「持続可能な調達」を最低限正しく理解する 11(牧野直哉)
・SDGs
現在、この単語が新聞紙上に登場しない日はないほどに、毎日さまざまな企業や団体、組織の取り組みや、キーパーソンの発言が話題になります。言葉自体は、Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)の頭文字で表現されています。
まず、ごくごく簡単にSDGsの歴史についてふれます。2000年9月の国連ミレニアム・サミットで採択された「国連ミレニアム宣言」をもとに作成された「国連ミレニアム開発目標(MDGs)」は、2015年までに1日1ドル未満で生活する人口比率の半減、すべての子どもが男女の差別なく初等教育の全課程を修了できるようにするなど八つの目標と16のターゲットを定めました。2015年に行われたレビューでは、「貧困人口削減」、「安全な水へのアクセス」などの分野で一定の目標を達成が確認されました。しかし、中国、インドの経済成長によって達成された部分が多く、サハラ砂漠以南の地域などは「乳幼児の死亡率削減」、「妊産婦の健康改善」などすべての分野で目標達成率が低いのが実情でした。MDGsがやり残した目標を達成するため、国連開発計画(UNDP)や国連経済社会局(DESA)の主導で、15年から30年のポスト2015年開発アジェンダが作成され、15年9月の国連総会で「持続可能な開発目標(SDGs)」が採択されました。SDGsは途上国の教育問題などだけでなく、地球環境や都市、雇用、格差問題の解決など先進国にも関係する広範な目標を立てています。
この「SDGs」は、非常に広い範囲を網羅しています。この事実が、SDGsそのものを非常に分かりにくくしている原因です。具体的には17の大きな目標と、それらを達成するための具体的な169のターゲットで構成されています。企業で「持続可能な開発目標」に取り組む場合は、まず自社の事業運営が持続可能な開発目標の達成の阻害要因になっていないかについて確認が必要です。多くの大企業では、こういった確認作業はすでに終了しており、自社の事業内容の結果、社会的なマイナス要因を生むような結果に至らないための活動を行っています。
アルコール飲料を製造販売するメーカーでは、適切な飲酒の方法を広く周知する啓発活動を行っています。むちゃな飲み方によってアルコール消費量が伸びるメリットよりも、消費者の健康に配慮する姿勢を打ち出しています。また、自動車メーカーでは、交通事故の発生を抑えるために、社員に対する安全運転教育を徹底したり、自動車に運転者や同乗者を守るシステムだけではなく、歩行者の安全を守る機能を搭載したりしています。
すでに多くの企業で、SDGsの取り組みは開始されているはずです。開始されているからには、17ある目標の中で、どの目標にターゲットを置いて具体的にアクションするのかが決まっているはずです。それでは17のターゲットを、いくつかに分類して参照してみましょう。
●17の目標
目標1:貧困をなくそう
目標2:飢餓をゼロに
目標3:すべての人に保健と福祉を
目標4:質の高い教育をみんなに
目標5:ジェンダー平等を実現しよう
目標6:安全な水とトイレを世界中に
ここまでの目標は、発展途上国の経済的、社会的な成長を意図した内容かとも思えますね。しかし次の内容を見ると、対象は発展途上国だけではないとご理解いただけるはずです。
目標7:エネルギーをみんなに、そしてクリーンに
目標8:働きがいも経済成長も
目標9:産業と技術革新の基盤をつくろう
目標10:人や国の不平等をなくそう
目標11:住み続けられるまちづくりを
目標12:つくる責任つかう責任
ここまでの目標は、発展途上国に限った話ではなく、日本のような先進国でも十分に何らかの取り組みが求められるテーマになっています。
目標13:気候変動に具体的な対策を
目標14:海の豊かさを守ろう
目標15:陸の豊かさも守ろう
目標16:平和と公正をすべての人に
目標17:パートナーシップで目標を達成しよう
そしてここまでのテーマは、地球全体の問題に焦点を当てて具体的な目標を設定しています。例えば今年の夏の異常な高温の原因が、産業革命以降の化石燃料の使用による地球温暖化が原因であるとすれば、暑さによって体調を崩し、命の危険にまで及ぶ事態になっている現状を見れば、何らかの取り組みが必要なのはご理解いただけるはずです。
外務省の「JAPAN SDGs Action Platform(https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/sdgs/index.html )」では、さまざまな団体の取り組み事例の紹介の中に、企業の事例がたくさん紹介されています。
例えば、アメリカのAppleの場合は、「人に力を与え、地球を保護するサプライチェーン(https://www.apple.com/jp/supplier-responsibility/ )」と題して、
・人権(目標10)
・環境保護(目標13)
・責任あるビジネス慣行(目標5,10,12)
といった形で、調達・購買/サプライチェーンといった役割の中で果たすべきSDGsの目標を設定しています。先進的な企業はすでに取り組みを実践して、自社のブランドイメージの向上を目的としてその詳細を公開しています。日本国内のみならず、海外の競合企業の取り組みに目を向ければ、自社でどういった取り組みを行えばいいのか見当がつくのです。
SDGsについては、無料の資料だけでも十分に内容の理解が可能です。今回の記事のテーマは「持続可能な調達」ですから、SDGsをあまり深く掘り下げません。すでに多くの企業でCSR部門が、自分たちの取り組みとSDGsとをつなげているはずです。まずは、自社の取り組みをホームページにアクセスして確認してみましょう。またCSR調達を実現していれば、それはほぼイコールでSDGsに関連する取り組みになるといえます。重要な点は、そういった「つながり」の理解です。新たな目標やテーマかもしれませんが、多くの企業では従来からの取り組みがそのまま役立ちます。新たに登場した内容と従来から行っている取り組みを意識してつなげ、もし不足している点があればくわえて行うといった考え方が重要です。
(つづく)