ほんとうの調達・購買・資材理論(坂口孝則)

「工場見学の方法」

・工場の付加価値分析

前回からはじまった「工場見学の方法」について見ていこう(お忘れの方は、バックナンバーを見ていただきたい。無料期間中の方は、1ヶ月お待ちください)。

まずは前回のおさらいだ。このような図を表示しておいた。

<図をクリックいただくと大きくすることもできます>

工場に行ったときに、工程は複数分かれていることが普通だ。そのときに、工程と時間をまず調査するのである。

1.縦線に「時間」と。横線に「工程」を記載する
2.工場見学に行けば、きっと工場の担当者にいろいろ訊けるだろうから、工程数を尋ねて分解する(この場合は5工程)
3.それぞれの工程でどれくらいの時間がかかっているかを調査する

これであれば、新人バイヤーであっても可能だろう、という話をした。さらに、ここからいくつかのことに気づく。

1.各工程にかかっている時間は均一ではない
2.3工程目はもっとも時間がかかっている
3.4工程目は逆に、時間が短い。

当たり前のことだ。しかし、図にしてみると、改めて認識できる。では、ここから次の内容に移ってみよう。

前回、この工程分析をDBR(ドラムバッファーロープ)と述べた。この工程を、5人の子どもたちと見立ててほしい。

5人の子どもたちは、ロープを持ってハイキングをしている。ロープを持たずにハイキングしていれば、歩く速度の速い子どもが一番に到着するだろう。遅い子どもは取り残される。しかし、ロープを持っている以上は、同時にゴールせねばならない。これは生産にも通じるものがある。

ロープを持たせずにバラバラに歩かせておけば気づかない。しかしロープを持った子どもたちは同時にできるだけ速くゴールせねばならないのだ。

逆に言えば、上記の例でいえば、第3工程を速くしなければ、工程全体の生産性が上がることはない。

そこで、一つのことが明らかになる。

<図をクリックいただくと大きくすることもできます>

第3工程がボトルネック工程であり、ここが処理する製品数以上の付加価値を達成することはできないということである。

ここで工程の評価軸を導くことができる。たとえば、このような工程から生産される製品があったとしよう。

製品価格は10,000円であり、第3工程は10時間稼働している。そして生産される製品数は100個。このような仮定を立ててみよう。

そうすると、上記の数式をあてはめることができる。ボトルネック工程がキーになっているので、極端にいえば、ボトルネック工程以外を改善しても全体の生産性はあがらないということである。

考えてみればいい。各工程はロープを持った子どもたちなのである。歩くのが速い子どもの速度をよりあげたとしても、全体の速さは変わらない。歩く速度の遅い子どもを改善しなければならないのである。

この工程は、ボトルネック工程が生産する数量以上の製品をつくることはできない。そして、その付加価値は時間あたり100千円である。この工程は、1時間で100千円の価値を生み出すものなのである。

・工場の付加価値比較

さて、ここで一つの評価軸ができた。

工程の生産性を、時間あたりの金額で計算することができたので、これを比較することができるのである。

このような工場があったとする。「工場A」という表現にしているものの、もちろん、「サプライヤーA」という表現で置き換えていただいて構わない。すると、これまで製品価格でしか比較できなかったところに、新たな視点が加わることになる。

工場Cは製品単価が9,000円で一番安い。それは実力以上の低価格見積りを提示してきているのだろうか。それは違う。なぜなら、工場Cは他の工場と比べても付加価値は非常に高いからだ。

工場Bはどうだろう。製品価格は12,000円だ。しかも、工場の付加価値は108千円/時間と、工場Cに比べても高くない。これは、工場の実力もなく、それが製品の価格に反映されていると思うべきだろう。

ボトルネック工程に注目してみれば、そこが生産する以上の付加価値をつけることができないことがわかる。そして、その稼働時間から、工程の付加価値を計算できる。そして、その付加価値を他工場(他サプライヤー)と比較することによって、定量的な違いがわかるようになる

次回以降は、工程付加分析からつながる工場見学原論について述べていく。

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