IoTと調達・購買の未来【長文】(坂口孝則)

*長文ですのであらかじめご容赦ください。

・IoTと私たちの未来、ビジネスモデル

このところIoTなる単語が出てきました。このIoTとは、Internet of Thingsの略で、一般的に多くのモノがインターネットにつながることを指します。2020年までには、500億台ものスマートデバイスあるいはセンサー類がインターネットにつながるといわれています。そして、それぞれのデバイスや機器等がデータを発信することで、分析が進み新たなビジネスモデルが登場するといわれています。

たとえば現在、装着型(ウェアラブル)のデジタルリストバンドがあります。NIKEなどのものが有名ですよね。日々の活動量を計測でき、それをコンピュータやサーバーとつなげることで健康管理をデジタル管理していくものです。

このIoT市場は19兆ドルに達すると言われています。この数字をそのまま鵜呑みにするかは別問題です。ただ、それだけ大きな市場規模であるのは間違いありません。しかもこれは生活にインパクトを与えるのも間違いないでしょう。たとえば、スペインのバルセロナはスマートシティを目論み、都市のいたるところにwi-fiスポットとセンサーを置き始めました。かつそれを公開することでビッグデータを活用しようとする動きです。都市ではクルマの40%が実は駐車場を探すために動いています。バルセロナでは、スマートフォンにその時点での空き駐車場を発信し、都市の交通状況軽減を実現しました。

もちろん問題がなくはありません。都市における市民の活動がデータ化し共有化されることに拒絶感を持つひとはいるでしょう。それに誰が管理するのか、民間企業だったら悪用や流用の可能性はないのか、またインターネット回線を使うことで脆弱性は克服できるのかーーなど。ただ、それを問題とは認識しつつも、現在ではIoTの流れが止まりません。

IoTの本質とは、「リアルと、電子上に、二つのアドレスを持つこと」です。あなたはもちろん現在の日本に存在します。そして、あなたの各種情報(好みや日常の運動状況や商品の購入履歴など)がかたまって電子上にも存在するわけです。そして、IoTでは、「あなた」は人間だけにとどまりません。モノもリアルと電子上に存在します。たとえば現在、設備機器各社は自社設備にセンサーをつけ遠隔監視する取り組みを拡大しています。こうすれば、客先での稼働状況がわかるとともに保守点検タイミングがわかるからです。また、客先のシーケンス情報と連携することでプログラミングの書き換えも期待されます。

ここで古臭いビジネスモデルを考えてみましょう。たとえば冷蔵庫です。冷蔵庫がIoTの時代にどう進化するでしょう。冷蔵庫はリアルと電子上の二つの世界に存在します。そして、その冷蔵庫が置かれる家庭に、お父さん、お母さん、子どもの三人がいるとします。そうすれば、冷蔵庫はきっとTwitterかfacebookで、その三人のアカウントをフォローすることになるでしょう。そして冷蔵庫は三人の各発言を分析し(テキストマイニングし)好みや、いつも食品を取り出すタイミングを察知して、スーパーマーケットにたいして補充の依頼をかけるに違いありません。

さらに進化すれば、スーパーマーケットや食品ベンダーは、予測発送システムにより、一方的に食品を補充するでしょう。製造業ではコック方式、などというケースもあるように、使った分だけ支払う方式です。ですから、冷蔵庫には自動的に食品が補充され、月末に使用した分だけ請求書が届く、あるいは銀行口座から自動引落しされるでしょう。さらにもっと進化すれば、冷蔵庫は、もはや消費者が購入するものではなくなるはずです。メーカーから無料提供され、メーカーはIoT技術によって取得し分析した消費行動データを、スーパーマーケットに販売することで儲けるビジネスモデルになるのです。

こう考えると、メーカーの形が極端なまでに変容せざるを得ないことがわかるでしょう。製造業とIT業はイコールになるといったのは私でしたが、製造業はモノ提供業からデータ提供業に移行する可能性を秘めています。あまり妄想はやめるべきでしょうが、もしかすると洗濯機のようなビジネスモデルも、衣料の劣化を察知したのちに、ユーザーに買い替えの伝達をするモデルになる可能性があります。

