■■坂口孝則の「超」調達日記(坂口孝則)■■

■7月X日(月)■

・この日、ぼく(これ以降、主語「ぼく」「私」「俺」が混在するもののご容赦のほど)がコンサルティングをしている士業のひとの独立支援が終わる。社会保険労務士の方で、コンサルティングメニューを二人で作り上げた。それにしても、この社会保険労務士の方は50歳ちかいのだけれど、この年齢から会社を飛び出して独立しようとする気概に驚いた。ぼくが50歳まで大企業に勤めていたら、独立しようとしただろうか。

・もちろん、年齢は関係ないだろう。以前、感銘を受けた本に上田紀行さんの「かけがえのない人間」という名著がある。上田さんのお母様は70歳をすぎてから、一人でスペインに出向き、ダンスとスペイン語を学んでいるエピソードがある。やはり、年齢に縛られることが、一つの思い込みなのかもしれない。

・「人生はいつからでもやり直すことができる」といわれる。ただし、その条件は「本人にやる気があれば」だ。多くのひとは体力と気力の問題があって、人生を本気で変えようとしない。それはしかたがないことだ。加齢するたびに写真が好きになるのは、きっと、現在や過去を大切に残しておきたいからだろう。どうしても発想が将来に向かない。

・ドラッカーは、人びとが豊かになった理由は、企業でひとびとが長く働くようになたからだといった。なるほど、平均労働年数が20年の社会と、40年の社会では、生産物の量も消費量も違う。とすれば、さらに豊かになろうと思えば、60歳定年で人生を終えるのではなく、70歳・80歳まで働く必要がある。マーケティング的にいえば、シニア世代にいかに働く意味を与えるかが問題になるだろう。おそらく、「シニア」という名称自体が、当人たちは拒否感を抱くものであろうけれど

■7月X日(火)■

・朝5時から原稿を二つ書く。毎週のように締め切りがある。ところで、今回の締め切りの一つは、あの「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」を編集した加藤貞顕さんの会社からだった(ご本人は、「もしドラ」のあと、ダイヤモンド社を退職なさっている)。媒体名は「cakes」。うむ、成功してほしいな。あの橘玲さんや岡田斗司夫さんも寄稿なさるという。

・と、盛り上がっていると、メールボックスに、基地の外からメッセージが届く。どうも、ぼくが書いた記事について気に食わないようだ。批判の嵐。このようなメッセージが届いたとき、ぼくは対応を決めている。「無視する」ことだ。Twitterでも、Facebookでも、ぼくとつながっているひとはよくおわかりのように、一切の反論や返信をしない。ムダだからだ。著名人のなかで、一つひとつの批判に応えているひとを見ると、偉いな、と思う。いや、正直には、偉いというよりも、やめときゃいいのに、と思う。

・可能性として(1)ぼくが反論を書くことで批判者が納得する (2)批判者によけいに怒らせる の二つを考えたときに、圧倒的に(2)であろうことは想像できる。ということは、反論するだけムダという合理的選択となる。しかし、ソーシャルメディア(TwitterやFacebook)の利点は、バカを観察できることだ。まったく論理だっていないことをいうひと、反論になっていないことを理解していないひと、支離滅裂なひと。こういうひとが予想以上に多いことを知ることができる。このバカの大群のなかで、自分はどう生きるべきか。なかなか勉強になる。

・たとえば、料理レポーターで、食事の悪口ばかり言っているひとがいたら、どう思うだろうか。きっとテレビ局は使わなくなるし、視聴者も見たくない。固有名詞を批判するときには、「芸」が必要とされる(かつてのビートたけしや毒蝮三太夫はこの芸の達人だった)。その芸なしで批判すると、見苦しい。

■7月X日(水)■

・朝からセミナーの準備をする。今回は、ぼくと小倉正嗣さんのジョイントセミナーだった。11時に待ち合わせし、喫茶店でセミナー進行について最終の打ち合わせ。テーマは、「営業」で、BtoB営業のセミナーだった。

