【連載】調達・購買の教科書~インフラ、非大量生産系(坂口孝則)

今回の連載は色塗りの箇所です。

<1.基礎>
売上高、工事原価、総利益(粗利益)
資材業務の役割
建設業法の基礎
技術者制度
下請契約の締結

<2.コスト分析>
調達・委託品分類とABC分析
取引先支出分析
注文件数とコスト削減寄与度分析
労務単価試算、適正経費試算
発注履歴使用の仕組みづくり

<3.コスト削減>
取引先検索、取引先調査
コスト削減施策
市中価格比較
価格交渉
VEの進め方

<4.取引先管理>
ベンダーリストの作成
施工品質評価、施工納期評価(取引先評価)、取引先利益率評価
優良表彰制度
協力会社の囲い込み、経営アンケートの作成
協力会社への上限設定

<5.仕組み・組織体制>
予算基準の明確化、コスト削減基準の設定
現業部門との連携
集中購買
業務時間分析
業務過多の調整


調達・購買担当部員として、まず自分たちの仕事がどこに影響を与えるかを、自社の決算書から知っておきましょう。決算書とは損益計算書と貸借対照表などからなります。「など」とは、上場企業か非常上場企業によって種類が異なるからです。ただ、基本的に損益計算書と貸借対照表は作っていますから、自社のを入手してください。

簡単に言えば、損益計算書はいくら売って、いくらかかって、いくら儲かったかを示すものです。貸借対照表は、いくらの資産があったり、いくらの借金があったりするのか、企業の体質を示すものです。

これは、某企業の決算書をベースに作ったものです。

売上高に完成工事高とあります。これが自社の販売した年間の総額を示します。調達部員が見なければいけないのは、下の売上原価にある完成工事原価のところです。製造業では、売上製造原価などと表現されているかもしれません。これは文字通り、工事にいくらぐらいかかったのか、あるいは製造にいくらぐらいかかったのかを表現しているところです。

ただし、ここはあくまで現場の費用に限ると覚えておいてください。

次に、下に行くと、売上総利益があり、完成工事総利益と書かれています。俗っぽい言葉で言えば、これが粗利益です。売った金額から、現場の費用を差し引いた残りの利益です。

さらに、次に、販売費及び一般管理費があります。ここはいわゆる販管費と呼ばれるもので、その他の共通費です。役員報酬やあるいは従業員の給料手当などが含まれています。

決算書の各項目をチェックしたあと、調達部員が見た方がいいのは、完成工事原価の明細です。自社版の決算書であれば、その明細を見ることができます。完成工事原価報告書という名前で付表があるはずです。

なお、サプライヤの決算書を入手しても、この完成工事原価報告書までは開示してくれないかもしれません。自社版であれば問題がないはずです。

そこで材料費は最も分かりやすい調達の担当品目でしょう。この、売上に対する比率が同業他社と比べてどれくらいの高いのか低いのかを見ておきましょう。そして、コスト削減をすることで、材料費が低減しそれが完成工事原価の低減をもたらします。

どこまで調達部門が担当するかによって異なりますが、次に外注費を調達部門が請け負っている場合は、同じくコスト削減などによってここが低減します。

次に経費ですが、これは減価償却費が含まれます。調達部員と減価償却費の関係ですが、主に設備調達を担当している人が関わります。設備の費用は、材料費や外注費には計上されず、減価償却費の名目で計上されるためです。減価償却とは、一括で設備の費用を計上せず、その設備が使える年数、すなわち法定耐用年数で割って計上するものです。同じく設備のコスト削減によってその費用は低減します。

さらに、自分たちの費用はどこに計上されるでしょうか。調達部門が生産部門の直下で計上されている場合は、あくまでも工事原価の中に入っていますから、みなさんのコストは労務費に計上されているはずです。したがって、みなさんが業務効率化を図れば、この労務費が低減されるわけです。

なお、ここは重要なので補足しておきますと、同じ社員であっても、この完成工事原価に入るのか、あるいは共通費として販売費及び一般管理費に入るのかは、部門によって異なることは覚えておきましょう。

調達機能が、たとえば総務部門などにあり、あるいは営業部門が兼務している場合は、損益計算書の販売費及び一般管理費の従業員給料手当に計上されます。また、読者の比率としては低いでしょうが、この販売費及び一般管理費には、事務用品費や通信交通費、あるいは広告宣伝費なども含まれますので、それを調達部門が担当する場合は同じく該当領域に影響を与えます。

次に、貸借対照表を見てください。

*これはさすがに拡大してご覧ください。

そこで右側に負債の部があり、流動負債とあります。流動負債とは、1年以内に支払うものであり、中長期的に借りている固定負債とは違った意味を持ちます。みなさんの会社の支払い条件は知りませんが、さすがにサプライヤ納品後1年を超えて支払う条件はないでしょうから、流動負債に支払い関係は計上されます。

すると、支払手形があります。これは、すなわちみなさんが調達品を発注し、製品を受領し、検収などして、手形を振り出した際、ここに計上されます。そして、電子記録債務あるいは工事未払金といったものが、同じく調達品を発注した際に計上されるものです。

みなさんが調達において、支払い行為に関わるものは右側に計上され、そして貸借対照表の左側には、それがいま、どのような状態にあるかが書かれています。同じく「流動」資産を見てください。材料貯蔵品があります。さらに固定資産の箇所を見てください。建物そして構築物、機械及び装置、車両運送具、工具器具備品などが減価償却累計額として計上されています。

皆さんの会社はビジネスをすることで儲け、その金額が利益剰余金に計上されさらに次の企業活動へ繋がります。

こう考えると、調達部門はコストセンターであり、かつ、プロフィットセンターであるとわかります。コストセンターとは単に費用がかかる部門です。たしかに、事務作業を担う人間としてはコストセンターであり、営業部門と違って、売ってきて利益を直接的に上げられません。しかし、工事の費用を低減するサポートをし、あるいは自らの交渉によって、利益を創出する部門にもなれます。

(つづく)

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