ドン・キホーテはなぜあれほど強いのか(坂口孝則)

・ドン・キホーテの栄華

ドン・キホーテの快進撃が止まらない。最新決算ではなんと29期連続の増収増益を見込む。売上高は9350億円と、1兆円に近づいている。そして、それは提携企業の拡大にも表れている。

ファミリーマートはドン・キホーテ流のノウハウを注入した店舗を開く。コンビニは食品の売上のほうが大きい。そこに、ドン・キホーテの強みである日用雑貨による訴求力をあげる。それにより若年層を呼び込む目算だ。その対象店舗では、大半をドンキ品に替える徹底ぶりだ。ドン・キホーテに特有な高い棚に、さらに、所狭しと商品を並べる。ドンキはかつてコンビニを独自展開しようとしたが、今回は、大手と組んだ。

ドンキ頼みなのはコンビニだけではない。ユニーもそうだ。スーパーの「アピタ」等をドンキ流で改革した。東海の店舗を刷新し、「MEGAドン・キホーテ UNY」と名付けた。実際にMEGAドンキ化した店舗は好調だ。改装にコストがかかるといっても、新店舗よりは抑えられる。食品の利ざやが少ないものの、そこは非食品のカテゴリーで稼ぎ、その利益を食品開発に費やせば、商品の魅力を向上できる。

店舗によっては、地下を食料品に、そして地上階を雑貨類とし、営業時間も延ばした。食料品を買う場所から、日用品も買う場所へ。そして、遊びに行く場所へ。まるでそれは、コト消費を志向している現代小売業の、一つの回答のように映る。

・ドン・キホーテの権限現場移譲主義

かつてド私がン・キホーテを取材した際に印象的だったのは、イメージとは裏腹に、真摯で明るく、そしてデータを駆使する現場一人ひとりの姿だった。本社が一括で仕入れる商品もある。ただ、あくまで各店舗と、さらに各店舗で販売している社員一人ひとりが主役と位置づけている。

仕入れの品目も、そして数量も、かなり現場に権限が移譲されている。店舗独自の仕入れは全体の4割にもなる。ドン・キホーテの店舗には10万点にいたる商品が売られている。この数は大型スーパー並みだ。それらが、迷路のような、圧縮陳列といわれるカオスに変わる。店内を歩いていると、何か商品を買わずにおれない。

さらに、店のPOSデータはリアルタイムで共有されている。現場のひとに「なぜこれを仕入れたのですか」と訊くと、明確な答えが返ってくる。さらに、自分の責任で仕入れた商品が売れなかった場合は、自らが他店に引き取り交渉をする”徹底”ぶりだ。

・ドン・キホーテの常識を疑う力

日本の食品小売業には慣例があり、賞味期限が残りその三分の一を経過したものは販売していなかった(「三分の一ルール」)。それをドンキは販売した。そして成功した。また、かつて小売の教科書には、なによりもキレイな陳列を良しとした。それにたいするドンキは乱雑ともいえる陳列で成功した。つまり、多くが常識にしたがって思考停止していた状況を、思考省略せずに新たな手法を構築していった、といえる。もはやスーパーマーケットや大型スーパーはドンキの後塵を拝し、閉店後にドンキが居抜きで進出するにいたっている。

・深夜マーケット、訪日外国人需要の発見

もともと同社は「泥棒市場」として誕生した。そのときの夜間市場の発見が、インバウンド需要を取り込むまでになる発見だった。

来日旅行者たちも、ドンキの深夜営業店舗が誘蛾灯かのごとく集まってくる。外国人旅行者たちにとっては、夕食後が遊び本番であるにもかかわらず開いている店舗は飲食店しかない。

日本にやってくる外国人旅行者の半数はドン・キホーテを訪れる。2014年の新免税制度開始以降は、免税対象品が大幅に拡大している。

ドンキは外国人旅行者を訴求する化粧品や医薬品を充実させている。日本人にはなかなか理解できないが、たとえば中国では農村部で病院が不足しているし、都会の総合病院は並ぶのに時間がかかる。さらに治療に多額がかかるとあって、医薬品の需要が高い。さらに「日本の薬は安全で、さらによく効く」とみなされている。

