会社を設立してからの地獄の日々~連載⑦(坂口孝則)
テレビに出るようになってから、仕事が大量に舞い込みました……。といえればかっこいいのですが、現実はそんなに甘くありませんでした。継続的に営業もしていましたし、せっかく栃木まで行ったのに、なんにもならなかったケースもありました。
そこで、あるとき、みうらじゅんさんの発言が飛び込んできました。みうらじゅんさんといえば、ものすごい売れっ子です。しかし、ご自身で営業を続けているというんです。「勝手に仕事なんか来るはずないだろ。必死でがんばるべき」とおっしゃっていて、大量の努力を続けています。これで私は奮起しました。「凡人は努力せねばならない」これはいまも繰り返す、私のフレーズです。ああ、私はなにをカッコつけていたんだろう! テレビに出るとか、書籍を出すとか、そんなていどで満足してはいけない。もっと努力しよう! 「凡人は努力せねばならない」。
参考になるかわかりませんが、そこから必死に取り組みました。まず、私はコンサルティングだけではなく、セミナー講師業もやっています。そこで、各セミナー会社にお願いして、私の分野(調達・購買)で、他の講師の方々がどのような講義をしているかを聞いて回りました。できればセミナー資料を見せてもらいました。さらに可能であれば、お金を払って受講しに行きました。
そこで気づいたのですが、あまりに他講師は概念的すぎると感じました。そこに突破口があるのではないか。素直な感想をいえば、「けっきょく、どうすればいいのかわからない」んですね。コストを査定しようと思ったら、仕様との相関分析をしろ、と。でも、考え方はわかったけれど、具体的なツールがなければ明日からの仕事にいかせません。私はつねに、具体的、具体的に考える人間ですから、帳票類などを提示したいと考えました。「他の講師より、具体的だし、実際の帳票類もお渡しします」。これが差別化でした。
文字ではなかなか伝わらないのですが、私はセミナーを三つに分類しています。
●思想
●マニュアル
●ツール
思想は文字通り、概念とか、考え方を述べたものです。ほとんどのセミナーは、これに当てはまります。そこで差別化がマニュアルです。この通りにやってくれたら業務の成果が出る、という指南書です。私はさらに差別化するために、前述のツール(帳票類や具体的なファイル類)を提供するセミナーを開始しました。
当初、このコンセプトで開始したセミナーは、お一人5万円で40人もお越しいただきました。大変な準備をして告知したセミナーでしたから、ポツリ、ポツリ、と参加通知が届いたときは、ほんとうに安堵したことを覚えています。だって、ほんとうに、明日からの生活をどうしよう、と思い悩んでいましたからね。
さらに、各社のセミナー告知分を見て感じたのは、あまりに説明が少ないことでした。アジェンダや内容はわかります。しかし、その内容に関する絶対量が足りません。私の知らない何を教えてくれるのか。それはいったいなんの役に立つのか。さらには、受講する価値があるのか。
私は、そのためにセミナー告知の文章を徹底的に学びました。海外のサイトを参考にしようと、無数のページを見ました。すると、ジョン・リーズ氏のページがあまりに良く(ちなみに、アルファベットではJohn Reese。商品はTraffic Secretsというものでした)、真似たものです。それで、いまでは説明の限りをつくすようにしています。例→http://www.future-procurement.com/semi9/tokyo9.html
しかし、そして最後まで悩んだのが返金制度です。私は思い切って「つまらなかったら全額返金します」と書こうかと思いました。それでリスクゼロで一度お越しください、と。ただ、勇気がいりました。はじめてのセミナーには、返金可能だと書きましたが、当日まで精神が病むくらい、「ほんとうに返金依頼があったらどうしよう」と考えていたものです。結果は、返金依頼はありませんでした。ただ自分にプレッシャーをかけたのがよかったかもしれません。
もし独立しようとするひとがいたら、覚えておいてください。お客さんに一切のリスクを感じさせないようにしましょう。そして、可能だったら、当日のギリギリまで真剣に講義内容について考えましょう。きっとその熱意は伝わると思います。
(つづく)