ほんとうの調達・購買・資材理論(牧野直哉)
コストダウンの重要性は認識していても、なかなか進まない……どこの調達購買部門でも抱えている大きな問題です。そもそもコストダウンは、簡単に成果を得られるものではありません。だからこそバイヤーもなんとなく取り組みが億劫(おっくう)になり、本来推進役でなければならないにもかかわらず、推進どころか、自らの動きも止まってしまうのです。
コストダウンは、日常的におこなうべきもの。しかし、実態として取り組んでいない実態から抜け出られない……。そんな状況を打破するには、なんらかの「きっかけ」が必要です。
1.「事件」を利用した情報収集
自社(バイヤー企業)とサプライヤーの間で発生した事件=トラブルを活用します。納期や品質問題に頭を悩ませている場合には、禍を転じて福となすための取り組みです。
「きっかけ」とするためには、「事件=トラブル」の発生原因が、サプライヤー責任の場合のみです。サプライヤーが自社(バイヤー企業)に「迷惑をかけている」状況を最大限、活用します。
事件=トラブル発生時は、なんとか早期に収束して欲しいと願うはずです。その願いの実現を、他力本願でなく、自らの行動によって実現させ、加えてコストダウンの糸口も見つけ出します。
トラブル対応には、二種類あります
(1)短期的改善策
今、まさに起こっている問題の収束です。納期遅れであれば、その解消を。品質問題であれば、良品の提供を一刻も早く実現します。問題が大きければ、社内は複数の関連部門の中で、情報が錯そうし、混乱が新たな混乱を呼んでしまいます。この段階で、調達・購買部門がおこなうべきは、①サプライヤーとのコンタクトの単線化 ②情報管理 の二点です。影響を受けている自社(バイヤー企業)内関連部門、あるいはお客様の問題解消を最終ゴールとして取り組みます。
(2)中長期改善策
上記(1)の短期的改善策が終わり、問題が解消してしまうと、トラブルシューティングも終了していませんか。これは、かなり「もったいない」事態です。起こった問題がサプライヤーにある場合は、その根本的な原因究明や、改善策立案と実行も、調達・購買部門として主導しておこないます。どう進めるのか。次のプロセスで進めます。
①不具合内容報告会の開催
まず、どのような原因で発生したのかについて、サプライヤーからの報告を求めます。この報告会には、自社(バイヤー企業)で発生した対応に要した費用をあらかじめ積算しておきます。積算の際のポイントは、直接的な発生費用だけではなく、間接的な発生費用も含めるとの点です。
一般的なサプライヤーに起因する不具合の求償は、直接的な損害かつ、サプライヤーからの購入金額を上限とするといった条件になっているでしょう。そして二次的な損害は、自社(バイヤー企業)からサプライヤーに請求できない、そうなっているはずです。
しかし、不具合発生から解消に至る一連のプロセスで、サプライヤーに請求していなくても、自社(バイヤー企業)内で発生している費用がある場合、被った損害として数値化し、今後二度と発生させてはならないとの主張とともに、サプライヤーに伝えなければなりません。だからこそ、再発してもらっては困る!との強い意志を、二度と同じ費用を発生させないために数値化して自社(バイヤー企業)からサプライヤーへ伝えます。不具合原因究明~再発防止策実行に至るプロセスの、キックオフ的な位置付けです。
②再発防止策の実行状況確認
①から時間を要する場合は、何度か中間報告を挟みます。中間報告は文書による報告でもよいでしょう。その上で、再発防止策を決定し、実行した後に、最終的に確認します。
自社(バイヤー企業)からは、調達・購買部門のみならず、関連部門を含めて再発防止策を確認します。重ねて、二度と不具合は起こさないとの認識を、自社(バイヤー企業)とサプライヤーとの間で共有します。
ここまでの2つのプロセスで重要なのは、再発防止への取り組み、認識の共有化と、プロセスの中でのサプライヤーとの質疑応答です。原因究明には、再発防止前の製造プロセスの理解が必要です。再発防止策を盛りこんだプロセスも合わせて理解します。サプライヤーにおけるプロセスの情報は、すべてコスト発生要素の塊です。また、質疑応答によってサプライヤーから提示される情報からも、さまざまなコスト情報の推察が可能です。不具合発生から、その解消、再発防止策の実行まで、サプライヤー情報の収集と位置付ければ、トラブルシューティングも、対応する価値が高まるのです。
(つづく)