短期連載・坂口孝則の情報収集講座(坂口孝則)

この大学からかぞえて20年ほど、ずっと「調べて書いて、発表する」行為を続けてきました。社会人になると、「この資料作っておいて」といきなり言われるケースは多いはずです。むしろ、会社員の仕事の大半は、資料作成といっても良いかもしれません。そこで自分なりに総括したい気持ちもあり、『情報収集講座』と題し、短期連載としてメルマガに掲載することにしました。

【第1回】検索とコピペを超える資料を作ろう

社会人になると、上司が「○○について調査して報告せよ」と要求してきます。私もそういわれていた一人です。かつての私の上司は、要求を聞いた私がトイレから戻って着席すると「さっきの話はどうなった」と訊いてきました。数分で調査できることといえば、ネットで調べるくらいです。

もちろん上司は数分で調査可能と思っていたわけではありません。上司は数分のあいだに、調査の道筋を頭で整理できているかを質問していたのです。いきなりネットで検索してもよくわからない。誰に聞いてよいかもわからない。そもそも資料が世の中のどこに存在するかもわからない。私はもがきながらなんとか自分なりの方法を構築してきました。

いわゆるビジネスパーソンの仕事の大半は、何かを調べて資料を作成する時間に費やされます。いわば、技の見せ所です。それなのに、ネット検索してコピペで済ます報告がなんと多いことか。私が逆の立場になって指摘すると、よく「ネットで出てきませんでした」「ネットでこう書いてありました」などといった言い訳を聞かされます。第一にコピペは、そもそも仕事を手抜きしている印象が拭いがたいものです。さらには、そういった調査のほとんどは、上司がやっても同じ結果になるだけで、なんら部下のオリジナリティや優秀さを感じられません。そして何より重要なことは、そのコピペ調査によって、上司の目的が果たせていないことです。

*情報調査前に明確化すべきこと

私の経験談に戻ります。上司はたったの数分で私に進捗を質問し、「調査の道筋」を訊いてきた、と書きました。現在、私は週に2~4本の原稿を書き、書籍も年に2冊ほど書きおろし、クライアントへコンサルティングを行い、セミナーの講師もやっています。そのほとんどが、調べる表現することと無縁ではなく、スキルはこの会社員時代に身につけました。そのとき、上司から繰り返し聞かされたのは、資料において、次の項目を明確にすることです。

□いつまでに作ればいいのか
という仕事でもっとも重要な納期設定に加えて、
□資料の目的は明確になっているか
□対象者は上司だけか、あるいは、さらに上の役員なども見るものか
□報告媒体は何を求めているか
□できればどういう結論を導きたいのか
さらに、
□上司はどれくらい詳しいのか
をストレートに質問しておきましょう。

今日中に知りたいのか、半年後で良いのかによって対応は異なるはずです。そして、「○○業界について調べろ」の真意が「参入機会を検討する」のか「斜陽産業だろうから関連企業の与信情報を調べたい」のかによって、まったく進め方が異なります。

また、上司だけなのか、上司がさらに上役への説明に使いたいのかによって、あらかじめ体裁や荒さも変えます。これはワードなのか手書きなのか、パワーポイントなのか、エクセルなのかといった媒体にも関わります。

そして、「できればどういう結論を導きたいのか」が要です。これは誤解してほしくないのですが、上司の意図にあわせて事実をねじまげるのではありません。データや情報は歪曲しないものの、はじめの仮説として上司の意見を尊重しておくのです。そうしておくと、上司の仮説と異なる結論であっても、上司の仮説をていねいに修正する資料となります。

そして上司の詳しさを知るべきなのは、上司がその○○について相当に詳しければ、最新のデータをつけ、むしろ今後のアクションと成否の可能性調査について時間を割くべきです。逆に上司が無知の領域であれば、データの細かな説明や単語の定義などが必要になるでしょう。

ただただネット検索とコピペがダメなのは、まさに調査の背景を聞き出せていない点にあります。漠然とネット検索しても、それはページ作成者が情報発信したかった内容しか出てきません。重要なのは、仕事の発注者=お客様である上司の真意を聞き出したあとに、あらかじめ満足条件を確認しておくことなのです。そして資料を外部にお願いするときには、抜けもれなく伝えましょう。

