ほんとうの調達・購買・資材理論(坂口孝則)
・25のスキルと知識がバイヤーを変える
引き続き今回も調達・購買担当者に必要なスキルと知識を解説していきたい。私は、調達・購買担当者として必要な25の知識・スキル領域を紹介した。まずは、そのおさらいから。
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そこで、この25個の調達・購買知識・スキルのうち、1回目は「調達・購買業務基礎Aの調達プロセス整備」、2回目は「コスト削減・見積り査定Aの見積り様式整備」を説明した(有料会員の方はバックナンバーをご参照ください)。これまで説明したところにくわえ、今回ご説明する「海外調達・輸入推進Aの輸入業務基礎知識」を塗りつぶしておいた。
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今回で25個のうち、3つが塗れそうだ。
・海外調達のメリット、デメリットなど
まず、なぜ海外調達・輸入をおこなう必要があるかについて述べたい。物事にはメリットとデメリットがある。端的には「安価な製品を調達する」ことがメリットであり、とはいえ「文化差・言語差によってトラブルが起きる可能性がある」ことがデメリットになるだろう。次のようにまとめておいた。
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いくつかの点をまとめた。アンダーラインのところを説明しよう。さきほどの「コスト安価製品の調達」をはじめとして、「為替リスク軽減」「供給リスク軽減」があるだろう。昨今では貿易赤字が拡大しているものの、企業によってはいまだに輸出過多のところは多い。そうすると円高で利益が減じてしまう。そこで輸入を推進することによって為替のリスクを減らすのだ。また、国内サプライヤー1社からの調達であったところ、海外サプライヤーとのマルチソースによってリスクを分散することもできる。
逆にデメリットも、いくつかあげておいた。同じく、アンダーラインのところを説明しよう。まず「言語差」だ。日本人にとっていまだに英語での意思疎通は支障が多い。対日本サプライヤーであれば10分で確認できる事項も、海外サプライヤーであれば数時間かかることもあるだろう。また、英語の微妙なニュアンスを理解することが難しいために、思い違いが生じることもある。また、「納入遅延」の可能性もある。かつての中国のように、送った荷物の何割かが消えている、ようなことはなくなった。しかし、サプライヤーの工場での生産遅れ、物流配送の遅れ、通関でのトラブル、など海外調達における時間のロスは、さまざまなポイントで想定される。
しかしとはいえ、海外調達、とくに直接輸入によるメリットは大きい。
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これもいくつかまとめておいたが、アンダーラインのところでいえば、
・「コストブラックボックス化の回避」:商社経由輸入であれば、商社のマージンが大きく、実際の価格がわからない。ただし、直接輸入であれば、海外サプライヤーのコストレベルが把握でき、かつ情報を備蓄できる。
・「技術情報、トレンド情報の入手」:海外サプライヤーから直接、技術の動向や海外トレンドの情報を入手できる。これはすごく意義がある。やはり日本のメディアは海外の動向を伝えておらず、海外サプライヤーから直接聞くことのできる生情報は調達活動に影響を与えるだろう。ちなみに、私は海外サプライヤーからきいたアウディやフォルクスワーゲンの調達戦略が自身の調達活動の見直しにつながった(私はその当時、自動車メーカーに勤めていた)。
・「輸入業務ノウハウの取得」:何よりこれが一番のメリットかもしれない。これから日本は為替(円高)の影響で海外調達を推進する必要がある。中国・インド、あるいは他国から「ちゃんと輸入できる」ことはバイヤーの一つの大きなスキルにほかならない。商社任せではなく、みずから輸入できることが、バイヤーの価値を高めることにもつながるだろう。
・海外調達のプロセス
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では、海外調達におけるプロセスを見ていこう。基本的な考えは、日本(国内)サプライヤーと何ら変わるところはない。本来は、すぐれたところが国内であれ海外であれ、どちらからも調達できるようにしておくだけだ。
まずは、「業界調査・サプライヤー調査」をおこない「RFx」によって見積りを入手、「契約・発注」、そして「支払」までを経る。このそれぞれのプロセスについては、おってご説明することにする。この時点では、大きな流れを確認いただきたい。
そして、それぞれの「英語」についても覚えておこう。いうまでもないが、Proposalは提案であり、Offerは申し出のことだ。そして条件が合致した際に、両社でAcceptance(了承)し、ビジネスを開始する。
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海外調達では覚えなければいけない事項が多い。ただ、海外調達の1回目(今回の連載)では、流れをしっかりと把握しておきたい。
・海外調達の流れ
