坂口孝則の「超」調達日記(坂口孝則)

■7月X日(月)■

・ぼく(これ以降、主語「ぼく」「私」「俺」が混在するもののご容赦のほど)が光文社から10月に発売する予定のドラえもん本「あとがき」を書き終える。本文はだいぶ前に書き終わっていたものの、ページに少しだけ余裕があったため、「あとがき」を追加することになったのだ。一部を引用してみよう。

・<私が独立して仕事に行き詰まり、来月からどうしようかと思い悩み、目の前が真っ暗になっていたときに、妻から「一緒に病院に行こう」といわれました。その行き先は、精神科ではなく、産婦人科。お医者さんはいくつか妻を検査したあと、ゆっくりと「おめでとうございます」といいました。
診療費を支払うお金がなく、ひとり急いでコンビニに走っていたとき、なぜだかすべての景色が美しく見えたことを覚えています。「ばかだなあ、俺はいったい何を悩んでいたんだろう」。たった一つの出来事で不幸と幸福の色が塗り替わることが、人生を哀しくもそして愉しくもする要素かもしれません。
出産直前の妻と散歩していると、あるテレビ局の前で「彼」が笑いながら立っていました。小学生のころに熱中した「彼」はずっと変わらず、その丸い顔で子どもたちを魅了しつづけていたのです。「彼」とのび太が繰り広げたエピソードから、人生のさまざまな経済的合理解を解説できないか。本書の企画を思いついたのは、そのときでした。出版物は公的な性格を有すべきではあるものの、私的な意味で私から子供への最初の贈り物になるのではないかと。
本書の執筆中に、誕生した息子を抱っこしながら、ふたたびテレビ局に向かいました。ドラえもんのとなりで笑っているのび太。それを見て、思わず苦笑してしまいました。のび太みたいに何もできないまま大人になって、気づいたら子供までいる自分がいたからです。「しずちゃんはすばらしい女性だ。ノビスケも、なまいきだけどかわいいやつだ。このふたりのためだけにでも、ぼくはがんばろうと思うんだよ」と大人のび太は語りました(てんとう虫コミックス16巻「りっぱなパパになるぞ!」)。私もつい同様の発言をしたい気持ちに駆られます。
もしかすると、私はかつて読んだドラえもんのエピソードをなぞっているだけなのかもしれません。グズでのろまで、失敗ばかりで、でもなんとかがんばってやってきて、大人になって子どもから働く意義を与えられたのび太。少なくとも、のび太も私もがんばるために、口実となる対象・家族が必要なことは間違いなさそうです。

・なぜかこの本を書いているときに感傷的になってしまった。いつも言っている気がするものの、忘れられない一作になりそうだ

■7月X日(火)■

サラリーマンから独立したひとと会って話す。「サービスを検討している最中」らしい。もちろん、否定はしないものの、違和感を抱いてしまう。というのも、社会に提供したいサービスがあって、会社では実現できないから独立があるはずだ。そんな綺麗事ばかりじゃないけれど、基本はそのはず。しかし、順番が逆なのだよな。

・「独立しました」「開業しました」というひとはいるけれど、「サラリーマンに戻りました」「廃業しました」と連絡くれる人はいない。ということは、知らぬ間にいなくなっているのだろうか。寂しいかぎり。しかし、単に見込みの甘さだけではなく、社会に柔軟に対応する意思がなくなったら、独立して生きていけないだろう。

・もちろん、これは自分への戒めの意味も含めて書いている。サラリーマンの年収は毎年下がり続けている。だから、独立志向が高まるのは、やむをえない。ただ、だからこそ、真剣なビジネスモデル構築と実力を高めてから海に飛び込むべきだろう。

・ちなみに、私見を書いておくと、スモールビジネスなのに、マーケットリサーチとかSWOT分析をするひとがいるけれど、不要だろう。それらは大資本が巨額をかけて市場に乗り込む際には必要になる。ただ、個人が食っていく分だけであれば、ただただ「自分マーケティング」と「営業」に力をかけることだ。

・ついでに書いておくと、Facebookを利用して集客するっていうのも、なんだか胡散臭いなあ……。あれなら地道に営業したほうが仕事とれると思うし。Facebookは遊びにすぎないのではないか、というのが有名人ではない私の感想(とてつもない有名人であれば、Facebookを使って集客できるだろうが)。

■7月X日(水)■

・だいぶ前に某小説家に薦めてもらった「七回死んだ男」を読む。ぼくは森博嗣さん以外の日本人ミステリィが苦手なのだけれど、この「七回死んだ男」は面白かった! これは傑作。ちなみに、外国系のミステリィでよければ、この場を借りて推薦しておくと「泥棒は選べない」「フィッツジェラルドをめざした男」「愛と名誉のために」「火刑法廷」かな。

・ちなみに、森博嗣さんの最高傑作は「封印再度」かな。あまりに面白くて、この作品をきっかけに森作品をすべて読むことになった。

・また、ぼくは文章についてフィッツジェラルドをめざした男」のデイヴィッド・ハンドラーに大きな影響を受けている。わざとらしいところとか。カッコつけた文章とか。誰も指摘してくれないので、ここに書いておく。

