会社を設立してからの地獄の日々~連載⑧(坂口孝則)
会社を設立してから、いろいろなメディアに出演しました。それをきっかけに、さまざまなお声がけをいただきました。しかし、それでも、ひどいひとはたくさんいます。
たとえば、リスクマネジメントの講演でお呼びいただいたある団体は、「消費税分をまけろ」といわれて請求書を受け取ってくれませんでした。消費税の納付業者ですから支払ってくれないと困ります、といっても、意味がわからないと連呼されました。
また、某大企業は、口座振込手数料分を勝手に差し引いてお支払いいただきました(なお、これ自体は珍しくはありません)。そこで、私が手数料分を払ってください、というと「ウチはそういうやり方だし、そういう苦情を受けたことがない」とおっしゃいました。ですから「承知しました。公正取引委員会に御社名とご芳名をご連絡しますが、手法が正当ということであれば、その旨をご主張なされば問題ないかと思います。あくまで、公正取引委員会に連絡するのは、私が間違っているかを確認するためです」と、皮肉を書いたら、なんと翌日に手数料分が振り込まれました、大企業もやればできますね!(笑)
ただ、私を助けようと仕事をくださる方もいて、あまり必要性はないのに講演を依頼いただいた企業があります。また、ラッキーだったのは、某有名ECサイトの役員が私の本を読んでいただき、カンファレンス講演にお呼び頂きました。全国各地で実施されているカンファレンスだったものですから、大阪とか東京とか、北海道とかに出向きました。一回は大卒の初任給ほどのギャラだったと記憶します。これで助かりました。一回を真剣にやって、それでなんとか「今月も食えたな」という感じでした。
このころ、(そのときは想像もつきませんでしたが)その後6年にわたって研修を行う企業からお声掛けいただきました。しかし私は分野としてまったく異なります。つまり製造業ではないんですね。だからギリギリまで悩みましたが、わざわざ私を指定いただいたので、「やります」と返信しました。その後のコンサルティングまで発展したので固有名詞をいえません。が、いわゆる設備装置系の企業でした。そこから調達・購買業務コンサルティングを依頼されました。
あの頃はほんとうに大変でした。その企業の関連する分野の書籍を、200冊……と書きましたが、たぶん、実際は300とか400冊だったと思いますが、買ってきて学んでいきました。そのあいだには、原稿の執筆とか、セミナー資料の作成とか、さまざまな業務があります。どうやってこなしたか覚えていません。きっと、ただただぶつかるだけで余裕がなかったのでしょう。
研修の日です。真面目で有名な受講者たちがいました。いろいろな雑談を話しましたが、ほとんど笑ってくれません。そこで、私はふっきれた記憶があります。「別に笑ってもらえないでいいだろう。終わったときに、良かった、と思ってくれればいいのでは?」。そう考えたんですね。そして、めちゃくちゃ熱っぽく語りました。今思うに、私の熱っぽい講義は、このころに原点があります。
講義の終了後。ある女性の方が、しかめっ面をして私に近寄ってきました。「あの……。まだ消化しきれません。でも、なぜだか、今日は重要なことを聞いた気がします。いままで受けた講義のなかで、もっとも面白かったかもしれません。何か本を買うので、どれがおすすめですか」と聞いてくれました。たぶん私に同種の質問をしたひとがいるかもしれません。私の答えはつねに「私の本なら、30冊くらいしか出していませんから、ぜんぶ買ったらどうですか」というものです。しかし、このときはやや感動し、一冊を勧めた気がします(何を推薦したかは覚えていません)。
真面目にやればそれだけでいいんだ!と確信したタイミングでした。
(つづく)