ほんとうの調達・購買・資材理論(牧野直哉)

サプライヤーマネジメント原論 6~関係断絶理論

今回は、サプライヤーとの関係を断絶する際の、突然おこる「倒産」についてのお話です。バイヤーの意図しない関係断絶ではありますが、その対応には待ったなしにさまざまな行動が求められる、とされています。

本有料マガジンの13号、「新規サプライヤーを開拓する方法」の冒頭で、次のように述べています。近年の廃業率から判断して、サプライヤー50社中1社は倒産する可能性があると。13号では、その可能性に着目して新規サプライヤー開拓の重要性のお話をしたわけです。

ここで、倒産に関する簡単な復習を行います。次の表を参照してください。

<図をクリックいただくと大きくすることもできます>

上記表の①~⑤までが典型的な倒産です。薄緑の部分である①~②は、事実関係の確認は急を要します。しかし、基本的に事業継続・再建型の処理です。弁護士が裁判所で行う手続きにより、今後の処理に関するスケジュールを提示するはずです。バイヤーは、処理形態を掌握して後は、提示されたスケジュールに基づき債権者集会に出席して、適切な情報収集に務めること。この処理スキームであれば、基本的にモノ・サービスの供給は継続されるはずです。故に、この薄緑の部分は、サプライヤー側の事業継続に必要な支援を短期的に実施することで、当面のモノ・サービスの確保を行うことができるわけです。

事業継続に必要な支援は、バイヤー企業側の行っている支払いの条件見直し、そしてサプライヤー側の材料確保の2点です。支払い条件では、その手段は従来の手形払いから、ファクタリング業者による金融サービスを採用した方法へ変わりつつあります。しかし、将来の一定の時期(満期)に一定金額を支払うという約束(支払約束)を記載する形式の約束手形で設定された満期までの期間は変更が無いのが通例です。この手形の満期までの期間の短縮が一つ目。

そして二つ目の材料の確保です。倒産となった時点で、日本国内での信用取引、いわゆる掛けでの取引はできなくなっています。従い、購入品すべてに現金での支払いが必要になっているはずです。支払い条件の将来の一定の時期の短縮の目的は、運転資金の確保による財務内容の健全化です。しかし、私自身が多く経験した事例をもってしても、材料の確保を行わずに済んだ例はありません。従い、材料を支給するのか、材料分の前払いを行うのかといった判断がバイヤーに課せられます。再建型法的整理手続きが開始された後であれば、一時的にサプライヤーの持つ債務は棚上げになっているはずです。支給や前払いによるバイヤー企業側による材料確保も然程大きなリスクではないはずです。従い、代替えサプライヤーの無い場合は、材料確保までバイヤー企業側で行う方が、円滑なモノ・サービスの供給が受けられる事になるわけです。

問題は、ピンク色の部分である③~⑤です。

この3つのケースは、バイヤーにとって厳しい事態です。何よりもまずモノ・サービスの供給が止まる可能性があります。そして実際にバイヤーに倒産状態という情報がもたらされたとき、既に供給不能となっているかもしれません。このような事態では、状況の掌握と同時に、代替えサプライヤーからの供給を早急に実現させなければなりません。対象のサプライヤーがバイヤー企業1社のみ顧客ということはあり得ません。従い、対象サプライヤーの置かれた業界や、地域では、代替えサプライヤーのリソースは一時的に奪い合いの様相を呈するはずです。

前号(20号)の最後に、倒産対応は事後対応に徹するべきであることを述べました。実際に③~⑤のような状況に遭遇してしまった場合には、事が明らかになった瞬間、直ちに行動を起こす必要があります。対象サプライヤーから購入しているモノ・サービスの重要度、購入額から、事後対応に投入するリソース(人員)を決定することが先決です。重要度と緊急度が高ければ、タスクフォースを組み、一刻も早い事態打開を試みることが必要です。

リソースを決定し、続いて行うアクション。これは、事前に危機管理対策として、具体的な方策と手順を設定しておく必要があります。ここで言うところの方策と手順は、サプライヤーの倒産対策として設定するものではありません。本有料マガジンの18号でも述べた、「サプライヤー数全体の2割の社数のサプライヤーで、取引額全体の8割を締めている」との構図から導かれた、サプライヤーの持つ性格によって対応策を見てゆきます。

まず取引を行っている社数全体の2割、購入額の8割をしめるサプライヤーについては、すべてについて具体的な代替えサプライヤーを設定します。社数全体の2割、購入額の8割という機銃に当てはまるサプライヤーにはすべてです。ここでは、具体的な会社名まで設定することに重要な意義が存在します。

実際にこの作業を突き詰めて行ってみると、最終的に具体的な代替えサプライヤーの名前を見いだせない製品も存在する可能性はあります。このようなケースも当然想定しなければなりません。今回の倒産対応とは内容を異にしますので、次回以降に触れることにします。

具体的な代替えサプライヤー名を見いだせたとします。ここで、一つの問いを行います。元々のサプライヤーと、代替えサプライヤーの違いは何でしょうか。具体的にどのような差で、これまでのモノ・サービスの振り分けをおこなっていたのでしょうか。

サプライヤーは、当然のことながら自社への発注は自社に発注し続けられるような策を講じているはずです。「自社に発注し続けられるような策」が、購入しているモノの機能・サービスの効能の根幹にあるのが、先に述べた代替えサプライヤーの具体的な名前を見いだせないケースに該当します。代替え先として具体的に名前が挙がったのであれば、その機能・効能の根幹に当たる部分においては、共通する部分を見いだしてはいないでしょうか。で、あればです。元々のサプライヤーと、代替えサプライヤーを分けている違いがあるはずです。そして、この違いを予め少なくしておくことが、真の代替えサプライヤーの設定に繋がるのです。

真の代替えサプライヤーの設定を阻む違いとは、とっても些細なものであるはずです。私の過去の経験では、取り付けボルトの径が1mm違っているとか、コネクターの形状であるとか、バイヤー企業側から提示した材料特性が、バイヤー企業側が顧客へ提供する製品性能には全く関係しない部分で、あるサプライヤーに有利に設定されていたというものです。これは、一度設定されてしまい、納入が開始されてしまうと、本来バイヤー企業側が求める価値とは異なる部分での悩ましいサプライヤー間の差別化になってしまうのです。一旦設定されてしまうと、その変更には多大な労力と時間を必要とします。唯一、短時間で解決する手段があります。支払金額に糸目をつけないことです。突如発生する倒産劇においては、なによりもまず継続的な供給確保が第一優先となります。しかし、だからといって事業損益への影響を無視して良い話にはなりません。

このような事態に見舞われないために、具体的な代替えサプライヤー名を挙げる、そして元々のサプライヤーとの違う部分を見いだす。こういった事前のバイヤーのアクションの積み重ねが、倒産が発生したときに大きな効果を生みます。実際には大きな出費を行わずに済むわけです。そして、こういった些細な差別化を抑止することが、サプライヤーマネジメント全体に、大きな好影響を及ぼしていくことを、これから述べてゆきます。

次回は、取引社数の8割、取引額の2割を締めるサプライヤーへのアクションです。

                               <次回へつづく>

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