・調達・購買の立場から、すぐれた営業マンについて語るというもの。あまりに熱くなりすぎて、予定の時間をオーバーしてしまった。実は、時間をオーバーするというのは、ぼくにとってはきわめて珍しいこと。反省している。俺もまだまだですね。

・アンケートの結果は、ほぼすべて「満足した」だった。ほんとかよ。打ち上げで小倉さんと飲み、酔いすぎて帰宅。

■7月X日(木)■

・早朝に起きて広島に向かう。いよいよプロジェクトも佳境だ。体調に注意して頑張らねばならない。行きの飛行機のなかで「円のゆくえを問いなおす」と「人口18万の街がなぜ美食世界一になれたのか」を読む。前書は傑作。あの山形浩生さんが大絶賛していたので買ったところ、予想通りの当たり本。円高と円安の二項対立ではなく、普通の円高と行き過ぎの円高を対比して語ってくれる稀有な本。著者は若いなあ。後者は高城剛さんの新作。おそらく、高城さんは一般向けに日本ではじめて分子料理の存在を語ったと思うんだけれど、よくもまあ、これだけ広いジャンルを書けるなあ。まずまず。高城さんの本はほとんど読んでいるけれど、「サバイバル時代の海外旅行術」「私の名前は、高城剛。住所不定、職業不明」が面白いかなあ。他の本との重複もないし。

・このところ、飛行機のなかで、さまざまなことを考える。今後のビジネスの展開についてだ。ぼくは会社を拡大したほうが良いのだろうか。あるいは数人だけの個人企業の形を継続したほうが良いのだろうか。もし前者だとすると、どのような事業を行うべきか。たとえば、10人の組織だったとする。給料+賞与積立+社会保険料+その他もろもろで、一人あたり100万円として10人では、1000万円の売上高をつくる必要がある。因数分解して考えてみよう。コンサルティングで700万円、研修や商品販売で300万円だ。どうだろうか、いけそうだろうか。まあ、俺と働いてみたいというひとがいるかどうかが問題ではあるけれど。

ところで、ぼくは「数人だけの個人企業の形」と思っていた。ただ、先日、川北英貴さんと話していたら、川北さんはめちゃくちゃニッチな領域で、組織化しているんだよなあ。資金繰りと倒産防止コンサルニッチなんだけれど、当領域でこれほど組織化できるとは思わなかったよ。ご本人に、「営業はご自身ですか?」と聞いたら、部下がやっているという。自分はマネジメントのみ。うむ、理想的な組織だ。思考は続く。

■7月X日(金)■

・ぼくの「営業と詐欺のあいだ」を参考にしましたという、web記事のリンクが送られてきた。笑った。ほとんどぼくの本を丸写ししただけ。何の工夫も、オリジナリティも感じられない。「年間800億円の被害!あなたを狙う悪質商法の手口5つ」。いや、マジで参考になる。世の中のライターというお仕事は、これほど安易で、お手軽なものだったのね。努力を重ねる必要もなし。ははは。すごいね、これ。俺のほうが原稿料ほしいよ。

海外勢の躍進とかいうけれども、一人ひとりの日本人は職業人として海外勢よりも努力しているのだろうか。学んでいるのだろうか。恥じぬ仕事をしているのだろうか。竹中労さんの狂気じみた取材力や、開高健さんの美文に酔いしれたぼくとしては、いまのライターに違和感を抱くものである。

・夜は飲み会。50代のみなさまと、フォークソングの話で盛り上がる。どんな話にもついていける、を特技としている私であります(スポーツ除く)。さだまさしさんの伝説のユニット「グレープ ザ・ベストについての熱い議論。まあ、いまの二十代や三十代は、「精霊流し」「無縁坂」「縁切寺」といっても、なんのことやらわからないだろうが。岡林信康さん、加川良さん、友部正人さんといったスタンダードな名前も、いまではほとんど通じない。通じるのは吉田拓郎さんと井上陽水さんくらいかな。通じるひとたちの特徴は、フォークソングからニューミュージックへの転換を図ったことだ。やはり、時代の変化に追従しなければいけないのね。

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