ほんとうの調達・購買・資材理論(牧野直哉)
バイヤーとして品質にどう関わってゆくか 2
前号では、品質に関わってゆくことが、バイヤーとしての皆さんの価値を高める可能性があるということをお伝えしました。今回は、具体的な関わり方についてです。
まず、確認します。皆さんがお勤めの会社では、品質保証について、どこが(誰が)責任を持っていますか。一定規模以上の製造業であれば、品質保証をつかさどる部門がありますね。そのような時は、その部門に責任があり、品質保証にかかわる業務を所管していることになります。一方、品質保証をつかさどる部門が無い場合もあるでしょう。小規模の企業であったり、商社であったりする場合には、そもそも品質保証を担当する部門が存在しない場合も多いはずです。その場合には、実質的に誰かが担っているかを確認したり、商社の場合は製品供給する企業との契約で、品質保証を担保するといった形で担うことになります。ここで重要な点は、バイヤーが行なう売買に品質保証は不可欠であるということです。それは、品質保証部門があるとかないとかには関係しません。購入の対価に見合う機能・品質は当然確保しなければならないのです。確保する上で、バイヤーもその一翼を担うことは必要なのです。
では、自社、バイヤー企業に品質保証部門がある場合、どのように品質へ携わってゆくかです。
サプライヤーから購入するモノ・サービスに関して、正しく機能し、品質も確保されていることを、なにをもって確認しているかを、バイヤーとして理解することが必要です。例えば、受け入れ検査の実施といっても、誰がどのように、どんな内容で行なうのかを明確にする必要があります。その上でバイヤーとして理解する。この理解が、品質への関与には重要です。
ある程度、品質管理について仕組みを持っている企業では、納入される製品の品質チェック方法が明確化され、方法に沿ってチェックしているはずです。そして検査結果をサプライヤーに公開してもいますね。社内の掲示板であったり、サプライラーも閲覧可能なポータルサイトであったりによってです。これからにはバイヤーも容易にアクセスが可能なはずです。納入された製品に問題が多い場合には、当然良品率が低下しますね。バイヤーは、自分が担当しているサプライヤーの良品の納入状況を掌握します。その上で、どのような結果であっても、サプライヤーに対して品質問題について話をすることが必要です。例えば、こんな感じです。
「いつも良品を納めて頂いて、有難うございます。御社の品質管理は素晴らしいですね。今度、御社にうかがった際には、御社のシステムを拝見したいですね」
「先月は、ちょっと不良多かったみたいですね。なにか工場内で問題があったのですか?なにか大きな変更があったとか。なにか御存知ですか」
「ちょっと不良の納入が続いていますね。これって、具体的な原因究明と対策を講じていますか。どんなスケジュールで行なうのか、今度教えて頂けますか。」
「不良率が改善されましたね。有難うございます。具体的な改善点はどこですか。これからぜひ継続してくださいね」
サプライヤーの営業担当者に、上記4つの質問をします。上記4つは、
1. 良品納入が継続している
2. 良品率が低下した(不良率が増えた)
3. 不良率の低い状況が継続している
4. 不良率が改善した(良品率が上がった)
の状況に対応しています。このような質問をすると、たいていの営業マンは驚きます。いずれのケースも、私がこれまで確認した営業マンは即答できませんでした。多くの場合、営業マンは、品質保証部門のある企業のバイヤーが、品質問題に関心があるなんて思っていないんです。そして、これを思いつきの発言で終わらせないために、質問した内容に関して確実に回答を入手しましょう。メールでも電話でも、次回会ったときでも良いのです。継続的にバイヤーとして品質に関心を抱いていることを、サプライヤーへ示すのです。関心を示す際に重要なことは、不良率が数値で示されていれば、その数値をバイヤーが声に出して、サプライヤーの営業マンへ伝えることです。バイヤーが品質に関心を持っていること、これがバイヤーの品質への関わりの第一歩です。
もう一つ、サプライヤーへおこなった質問とまったく同じ内容を投げかける相手がいます。社内の品質保証部門の担当者です。ここでも、サプライヤーに対してと同じく、バイヤーとして関心があることを品質保証の担当者に知らしめるのです。
ここではバイヤーが持つ品質への「関心」の重要性を説いています。では、関心とは精神論かといえば違います。実は品質問題とは、バイヤーにとってそもそも関わりづらい問題なのです。
内部統制強化による動きを例にします。発注者と受領者を分離しなければならないといったことが行なわれていますね。調達・購買で、サプライヤーの選定がバイヤー個人の利益に繋がらないような仕組みが、特に上場企業にもうけられています。あるサプライヤーからの製品が、良品であるか否かという判断を、バイヤーはおこなうことはできません。受領できるか否かは、調達購買部門以外の人間が行なわなければなりません。この内部統制を担保するためのルールが、バイヤーの品質問題への主体的な関わりを妨げているともいえます。いうなれば隠れ蓑ですね。ここで、ほんとうに隠れてしまうか、それとも自らおこなうバイヤー業務に、間接的とはいえ取り込んでいくか。さらには、企業としてのバイイングパワーの増大に利用するかどうか。この違いは大きいはずです。
個人の行なう「買い」と、企業の行なう「買い」の違い。それは、買うことにともなって行なわなければならない意思決定を一人で行なうか、それとも買う行為にまるわる責任を細分化して、それぞれに別の人間が責任を持つかの違いです。企業の持つバイイングパワーを最大化しようとする場合、それぞれの持つ責任をまとめる必要があります。それには、バイヤーは直接的な職責のみならず、他部門の持つ職責にまつわる部分にも言及する必要があります。できれば、言及=口を出すだけでなく、発言に影響力を持つ、最終的にはコントロールしているとの認識をサプライヤー側が抱くことが必要です。そのために、先に掲げた4つのコメントをサプライヤーへおこなうことから始めるのです。