ほんとうの調達・購買・資材理論(牧野直哉)

●4-8これからの方向性を決める ~営業部門から入手する情報~

営業部門と調達購買部門は、社内の業務プロセス上少し遠くに位置する部門になります。しかし、調達購買部門の業務も、営業部門がバイヤ企業の製品なりサービスを顧客へ販売して発生します。一般論として、バイヤ企業の接する販売市場の動向は重要です。加えて自社の営業が認識する市場動向、今後の売上の見通しは注視が必要です。

☆サプライヤの営業担当者はバイヤ企業の受注見通しに興味を持っている

サプライヤの営業担当者のほんとうの興味は何でしょう。

「当面の売上が確保できるかどうか」
「その売上に伴い、適正な利益が確保できるかどうか」
「将来的にどのくらい受注できそうか」

の3つのポイントに興味を持っています。コスト削減やリードタイムの短縮には、積極的な興味をもたないサプライヤが大多数です。サプライヤの営業担当者は、近い将来も安定して仕事が得られるかどうかに、もっとも大きな興味を持っています。一方、バイヤ企業内で「近い将来の安定した仕事」に関する情報を持っている部門は営業部門です。したがって、調達購買部門も、自社の営業が持っている見通しには、大きな価値があると考えるべきなのです。

短期的な発注見通しは、バイヤ企業の生産管理部門によって立案された生産計画によってサプライヤに提供されます。中長期的な見通しは、バイヤー企業の営業部門が持つ、中長期の販売見通しを利用します。情報提供の際に注意すべき点は、バイヤ企業の営業部門が持っている情報は、そのままサプライヤーに具体的な発注量を提示するものではありません。あくまでも可能性を示すものです。そのような前提条件の下、サプライヤへ将来への準備を働きかけ、一緒に将来のビジネスを考えるネタとして活用します。ビジネスのネタとは、最初は曖昧でつかみどころがないものです。しかし、そういった情報であっても、自社だけでなくサプライヤーとも共同して、将来的なビジネスを探し出す取り組みこそ重要なのです。また、こういった取り組みは、単発ではなく、継続的に取り組んでこそ、意義が生まれます。

☆中長期的なサプライヤーとのリレーション構築

営業から入手した中長期の受注見通しは、調達購買部門にとっても、どのようなサプライヤーを確保していくかを判断する上での重要な指針となります。サプライヤも、目の前の短期的なビジネスだけでなく、中長期のビジネスプランを立てているはずです。バイヤ企業として中長期の経営計画の見直しをする際、サプライヤとの将来的な事業の方向性を討議する場を持ちましょう。その際には、バイヤ企業として現在購入している製品やサービスだけでなく、サプライヤの全体事業に関する方向性を確認します。サプライヤによっては、ある製品や加工技術だけに特化しているケースは少ないはずです。現在は購入していないリソースを持っている場合が多いはずです。普段、目の前の仕事に集中している分、年に1~2回程度は、過去と現在だけではない、将来的な関係の方向性を見いだします。時間と将来像の共有が、中長期的な関係を築いていくうえでは重要になってきます。ただ、闇雲に「将来どうしようか」と話を始めても、それこそ雲をつかむような話になってしまいます。そこで、営業からの見通しを活用するのです。

☆競合他社情報

自社の営業が、どんな企業と競合しているかを調達購買部門でも認識していますか。市場で競合するのは、営業部門の力だけではありません。調達購買部門のアウトプットも、企業の競争力を構成する重要な要素です。社内の各部門の結集した力が、企業全体の競争力になります。自社よりも競合他社に市場における優位性がある場合、競合他社の強さの源泉はどこにあるのか。強さの要因を分析する場合、競合他社が取引しているサプライヤーの強さが影響している場合があります。そのような場合は、まず調達購買部門でも優位性の源泉を分析します。営業からの情報を活用して、自社のサプライヤーにも同じような優位性の確保を促します。加えて、競合他社のサプライヤーへアプローチして、自社との取引の模索もおこないます。自社のサプライヤーの取り組みが思わしくない場合には、思い切って競合他社のサプライヤーとの取引を開始して、自社の不利な要因を取り除く。そういった取り組みも必要なのです。

(つづく)

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