また、さきほど紹介したウェアラブル端末が極小化し、かつ体内に埋め込まれるようになれば、広告も変化していくでしょう。糖分を欲しているとき、自動販売機が「コーラ買いませんか」とスマホに広告をプッシュ通知するケースが考えられます。また体調の不調を察知すれば、ドラッグストアの近くで「風邪薬を買いませんか」と通知することもありうるでしょう。宣伝広告はミクロになり、マス広告からミクロ広告に移っていくはずです。そうなったとき、私たちはサイバースペース上の情報を使われ、スポンサーから籠絡される囚人となるのでしょうか。または、利便性の向上と呼ぶべきでしょうか。これはわかりませんし、評価によってもわかれるでしょう。

ただ、これは音楽業界にも応用されており、現在では、どのタイミングでどの購買層が、どのような曲を購入したのか分析されています。この分析ロボットを使うと、曲をリリース前に、どれだけヒットするかも予測できるそうです(!)。すべてがデータ収集されるとき、私たちの生活はどう変わるのでしょうか。

・IoTと調達・購買について

ところで、ここで調達・購買についての予想をしてみます。すべての機器類がIoTの名のもとにインターネットにつながったときの変化です。

1.FIFOの終焉
2.設備投資の明確化
3.ABC分析の実現化
4.PLC2.0のはじまり

この四つを私は予想しています。

1.FIFOの終焉

まず、FIFO(First in First out~先入れ先出し)の概念は崩れる可能性があります。というのも、それぞれの部材(や在庫)にIDが付与され管理されれば、当然ながら整理整頓が不要になるからです。私が思うにWINDOWSの大きな進化は「ファイル検索」にありました。みなさんが日頃の業務で活用なさっているとおり、仕事で作ったファイルはフォルダーに細かく分ける必要がほとんどなくなりました。なぜならば、乱雑に入れても、のちにキーワードで検索すれば良いだけだからです。これは一つの整理革命だった、と私は思います。

とすれば、在庫にIDがつけば、乱雑に置いても(もちろんレベルにはよるでしょうが)、すぐさまピッキングできれば、問題はなくなるはずです。モノを整理するコストと、そのあとに探すコストを天秤にかけて判断されるべきです。パソコンのファイル管理では、乱雑に置いても、あとで検索すれば良いと多くは判断されました。

また、これはFIFOではありませんが、部材検索によって各社の生産性が向上する可能性があります。というのも、恥ずかしながら、少なからぬ企業で困っているのは「生産したいんだけれど、どうしても生産中止になっている半導体を使わねばならない」ケースがあります。こういった場合のとき、バイヤーは人脈を使ったり、半導体中止品取扱商社などにコンタクトし、なんとか探しだすのが仕事です。属人的ですが、これでバイヤーのスキルにもよります。ただ、こういった生産中止半導体って、意外にも系列会社の在庫にあったり、あるいは他拠点の在庫にあったりします。しかし、現在では、その部材の在庫があるのか、そしてその部材は生産に使われるのかといった「見える化情報」はありません。これがIoTによって在庫情報を活用できれば、かなりトラブルは減るのではないでしょうか。

2.設備投資の明確化

また、設備調達の領域にも影響を与えるでしょう。というのも、企業には「法定耐用年数」という障害があります。これは、「設備は何年くらい使えるはずだから、その何年にわけてコスト計上しなさい」という国からのお達しです。

たとえば1億円かかった設備投資でも、その法定耐用年数が10年と定められていれば、1000万円ずつ10年にわたって費用計上せねばなりません(正確には定率法と定額法があるのですが、ここでは簡易的にこう説明します)。したがって、本来は1億円のコストがかかっているのに、初年度は1000万円しか計上できません。もちろん、「とはいっても、いつかは全額を計上できるんだから良いじゃないか」と思われるかもしれません。しかし、時期の問題があります。みなさんが10万円を旅費として使って、会社からは1万円ずつ10年にわたって支払うといわれたらどうしますか。

それに加えて、この法定耐用年数の問題は、「国が定める年数が長すぎる」ことにあります。たとえば、飲食店の木造建屋は22年で耐用年数設定しなさいということになっています(つまり22年に分割して減価償却しなさい、ということです)。しかし、みなさんのまわりの店舗を見ても22年間おなじ建屋で営業している店なんてありませんよね? 製造業の設備でいっても、法定耐用年数の75%くらいが実態の使用年数だと「いわれています」。