そして、海外調達におけるモノと書類の流れだ。まず、下の図の左上(「海外サプライヤー」)を起点にしたい。海外サプライヤーは、Invoiceと製品を通関業者、物流業者に送る。その代わりに、B/Lを入手する。同時に、送りましたよ、という意味の船積書類をバイヤー企業に送る。
バイヤー企業は物流会社から到着連絡を受けると、(日本では代理通関が認められているから)通関業者に通関依頼をし、通関業者が製品とともに、税関で処理をする。
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この大きな流れを理解していないひとがいるから、この流れは把握しておきたい。各用語の解説は次のとおりだ。
・Invoice:「送り状・請求書」。製品の出荷案内書、明細書、価格計算書、代金請求書を兼ねた商用書類。サプライヤーが買主宛に作成。通関申請で使用。
・Bill of Lading:「船積証券」。運送人と荷送人との間における運送契約に基づき、貨物が運送のために荷送人から運送人に受け取られ、または船積された場合に運送人によって発行される証券。B/Lの引渡しは、有価証券と同一であり、貨物の引渡しと同等効果を持つ。荷為替手形に添付され代金決済にも使用される。
なお、実務的に使われるもののうち、「Surrender B/L」「Sea Waybill」がある。
・Surrender B/L:「元地回収B/L」。本船のほうが書類到着よりも早い場合、書類到着を待つと費用と時間がかかるのと、B/Lの盗難や紛失を恐れてこの方法が考案された。陸揚港はB/L記載のままだが、B/Lの提示は陸揚港ではなくB/L発行会社の元地すなわち船積地で行われる。
・Sea Waybill:「海上運送状」。運送契約の証拠証券、貨物の受取証。ただし、有価証券ではなく担保力がない。
要は、上の二つは正式なB/Lの代替品と考えておくとよい。船ではなく、空輸であるならば、B/Lではなく、AWBというものを使う。
・AIR WAYBILL:「航空貨物運送状」。航空会社が発行する受取証。B/Lと違って有価証券ではなく、流通性はもたない。ただし、B/Lと同様にAWBで代金決済・貨物引渡しはできる。
そして、バイヤー企業に届く、「船積書類」とは、「SHIPPING DOCUMENTS」と訳される。
・SHIPPING DOCUMENTS:「船積書類」。Invoice・ Packing List(梱包明細書)・B/L(船積証券)・保険証券・(場合によっては原産地証明)等の通関に必要な書類。
そして、最後の「通関依頼」では、次のような書類が必要になる。
・通関依頼時の提出書類:通関依頼書、商品説明書、Invoice、B/L、 Packing List
* 材料の成分によって関税が異なる場合は成分表、原産地証明が必要となる場合もある
繰り返しになるものの、これら基本の流れと必要書類を覚えておきたい。
・海外輸入における対価の支払い
そして、モノが届くと、つぎに代金の支払いをおこなう。対価の支払いについては、大きく二つにわかれる。「送金によるもの」と「荷為替によるもの」だ。大雑把にいってしまえば、前者は直接お金をサプライヤーに送ることであり、後者は各国の銀行の与信を使って取引をおこなうことだ。
ここで、このメールマガジンの読者は、さほど「送金によるもの」を覚える必要はない。というのも、これ以降は経理(あるいは物流子会社)の業務であろうからだ。しかし、一点注意していただきたいことは、「T.T.REMITTANCE」だ。なぜ、支払業務で覚えなければいけない項目があるかというと、この「T.T.REMITTANCE」だけは(なぜかとくに韓国系のメーカーが)、「前払い」という意味で使うからだ。私は当初「T.T.REMITTANCE」という条件を掲げるサプライヤーを見て、意味がわからなかった。なぜ送金手段を指定してくるのだ? しかし、聞いてみると、「前払い」の意味だった。
この「T.T.REMITTANCE」=「前払い」は、アリババなどの商取引サイトでも見ることができる。理由はたしかめたがよくわからなかった。韓国系のメーカーに詳しい人がいらっしゃったら、ご教示いただけると幸甚だ。
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そして、もっとも使われる「L/C」とは、「Letter of Credit」のことで、ようするに輸入元と輸入先の銀行の信頼をつかって送金してもらうことだ。バイヤー企業は、バイヤー企業が存在する国の銀行機関にL/C口座をひらくことで、各国への送金が可能となる。
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また、信用状を発行するものにこのL/C(「Letter of Credit」)があるが、手形を発行するものがある。これがD/A(「Document Against Acceptance」)というものだ。詳細は省くものの、現金の支払いを直接おこなうL/C取引にたいして、手形を媒介させることに特徴がある。繰り返し、これは調達・購買担当者が詳細までを覚える必要はなく、概念として知っておけばいい。サプライヤーと話ができるレベルにはなっておこう。
さて、今回は海外調達・輸入推進の1回目として、「輸入業務基礎知識」をお話しした。巷間あふれる調達・購買本には、このように海外調達のプロセスや書類名を明確に伝えるものが少ないから、良い資料になっていれば幸いだ。
ぜひ、次回以降も25のスキルと知識をご紹介したい。
<つづく>