ほんとうの調達・購買・資材理論(坂口孝則)

・これからの「仕様書」の話をしようパート2

前回からはじまった<これからの「仕様書」の話をしよう>だ。この連載では、調達・購買担当者のための「仕様書の見方」を述べていきたい。これまで調達・購買担当者のための「仕様書確認方法」について言及したものはなかった。

上流に介在していくためには、どうしても仕様書を確認する必要がある。ただし、調達・購買担当者は開発者・技術者ではないから、細部にわたる技術知識を求めても、それは無理というものだろう。では、調達・購買担当者として、どのレベルまで確認し、どのように仕様書を変更させればよいのだろうか。

まず前回、お話ししたのは、概念的ではあるけれど、仕様書を見るときの排除項目についてだった。単に仕様書を眺めるのではなく、仕様書に、調達・購買の思想を注入する必要があるのだ。その思想を結実させるものとして、「仕様書で排除すべき3つ」をあげた。

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ここは繰り返しになるから詳しくは述べない(有料会員の方はバックナンバーを確認してほしい)。「排他性の排除」「非代替性の排除」「不明瞭性の排除」だ。

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それで最後の「不明瞭性の排除」について、「5W2H」を満たしていることを条件としておいた。

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それでは、ここから具体的に「5W2H」の考え方を見ていこう。

・「5W2H」観点で仕様書を眺めてみると

まずは、Whatだ。これは、当然ながら仕様書で「具体的に何が必要か」であり「供給者が何をするべきか」について明確になっているかを問うところだ。

ちなみに、直接材だけではなく、間接材の調達・購買担当者も役立つように題材を工夫した。もちろん、例としてあげた品目も、ご自身の担当品目に置き換えて考えてほしい。

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ここで、キーとなるのは「調達・購買担当者が読んでわかるか」だ。自分が読んでもわからないような内容は、サプライヤーが読んでもわからない。自分が何を買っているかを知らない調達・購買担当者は問題外だけれど、仕様についても完全に理解していない調達・購買担当者はたくさんいる。

上記例でいえば、「適切」とか「直観的に明らか」とは、具体的に何を指すのか把握しているだろうか。もちろん、意図的にこのように書いているのであれば、まだ救われる。しかし、意図的ではないのであれば、このような曖昧な言葉が何を指すのか、説明できなければいけない。

このWhatについて、具体的に考えてみよう。

仕様書で、上記のような書き方があった場合、何が問題なのだろうか。繰り返しだが、キーとなるのは「調達・購買担当者が読んでわかるか」だ。このような記述があった場合に、調達・購買担当者は、何をすれば良いか理解できるだろうか。

と、ここまでいえば、この記述に問題があることがわかる。サプライヤーの立場に立ってみれば、「何をすればよいかわからない」からだ。

このままでは、計測することができないからだ。模範例としては、計測方法について言及しておいた。ここまで記載する必要があるかどうかは別問題だ。私が述べたいのは、「What」に関して、不明瞭性がないか。そこに尽きる。

この「What」に関しては、NGワードを設定しておいた。このような言葉が仕様書にあれば、一度チェックしたほうがいい。「NGワード」と述べたが、これらの言葉を使ってはいけない、という強い意味ではない(ほんとうは強い意味だと言い切りたいけれど)。これらの言葉があれば、不明瞭性が残ってしまうことが多い。その意味で、調達・購買担当者は確認しておくべきだ。

また、供給者(サプライヤー)に資格等の条件を付与する場合、あるいは、受給者(バイヤー企業側)の属性について言及すべきときがある。これは「Who(あるいはWhom)」で確認すべきだ。

上記は間接材の例だけれど、WhoやWhomが不明瞭さを残している場合は、サプライヤーの見積りは恣意的なブレから逃れられない。

これ以降も、「5W2H」を確認していく。ただ、重要なのは、これらの確認プロセスを通じて、どのサプライヤーにも通じる仕様書を作成していくことだ。一つの目安として、同じ図面や仕様書を渡したのに、サプライヤー間で

・モノであれば20%
・サービス、役務であれば25%

のズレがあったら、そこにはなんらかの問題が内包されていると考えたほうが良い。つまり、サプライヤーAが100円だったのに、サプライヤーBが125円であれば、仕様書や図面に問題があると考えるのだ。もちろん、特定のサプライヤーのコスト競争力が凄くて、25%の差くらい日常茶飯事だ、ということであればこの限りではない。また、サプライヤーの政治的な判断もあるかもしれない。

その場合は、20%、25%ではなく、30%、35%という設定が適切かもしれない。ただ極論をいえば、まったく同じものを提供するのに、それほどコストがズレることはない。なんらかの基準をもっていれば、仕様書の妥当性を眺める一つの観点になる。仕様書に曖昧さがあるために、サプライヤーの価格がズレると考えるのだ。

まずは、あなたの前を通り過ぎる仕様書について一度眺めてみよう。その仕様書は「What」は明確だろうか。そして、その仕様について、あなたは明確に理解しているだろうか。

<つづく>

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