調達・購買担当者の意識改革ステップ・パート6「サプライヤ戦略」その3(坂口孝則)

・サプライヤ戦略とは(前回、前々回の再掲)

解説:サプライヤ戦略とは、公平公正なサプライヤ評価結果をもとに、不公平にサプライヤを扱うことです。サプライヤ評価結果が優れていれば、アライアンス・戦略パートナーと位置づけ、発注量を増やしていきます。さらに、両社でサプライヤの弱点を減らし、強みをより伸ばしていきます。いっぽう、評価結果にすぐれないサプライヤは、取引量を削減し、日々のパフォーマンスを向上していかねばならないと、インセンティブを与えていきます。また、優秀評価のサプライヤとは資本提携を図る、逆に低評価で経営難サプライヤには資本支援を行うなどの方策も考慮します。サプライヤ戦略は、端的にいえば「いかに使うか」「いかに改善させるか」「いかに安定させるか」の三つです。

・調達戦略書作成について

意識改革のために:私の考える調達戦略書とサプライヤ戦略書を再掲します。

http://goo.gl/h4ZKI (調達戦略書)

http://goo.gl/xdprX (サプライヤ戦略書)

今回はサプライヤ戦略書の続きです。前回まではバックナンバーをご参考ください。サプライヤ戦略のうち、まず左側をご覧ください。前回は趨勢分析までを説明しました。そこで、サプライヤの現状について分析したあとに、その下の「技術・開発・製品・設備動向」「グローバル展開動向」「その他、経営課題」を記載していきます。

<クリックすると図を大きくできます>

このサプライヤ戦略書( http://goo.gl/xdprX )の左側は、上図でいうところの「現状」を指します。そして、調達戦略上のシェア分配にどう近づけていくかを考えていきましょう。そこからがサプライヤ戦略書の右側「2.サプライヤ戦略の基本的考え方」「3.サプライヤ予定シェア比率」からはじまります。

そのうえで、当該サプライヤをいかに改善していくか(「4.サプライヤQCDD改善指導の方向性」「5.サプライヤ経営改善指導の方向性」)に行き着きます。サプライヤ評価の方法については、バックナンバー64号を参照なさってください。サプライヤの改善が先にあるのではありません調達戦略目的達成のためにサプライヤ改善があります。順序を逆にしては意味が薄弱になります。よく「なぜサプライヤのQCDを改善する必要があるのだ」と質問するひとがいます。「そもそもQCDにすぐれたサプライヤを使えばいいじゃないか」と。そうです、QCDにすぐれたサプライヤがすでにおり、その活用によって調達戦略が達成できれば良いのです。

逆に、サプライヤの改善がなければ、理想シェアを実現できず、また調達戦略が達成できない際に、サプライヤQCD改善活動が必要になってきます。そして、漠然と改善させるのではなく、具体的改善項目が必須になるのです。

前号でも書いたとおり、サプライヤ戦略とは

1.「いかに使うか」:特定製品領域のシェアを、どのような手段で増減させるかを記載
2.「いかに改善させるか」:QCDのどの項目をどうやって改善させるかを記載
3.「いかに安定させるか」:経営的安定度をいかに保つか・向上させるかを記載

にわかれます。これらは手段であって、その先にある目的を失念してはいけません。ジグソーパズルのピースがサプライヤだとすると、まずはいかに自分の戦略にあてはめて活用するかを考えます(1)。そして、よりよい形に変えていきます(2)。最後に、いつでもそのピースを活用できるように関係改善や経営安定を図っていくわけです。

こう考えると、サプライヤ戦略書に盛り込むべき、調査項目や体裁について「実は考えすぎる必要はない」と理解できるはずです。それらは瑣末なことに過ぎません。骨太に考えれば、調査項目が少なくても(たとえ私の提示したサプライヤ戦略書ではなくても)、体裁が整っていなくても、調達戦略目的達成のためのサプライヤ戦略書になっているか、という一点さえ確保されれば良いことになります。

・サプライヤへの資本注入について

よく調達・購買担当者や調達・購買マネージャーとお話しすると、サプライヤとの関係強化(や、逆に倒産間近のサプライヤ救済)のためにサプライヤへ資本注入を考慮なさっているひとがいます。では、関係強化という意味では、どの程度のお金を注入する必要があるのでしょうか。

もちろん、その答えは「サプライヤをどうしたいか」によって当然ながら変化します。お付き合いていどで株を持ち合うのか、100%の株を取得して支配権を持つかで意味合いが異なります。そこで、この点だけ補足していきましょう。

サプライヤ戦略書にある「6.アライアンス、資本提携・資本注入等の方向性」欄は必ずしも記載する必要はありません。さきほど説明したとおり、必要に応じて記載してください。

<クリックすると図を大きくできます>

資本注入には4段階があると思ってください。それが上図です。

サプライヤの株式の20%を取得すれば、連結決算上では関連会社になります。次に、33%以上です。正確には33.333333……%以上、1/3以上と覚えてください。ここまで株式を取得すると、拒否権を取得できます。みなさんは調達・購買部員ですから、深く理解する必要はありません。ただ、拒否権とは定款の変更や事業譲渡に関わる、要するに重要決定事項について「イヤだ」といえる権利、というていどだけ知っておいてください。

そして、50%超では過半数を占めるので、事実上の経営権取得となります。そして100%は文字通り、完全子会社化です。

このどの段階の資本注入が必要でしょうか。それは、繰り返すと、「サプライヤをどうしたいか」にあります。実際に株取得の場合は、サプライヤの貸借対照表「株主資本」からその額を見つけ、おおまかな金額を想定します。

今回はサプライヤ戦略書についてお話しました。また、次号も続きます。

無料で最強の調達・購買教材を提供していますのでご覧ください

あわせて読みたい