・以前、ハンドラーの会話文でこういうのがあった。<「キスしていい?」「断る理由が見つからないけれど」>。まあ、こう書くと寒いかもしれないけれど、これをさらっと読ませる文章力がハンドラーにはあるのですよ。この洒脱な会話文が続くのは、日本では、やはり森博嗣さんの「魔剣天翔」の冒頭部分くらいかな。あまりにかっこいいので、俺は「魔剣天翔」の冒頭を書き写したくらいだからね。

■7月X日(木)■

ぼくは音楽では歌謡曲とJAZZとデスメタルが好きなので、カラオケには行かない(歌謡曲はJ-POPではない)。仕事でこの日もカラオケに誘われたけれど、お断り。こういう主義なのです。すみません

・ところで、ぼくは桑田佳祐さんは日本歌謡曲の末裔だと思っている。桑田さんの曲はほぼすべて聞いている。「I LOVE YOU -now & forever-」も当然、予約して購入した。もはや桑田さんは演歌。曲の元ネタを、ボブディラン、ビートルズ、前川清から変化させなかった偉大なるワンパターン。この人ほどの才能は今後出てくるのだろうか。最高傑作は、ソロでは「KEISUKE KUWATA」の「Dear Boys」、サザンでは「SOUTHERN ALL STARS」の「OH! GIRL」だと思うね。

・どうでもいい話だな。

・あとはオフィスに戻ってひたすら資料作成。飲み会のあとで会社に戻るっていうのは仕事中毒者の傾向である。だって間に合わない。モチベーションはまったくないけれど、仕事さえあれば、文句言わずに粛々とやる。これがぼくのスタイルなのである。

・これまで「必死に1万時間を何かに費やせば、その領域のプロになることができる」という言葉を信じてやってきた。一日10時間であれば、1000日だ。一日1時間しか費やさねば、10000日もかかる。なるほど、人生とは選択と集中なのだ、と考えた。そこから、ぼくは調達・購買と、それを発信することだけに時間を費やしてきたわけだけれど……。それで食えるレベルにはなった。この選択肢が正しかったのかわかるのは、きっと死ぬ時だろう。

■7月X日(金)■

・TBSラジオから「節電の夏」の解説依頼。はいよ、なんでも話しますよ。と思ったら、深夜11時からだった。ビールが飲めない。

・それにしても、2011年の節電でもっとも売れた商品は「におい」商品だった。エアコンの設定温度が上昇し、あるいはエアコンなしで働くサラリーマンたちが、一斉に買い集めたのが制汗剤だった。不況のなかで前年比120%の売上高を記録した。まったく誰かの危機は、誰かの好機であるわけだ。

・多くの人は体臭を気にしすぎだと私は思う。しかし、これは人びとがにおいに敏感になっていることを否定するものではない。企業も「におい」戦略をとるようになってきた。たとえば、レクサスは店内に高級感を抱かせるにおいを充満させる。アバクロは各国の消費者にあわせたにおいを店内に充満させている。

おそらく、「においと消費行動」が消費心理学の次なるテーマになるだろう。

■7月X日(土)■

・たとえば、「買いたい」と思った商品に出会ったとき、みなさんはどうするだろうか。「価格しだいだ」ということになるはずだ。それが8万円もするCDだったらどうするだろう。こういうとき、俺はつい買ってしまうのですよ。この日は、某経営者の講演CDを買った(正確には8万4000円だった!)。

・うむ。面白かったら紹介しようと思ったんだけれどね……。固有名詞は避けておこう。

・ちなみに、未来調達研究所では某ホームページにバナー広告を載せた。10万円もかかった。効果ゼロ。ははは。某週刊誌のメールマガジンにも載せた。30万円。これも効果なし。ははは。笑っている場合ではない。ただ、10回失敗しても、11回目に成功するかもしれない。だから、宣伝広告のようなバクチはやめるべきではない。おそらく、10万円でも、30万円でも、奥さんに相談したら止められるだろう。それはまっとうな主婦感覚だ。

・しかし、ビジネスマンは、主婦感覚ではいけないときがある。とくに、学習と宣伝広告費の場合はそうだ。「効果がないかもしれない」「だけど、お金を払わねばわからない」ものにお金を費やす必要がある。ケチなひとは、おそらく学びも得られない。いわば「お札を燃やす勇気」を持たねばならないのだ。

・若き読者に告ぐ。若いころはお金なんて気にせずに、学習にお金を費やせ。金なんて実力がつけばいくらでも戻ってくる。俺の本を買えといっているわけではない。興味があることは後先考えずに金を燃やして学習経験を積め。そして、学んだことを少しでもいいから実行せよ。なんでもいい。その積み重ねが、数年後には大きな差となって表出する。

・「年収の5%を学習に費やせ」というひとがいる。「年収の10%を学習に費やせ」というひともいる。ただ、正確には「希望年収の5~10%を学習に費やせ」ばいい。

・それにしても8万円のCDは面白くなかったなあ(笑)

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