行います。購入ボリュームの少ないサプライヤーは優先順位を下げ、納入不足が顕在化したときに対処するといった割り切りによって、できるだけ多くの購入ボリュームを網羅し、納入不足から守る取り組みにします。

(つづく)

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