が、この「いわれています」がIoTで解決する可能性があります。設備にセンサーがつき、稼働状況、ならびに何年くらい使用されているかが徐々にデータ備蓄されるでしょう。そうなれば、実態としての耐用年数がわかります。これを吸い上げるのは公的機関か業界団体かはわかりませんけれど、それによって精緻な年数把握につながります。これは設備投資を促進(あるいは減少)させるに重要な数値です。

現在は各業界の稼働率といったところで、アンケート結果を元にしています。それを明確なデータがあれば、より正確な原価計算もできるでしょう。

また、調達・購買担当者からいうと、現在いま時点での設備稼働状況がわかれば、ヒマなサプライヤに格安で外注委託できるかもしれません。それは大げさに言えば、日本全体の稼働率向上につながるでしょう。

3.ABC分析の実現化

これは「Activity-based costing」の略です。簡単にいえば、間接コストをいかに製品に割り振るかの原価計算方式だと思ってください。このABC分析というものは間接コストを時間だったり、作業回数だったりで配賦(コストを割り付けることです)することになっていました。しかし、間接コストの割り振りとは、非常に難しく、現実的には机上の空論でした。反論したいひともいるでしょうが、正確に計算できる、と胸を張るひとはほとんどいないはずです。

それにたいして、作業者にウェアラブル端末を装着させ、具体的な一つひとつの活動を計測することができれば、このABC分析が実現化できます。たとえば、物流倉庫で、それぞれの貨物を一人あたり何秒くらい取り扱っているかなど実際は計算できませんでした。ただ、ハンドセンサーが発達すれば、検索・ピッキング・伝票処理などにそれぞれどれくらいかかっているかが明確になるはずです。

もちろん直接原価計算は重要ですが、間接コストまでを正確に計測して個々製品原価までを把握したい企業には追い風となるはずです。

さらに夢想的にいえば、サプライヤにたいする原価管理もおなじでしょう。これまで以上に各作業者のデータが集まってくれば、正しく見積り査定ができるようになります。これまでは「オタクの仕事は儲からない」といったセリフを享受してきた調達・購買部門ですが、実際に見積書コストは妥当なのか、あるいは不当なのかがわかります。

4.PLC2.0のはじまり

また、最後に紹介したいのがPLCです。PLCとは、Product Life Cycle Managementで、製品の寿命管理とか、そのままですが、ライフサイクル管理といわれています。つまりは、その商品がどれだけ市場で命を持つかを管理するわけです。調達・購買の観点から問題となるのは、「とはいっても、結局、どれくらいの寿命設計をするの」ということです。設計仕様は5年となっているのに、余裕を見て10年くらいの耐用設計になるケースは珍しくありません。むかしはギャグで、洗濯機はすべてがダメになってもモーターだけは生き残るといわれていました。これは、一日5回くらい洗濯機をまわすヘビーユーザーを基準に設計しているため、モーターだけの寿命が長くなってしまうのです。

調達・購買部門は「コスト安価な調達品を勧め」、設計開発部門は「長寿命を望む」といった不毛な議論に終止符がうたれるでしょう。というのもIoTによって、その製品の実使用時間がわかるのです。そうすれば、どれくらい使用されている機能なのか(部品なのか)がわかりますし、その実態におうじたPLCが可能でしょう。それを2.0と呼ぶかはわかりませんが、少なくとも不必要な設計が削除されるでしょう。

これは機能自体にもあてはまります。現在は白物家電を中心として、「機能インフレ」といわれます。つまり、消費者が使うかはわからないものの、差別化のためにガンガン機能を追加するのです。その結果、誰もが使わない機能が山盛りされているわけです。おなじくIoTによって、そもそも使われていない機能が判断できるはずです。それによって、部品レベルではなく、特定機能の「いる、いらない」が議論できるでしょう。

おそらく、私は、このへんに次の「真なる開発購買のカタチ」があると思っています。すなわち、開発購買とは、設計開発部門出身のひとたちがいるセクションではなく、データをもとに新製品機能を提案していく、いわばデータサイエンティストのイメージです。

となると、調達・購買担当者が必要な能力は「統計」とその解釈スキルになるはずです。

その意味でも私は「ビジネス統計入門」を書きました。この予想に乗っていただけるかは別として、今回はIoTと私たちの将来像について私見たっぷりにお話しました。

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