【第2回】資料は役立つものでなければならない

私が存在する橋爪大三郎さんという社会学者は、新たな発見がない論文は存在してはならないといいました。かなり手厳しい言葉だけど、ほんとうにそうだと私は思います。何かと何かのあいだに連関性を見つけたり、新しいメッセージを加えたりする。そんな新しさがないと存在意義がないのは、会社員の資料でも同じです。すくなくとも、それくらいの想いで作成すべきでしょう。

この観点からもネット記事をつぎはぎする行為がマズい理由がわかります。そこには他人の意見の集積だけで、なんら自分の意見が表現しえないからです。さらにネットの情報は、ほんとうに正しいかはわかりません。私の知っている芸能人は、某有名情報サイトにご自身の誕生日が誤って記載されているのを、意図的に放置しているそうです。「ネットだけを信じてはいけない」と講演のネタにも使っているそうです。

ネットよりも情報源としては書籍や雑誌、テレビの信用度が高いのは事実です。運良く私はそのすべてで仕事をしています。書籍は何重ものチェック機構があります。執筆者のほかに編集者、校閲など、事実関係を厳しく確認していますし、雑誌も同様です。テレビは、誤報があるものの、すぐにクレームや訴訟になりますから、現場ではかなり検証しています。

ただし、とはいえ、書籍や雑誌・テレビだけの情報を切り貼りしただけでは、自分の意見や仮説を盛り込めません。それが仮に事実の羅列であっても、「羅列」である以上は、あなたではなく機械ができる仕事です。情報調査とは、調べる行為と同時に、考えることであり、さらには仮説を検証し続ける行為でもあると知りましょう。

*仕事で求められるレポートと大学のそれの違い

もちろん、大学のレポートと仕事で求められるレポートも、調べて書く、という点だけを見れば変わりません。ただ、大学のレポートは、自分で意思を持って調べ、そして自分で検証します。大学の先生が採点するのは、その手法であり、論理展開であり、研究としての新規性です。

しかし、あなたの資料は、大学ではなく会社のなかで使われます。ということは、多かれ少なかれ、会社という組織の意思決定に関わるものであるはずです。もっといえば、会社が得するのか、効率化するのか、コスト削減できるのか、売上が伸びるのか、社員の職場環境が改善するのかといった実利を追求しなければなりません。

だから、「ソフトウェアの外注費についてのコスト低減施策をまとめといて」といわれたとします。そのときに、「雑誌には、こういうコスト低減事例が載っていました」と書くだけではダメなのと同時に、そのなかで自社が応用できる手法について仮説を立てて調べていき、「これであれば自社も応用できるだろう」と結論づけなければなりません。

そして前節で上司の目的をヒアリングする大切さを述べました。そのとき、結論が「ソフトウェアの外注費についてのコスト低減施策」とはいっても、未来すぎる提案であってはいけません。これを衒学的と呼びます。「たしかに理屈ではそうだろうけれど」と思わせてしまうと、誰も動きませんし、感心もしてくれません。繰り返すと、あなたの資料は会社という組織の意思決定用のものだからです。

*役立つ資料を作る際の情報収集における心がけ

資料を作る際に、これらを意識して情報収集源にあたらねばなりません。
□ネットだけのつぎはぎ資料になっていないか
□その他、情報源として信頼のおけないソースに寄っていないか
□書籍、雑誌、テレビといった情報のまとめになっていないか
□あまりに一般論の、誰でも知っている情報ばかりになっていないか
□あまりに原則論の、誰でもわかっている情報ばかりになっていないか

調査のたびに何か新たな観点を挿入するとは、かなり厳しい心がけではあります。ただし、会社の側から見れば、社員を使ってコストを費やして、会社の事業に役立つことを狙っているわけです。その結果、できあがった調査が、なんの費用対効果もないものであってはいけません。

そしてあえて抽象的に書けば、調査をはじめるときには、上司が資料を見たときに「えっそうなの?」と言う顔を想像しておくことです。

<つづく>

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