サプライヤの倒産 4(牧野直哉)
できれば、サプライヤの倒産兆候を読みとりたい!どんなバイヤーも同じくそう思います。今回はバイヤーとサプライヤの関わりの中で、確認しやすいポイントを3つの側面から確認する「10の方法」を学びます。
●倒産の兆候~経営者の特徴
①社長/経営幹部の計数感覚の欠如
「××(経理担当責任者の名前)に任せていたのですが……」
私が経験した、倒産に直面したあるサプライヤ社長の第一声です。まさに、ドラマの中の世界だ、そんな印象を持ちました。その社長は、優れたアイデアマンで、業界でも有名な方でした。⑩で述べる点も該当しますが、かなり積極的な設備投資の結果、業界全体の需要減退によってあえなく倒産の憂き目に直面したのです。
技術屋であり、アイデアマンだった社長のバイタリティーによって成長した企業でした。確かに企業経営の財務的な部分は得意ではなかったのでしょう。実務を任せるのはよいでしょう。しかし、その結果、自分の思いのままに投資をおこなって、企業であれば乗り越えなければならない需要変動に翻弄(ほんろう)されてしまったのです。任せきるのでなく、財務(資金繰り)は、社長は必ず理解していなければならない企業経営の重要要素です。
この点の確認方法は、サプライヤの新規採用時や、採用継続審査の際に提出される貸借対照表、損益計算書を活用して、その内容について社長に質問します。社長自ら答えるか、それとも経理や財務の担当者が回答するかで、その理解度が推し量れます。その場で「経理は任せていますから」なんて発言がある場合には、倒産リスクが高いと判断します。
②言動の変化
言動の裏には、何らかの変化が隠れています。経営幹部の、背景がつかめない大きな話とか、脈略なく事業計画や、資金繰りの話を始めた場合は、話の内容とともに、なぜそのような話を始めたのか、その理由まで踏み込んで確認します。実体がなくても、話はできます。判断基準は、根拠や理由を問い質した質問への明快な回答が得られるかどうかです。
③不在
これは、余りにもありがちですが、典型的なサインの一つです。なぜ不在なのか。資金繰りに走りまわっているケースは、まさに危機的な状況に該当します。また、経営への興味ややる気を失った場合も、こういった兆候がでる場合があります。社長がいなくても、他の経営幹部がしっかりしているケースもあるし、規模一定以上になれば、サプライヤにとって重要顧客でない限り、社長に会えないでしょう。そんなときは、社長とコミュニケーションをとっている幹部に
「最近、社長は御元気ですか?」
と聞いてみます。
④極端かつ非常識な節約
ワンマンで運営している企業にありがちです。従来であれば、営業車を使っていたのに、いきなり電車とバスになるとか、そもそも訪問回数が減少するといった兆候に表れます。営業パーソンの仕事のやり方が原因で、こういった対処がサプライヤ側でおこなわれる場合もありますが、こういった行動を感じたら、その根拠を確認します。担当している営業パーソンから明快な回答が得られない場合は、上位者を含め確認作業を進めます。
●倒産の兆候~社員の特徴
倒産にひんした企業なら、その従業員にも言動に変化が見られる場合があります。また、日常業務の中で、その兆候が感じとりやすいのが社員の言動です。
⑤重要ポジション社員の退職
社員であれば、外部からはアクセスできない内部情報にも触れられます。これが、バイヤーともっとも大きな違いです。この兆候は、感じるバイヤー側の感度も重要です。大きな変化であれば気づきやすいですが、さ細な変化は分かりづらいですね。そんな中で社員の退職は、目に見えて理解しやすい事象です。こういった一報には、必ず「なぜ?」との疑問を感じ、サプライヤ側の人間にぶつけて回答を得ます。
⑥内部事情の流出と、極端な秘密主義
これは、サプライヤの担当者との継続的な関係の中で「あれっ、前と違うな」との気付きを得やすいポイントです。重要な点は、いつもと変わらないバイヤーの対応。いつもだったら教えてくれる内容なのにはぐらかしたり、聞いてないのに内情を次々と話しだしたりの場合です。何か違う、と感じたら、そのままを声にして質問します。そして、信用機関に調査を依頼するといった異なる側面からの評価を加えます。
⑦モラル低下
この兆候の具体的な例は、過去になかったQCD他にまつわる問題の発生です。具体的な納品でなくとも、見積書の提出に、特別な理由なく通常より時間を要するといった事象も当てはまります。相手は人間ですから、対応内容にも多少のバラツキはあります。しかし、その度合いが大きな場合は「ん?何かおかしくないか」と質問してみます。
●倒産の兆候~財務的傾向
この財務的な兆候は、サプライヤを継続採用したり、一定期間の頻度で提出させたりしている財務諸表を確認して読みとります。サプライヤからの提出書類は、内容を確認していると、相手に知らせる意味でも、次のような点が読みとれる場合は、背景をヒアリングします。
⑧売り上げの大きな変動(増減とも)
企業にとって、人の次に重要なのは売り上げです。ここで「増減」としているのは、大きく増加するのも、背景や要因の確認が必要と考えるためです。前年度対比で、一般的な経済情勢や、業界平均といった数値を大幅に上まわる売り上げの伸びを示しているのに、営業パーソンが原因をしらなかったら、おかしい!と感じなければなりません。
⑨決算書勘定項目の大きな変動
前受金、仮受金・貸付金の増加、支払手形・受取手形・営業外損益の急増・急減、棚卸資産。借入金の急増、とくに重要なのが使途不明になりがちな前受金・仮受金、貸付金となります。
⑩投機的な投資
これは、バイヤーの目で見た「すごいな」と思わせる設備投資。もし、そんな設備投資を目にしたら、投資回収計画と、どこから資金を手当てしたのかを確認します。一部の文献では、ノンバンクからの借り入れは投機資金と位置付けています。企業に資金需要があり、自己資金でまかなえない場合は、メインバンクからの資金調達を検討します。メインバンク以外からの資金調達は、なぜメインバンクからできなかったのかを確認します。
<つづく>