ほんとうの調達・購買・資材理論(坂口孝則)
・日本一カンタンなサプライヤー収益管理~パート2
さて、昨年からこの連載で何をやっていたかというと、「日本一カンタンなサプライヤ収益管理」だった。
バイヤーの仕事の一つに、「サプライヤー決算書の確認」がある。でも、具体的に何を確認して、どう改善指導すれば良いかわからない。そこで、カンタンにサプライヤーの収益を管理し、改善の糸口を見つけることができないだろうか。
そこで、前回は「調べるべき指標には4つある」とし、そのうち二つをあげた。バックナンバーが読める読者はそちらを確認してほしい。各サプライヤー(各協力会社)の3年分の決算書を集めれば、この4つの指標が算出できる。
まずは、おさらいからだ。
1.趨勢分析(3年増減指標)
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まず「趨勢分析」は、「売上高」「粗利益」「販管費」「借入金」 上記4つの指標を基準年度(前々前期)を起点とし、それ以降の変化を表示したものだ。これは、絶対額の趨勢を把握するところが重要だ。
たとえば、(1)とグラフを見ていただければ、売上高が落ちているにもかかわらず、販管費(の絶対額)が増えていることがわかるだろう。
(2)の見方も再掲しておく。
2.キャッシュフローおよび真性利益推移
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次に、キャッシュフローおよび真性利益だ。この二つの指標は次のように定義される。
・キャッシュフロー=営業利益+減価償却費
・真性利益=経常利益+役員報酬
これもサプライヤーの決算書を見ればすぐに拾うことができるから安心してほしい。キャッシュフローは本業で稼いだ現金の多寡(近似値)を表現しており、真性利益は経営者が操作できる利益の額を表現している。役員報酬を減らして利益を確保しようとすると、真性利益が減じるわけだ。
(2)の見方は次の通りだ。
・「利益対支払利息および借入金危険度」「最適借入金比較」について
では、ここから新しいコンテンツだ。
3.利益対支払利息および借入金危険度
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「利益対支払利息」とは何だろうか。これは文字通り、「稼いだ利益」と「銀行等への支払利息」を比べたものだ。そして「借入金危険度」とは、そのサプライヤー(協力会社)が純資産にたいする借入金の比率を数値化したものだ。
(1)の「利益対支払利息」および「借入金危険度」は、基準年度(前々前期)を起点とし、それ以降の変化を表示している。
・利益対支払利息=営業利益率-支払利息割引率
・借入金危険度=純資産額に対する借入金額
上記のように定義される。利益対支払利息は本業で稼いだ利益を、どの程度支払利息にまわしているかを表現している。借入金危険度は会社の体力(自己資本)に対して借入金の比率を示したものだ。
えっと……。営業利益の調べ方はわかるよね? 損益計算書に載っているから。それと、支払利息割引の調べ方もわかるよね? これは損益計算書の営業外費用のところに載っているから。
たとえば、営業利益率が3%で支払利息割引率も3%の場合は、本業で稼いだ利益のすべてを支払利息にまわしていることになり、利益対支払利息は0%となる。このようなサプライヤーは意外に多い。これでは何のために企業活動をしているのだろうか。
では次に、借入金危険度だが……。純資産の調べ方はわかるよね? 貸借対照表の右側に載っている。それと借入金額もわかるよね? これも「短期借入金」「長期借入金」が載っているはずだ(ちなみに、正確には「手形割引高」も入れるんだけど、ここでは無視してもかまわない)。
また、借入金危険度は一般的に1.5程度が望ましいとされている。要は、1億円の純資産があり(これは繰り返しだが、貸借対照表で確認できる)、2億円の借入金があるとしたら(これも繰り返しだが、貸借対照表で確認できる)、借入金危険度は2となってしまう。
(2)の見方は次の通りだ。
これも想像どおり、右肩下がりのサプライヤーは危険ということになる。
すぐれたサプライヤーは上記のように、右肩上がりの線を描く。どんどん、「利益対支払利息」が向上し、それによって借金を返済し「借入金危険度」も改善していく。
4.最適借入金比較
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この「最適借入金比較」は、(1)にある 「安全借入金額」「実際借入金額」「キャッシュフロー5年分」の3つの指標を前々前期から前期までの3年の変化を表示したものだ。
・安全借入金額=純資産×1.5
・実際借入金額=貸借対照表に記載されている借入金額
・キャッシュフロー5年分=(その年度の営業利益+減価償却費)×5
上記で定義される。安全借入金額や返済能力(キャッシュフロー5年分)と比べて、実際の借入金額がどうなっているかを示したものだ。ここで、直感的に理解いただけるように、次の図を見てほしい。
赤い棒が、サプライヤー(協力会社)の実際の借入金額だ。この赤い棒と、青い棒および緑の棒を比べるのだ。
・理想:安全借入金額≦実際借入金額<キャッシュフロー5年分
・及第:安全借入金額<実際借入金額<キャッシュフロー5年分 となる。
大雑把な説明では、「安全借入金額」は体力と考えたらいい。そして、「キャッシュフロー5年分」は稼ぐ実力と考えたらいい。実際の借金が、体力と同程度で、実力以下に抑えていれば健全というわけだ。
なぜ、キャッシュフローの「5」年分と比べるのだろうか。これに絶対的な根拠はない。ただ、ファイナンス実務の世界では、「借金を5年程度で返済できること」とする考えがある。もちろん、厳しめにキャッシュフローの3年分と比べてもよいだろう。ただし、その場合はほとんどのサプライヤー(協力会社)が及第点を取ることはできないかもしれない。
・そして最後のまとめと「見える化」
そうやって、これまで4つの指標をまとめると、こうなる。「見える化」によって、一瞬にしてサプライヤー(協力会社)の状況が理解できるはずだ。
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どうだろうか。4つの指標で、たちまちこのサプライヤー(協力会社)がわかってくる。
たとえば……。
・「趨勢分析」を見ると、売上高が減少しているにもかかわらず販管費が肥大化していないだろうか。
・「キャッシュフローおよび真性利益推移」を見ると、経営者は業績不振によってキャッシュフローを減らしていないか。あるいは役員報酬による操作がなされていないか。
・「利益対支払利息および借入金危険度」を見ると、稼いだ利益が銀行等への支払い利息に消えていないか。
・「最適借入金比較」を見ると、キャッシュフロー5年分でも返済できないような借入金を抱えていないか。安全借入金額との乖離はないか。
さまざまなことを、サプライヤーに指摘できるだろう。もちろん、バイヤーは財務のプロではない。だから、サプライヤーとの会話のなかで学ぶこともあるだろう。ただ、バイヤーがこの程度の指標を知っておけば、かなり高度な対話はできる。おそらく、サプライヤーの営業マン程度では勝負にならないだろう。バイヤーは経営層と話ができるよレベルになる。
これを主要サプライヤーごとに作成すれば、定期的なミーティングの際には役立てる。そして、またサプライヤー管理の話をちょっとだけ続けよう。