さらにドンキは、一つのエンターテイメント場として機能しており、さらに、旅行中にあまった小銭を使わせるUFOキャッチャーを設置するなどぬかりがない。

・非食品領域による食品領域の強化

また、長崎屋をドン・キホーテグループとし、同社のノウハウを活用し食品領域も充実させている。毎日、主婦層に寄ってもらう店作りだ。ユニーで前述したように、非食品分野の利益も、この競争力強化に使う。

ドラッグストアが食品を低価格・低利益で販売し、利ざやの大きい医薬品に誘導したように。ドンキは、そのモデルを拡大し、食品と飲料にまで低価格を進め、スーパーからお客を吸い寄せている。昨年の、ボジョレーヌーボーが500円台というのは、さすがに衝撃的だった。

同社は、非食品領域=日用品雑貨類等の強化を続けている。報道されたように、4Kテレビ、タブレット、PCなどの黒物家電から、炊飯器、ドライヤーなどの白物家電まで、激安プライベートブランド商品が有名だ。それ以外に、寝具、衣料品もある。さらに近年では、100円ショップならぬ、99円雑貨にまで手を広げている。しかも、99円といっても、意外に洗練されたデザインで女性が好みそうな商品群を用意している。ぬいぐるみまでも開発してしまうほどだ。その態度は「揺りかごから墓場まで」ではなく、「ロレックスからトイレットペーパーまで」と称するにふさわしい。

・店舗づくりの巧みさ

食料品と非食品領域では、利益幅が違うといった。ところで、後付の解説でいえば、この二領域をうまく棲み分けさせるのも試行錯誤が続けられている。誰もそうであるように、消費者にとって、食品は1円単位をシビアに選別する。簡単にいえば、食品は価格の安い高いかに敏感になる。しかし、おなじ消費者でも、非食品であれば、そのシビアさは緩和する。

だから、食品と非食品を併売する店舗は、非食品のコーナーに立ち寄ってもらう際に、食品を選択するマインドを切り替えてもらわねばならない。いままでのスーパーが苦手なのは、この切り分けだ。想像してもらえば、地方のスーパーでは、食品の隣に日用品を置いている店舗がある。すると、消費者は、食品のようなシビアな目で、日用品を”査定”してしまう。すると、やはり日用品をさほど買おうとしない。あるいは、利ざやのひくい、低価格商品しか買おうとしない。

それにたいして、ドンキは、食品売り場は比較的に整理整頓された空間となっている。日用品とのフロアもわけている。すると、消費者は日用品フロアに入ると、気持ちが切り替わる。奥に進むと、そこは迷路のようになっており、食品という日常から、非日常に誘われる。

・ドンキの快進撃は続くか

以前、知人たちとバーベキューをした際、肉と炭がなくなった。日にちがあればアマゾンで注文もできるだろうが、すぐさま必要だった。参加者がドンキに行こうと提案した。さらに店舗で着火剤を追加し、さらに他の階でたまたま見つけたお菓子類と、そして子どもたちが遊ぶ玩具まで購入した。「とりあえず、あそこに行けば、なんかあるだろう」という安心感。きっと、さほど目的なく時間つぶしに立ち寄るひとも多いに違いない。取材した際、「デートでお越しになるお客様もいます」と聞いた。まるで、仮想敵はディズニーランドか、USJのようだ。

何か一つの施策をとりあげて、これが同社の成功源というのはたやすい。しかし、ほんとうは、何か一つの施策ではなく、複数の施策と、そしてたゆまぬ努力が重ねられている。その努力が、たとえ、常識からすると逆張りであっても。

私は、しばらく、同社の動向を観察し続けたいと思う。そして、ドンキ流を取り入れた、各社がどうなるのかもあわせて。

<了>

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