連載「調達・購買戦略入門」(坂口孝則)
調達・購買の戦略を連載しています。
今回は、予算管理戦略です。
・予算管理戦略とは
そもそも予算管理とは何でしょうか?文字通り、予算をしっかり守ることです。そして.予算の成立過程で、各部門にそれぞれ最大限の力を発揮してもらうことです。
歴史的にいうと、もともと予算というのは原価主義という考え方で運営されてきました。これはコストに利益を加算して販売価格を決めるというやり方です。それに対して、今では非原価主義という考え方が主流になってきました。これは販売価格から利益を引いてコストを決めるというものです。原価主義とは逆のやり方になります。
販売価格とはそもそも競争の激しい現代においては企業が決められるものではありません。消費者すなわち市場が決めるものです。そして利益は会社の存続のため、あるいは株主の要請から、利幅が決まります。コストというのはむしろ後発に決まり、それを守らなければいけないものなのです。
まず製造業でいうと、設計目標値があります。つまり、特定の製品を作成するときに、いくらぐらいでできるのかという設計側の理論的なコストになります。そのまま製品設計が完成すればいいのですが、この世の中はさまざまな法規制もありますし、状況が変わる可能性があります。そこで仕様変更分を見込んでおくのです。
これは予想される法規対応や、あるいはその他の対応策が予期できるものであれば計上しておきます。事実上、難しければ、設計目標値の何%というように積み上げるやり方もあります。おそらくここまでは設計部門がくみ上げるでしょう。
その後、材料変動があります。このグラフは材料が上昇しているように見えますが、もちろん上昇ではなく下落傾向の際にはマイナスとなるでしょう。これは調達部門が見込みを全社に説明して予算を積み上げる場合もありますし、調達部門ではなく、材料の仕入れだけが独立している場合は、その部門が担当することになるでしょう。
一つ注目しておきたいのは、材料費の変動はあえて別枠で管理しているという点です。材料市況は個人の調達担当者の努力ではどうにもならないケースがあります。したがって材料変動を分けておくことによって調達部門の、その他の頑張りを明確にするわけです。
そして、コスト削減をどれくらいするのか、これは全社にコミットしている数字があるかもしれません。あるいは個別の製品で目標値があるのであれば、それを織り込んで予算計画値とします。
次に右側の個数変更をみてください。これはすなわち、営業部門があらかじめ提示していた数量が減るなどして製品のコストアップにつながった場合です。よく見られるのは、「数量が多少は減ったが、それは調達で何とかしてくれ」というケースがあります。それは協力を惜しまないという意味では、調達・購買部門が努力するのは当然でしょう。しかしそのコスト削減には理屈が通らないケースが多々あります(「なんでもいいから価格で協力してくれ」という)。したがって、コスト変動でどれくらい上がるべきなのかを明確にするべきなのです。その上で、調達部門が下げることができれば、その分を吸収したという成果を強調すべきです。
・予算管理の重要三原則
ここで重要なことを三つあげておきました。
「管理と実施の分離」
実際の設計担当者と、彼/彼女が試算するコストを管理する社員は分けておいた方が得策です。また、調達部門も同じで、数字を管理する人と、実際の調達担当者を分けておきましょう。そうしないと、数字が雑になりますし、あるいは開発の最後でつじつまを合わせようとする可能性があります。しっかりと過程でも管理する意味においては、分離が重要です。
「相互レビュー」
例えば、設計部門があまりにも甘い目標値を掲げるとします。すなわち設計コストが高いという場合です。その場合はあとの部門にしわ寄せがきてしまいますので、必ず設計部門の内部あるいは外部の部門がチェックを行うべきです。そして全体予算管理も可能であれば別部門がふさわしいでしょう。
「他責への 不可侵」
そして前述の通り、自分の部門がうまくいかなかった額を他部門に押し付けないようにしましょう。それは逆も然りです。すなわち安易に設計部門のミス、すなわち仕様の上昇を調達が無理矢理サプライヤに交渉して値下げることはあってはいけないのです。いや、あってはいけないというのはいいすぎです。もちろん実際にはするでしょう。しかし私が強調したいのは、それを別で管理しておくということですね。設計者が10円分ミスしたのを調達がネゴによって10円下げた。それをはっきりしておくのです。
調達部門のコスト削減というのは、設計者が単に安い仕様にしただけにも関わらず、自分たちの成果だといってしまうケースがあります。これは逆の意味で悪質であって、それは設計者が下げただけとえるのです。
・予算管理の三権分立
例えばある製品があるとして、それが調達が頑張って100円なのか、設計者の使用が元々100円程度のものなのかどうやって確認すればいいのでしょうか。
それをクリアにするのが三権分立の仕組みです。つまり設計者は図面を提示すると同時に、調達・購買部門に対して「これは設計の理論的には、いくらぐらいになるはずだ」というデータを証拠つきで提示すべきなのです。例えば、過去の類似製品からすると、いくらぐらいだとか、あるいはコストテーブルを積み上げるといくらぐらいだとか、「元の製品から特定の機能を引いただけなので、いくらぐらいなるはずだ」といった内容です。
調達・購買部門はその金額よりも安く調達することを求められるわけです。そうすれば取り分は明確になります。そして原価管理部門も置いておくのです。原価管理は設計者の積み上げる金額の妥当性というよりも、機能としての妥当性を見ます。つまり絶対値は設計者がコスト計算するとして、そもそもそんな仕様が必要なのかを確認するわけです。さらに、調達・購買部門から過去の調達履歴を入手することによって、開発品を安価にできるようなVA/VEの提案を行っていくわけです。さらに、原価管理は、調達部門から実際の見積書をフィードバックされることによって、自分たちが事前にアドバイスした内容に合理性があったのかをチェックしてきます。
このように3者が独自の緊張感を持ちながら、一つの製品を作り上げていく、そして一つの予算に向かって立ち向かっていく。これが重要なのです。このやり方は部門同士を対立させるように思うかもしれません。しかし、実際にやってみると自分たちがプロフェッショナルとして果たさなければいけない責任についてかなり敏感になります。