ほんとうの調達・購買・資材理論(牧野直哉)
<7 利益を出すコストダウンと改善手法>
6.調達購買が主導するコスト削減 ~集中発注化
標準化が進めば、さまざまな局面で「集中化」によるコスト削減への取り組みへと発展が可能です。しかし、集中化にはさまざまな障害もあり、バイヤーが「集中」の根拠を明確にし、関連部門との協力体制を築き、実現に向け進みます。
「集中化」には、大きく二つの方向性があります。
一つ目は、必要以上に分散してしまった状態に対する集中化です。この場合は、なぜ必要以上に分散してしまったのか、まずその原因を明らかにします。前回の「標準化」でも述べましたが、購入実績のデータベースが整っていないために、同じ購入品であっても、担当者ごと、セクションごと、使用先ごとに異なる社内品番を採番してしまう例があります。こういった事態は、購入要求部門と共同して、購入実績データベースの構築といった、およそコスト削減活動とは一見思えない取り組みをおこないます。
こういった取り組みは、集中化による「恩恵」を、共同して作業する関連部門に理解してもらわなければ、なかなか実現されません。全く同じ購入品を、違う自社(バイヤー企業)品番で、購入時期が違ったために、サプライヤーも違っていたのでは、もっとも簡単で、比較的効果も期待できる量産効果を放棄しているようなものです。
二つ目は、既にある程度集中化が進んでいる状況を、より大きなメリットを求めて、集中化を推しすすめるケースです。具体的には、ある購入品カテゴリーを、サプライヤー二社に絞りこむケースが該当します。これは、自社(バイヤー企業)での分散状態が解消されない限り、実現できない取り組みです。しかし、より大きな経済的なメリットを求める場合は、こういった取り組みが有効です。
しかし、こういった経済的なメリットが大きな取り組みには、デメリットの存在も忘れてはなりません。発注するサプライヤーを減らした場合、継続して発注するサプライヤーには、引き続きコミュニケーションもあり、購入量の増加とのメリットを直接的に享受します。しかし、発注先から外されてしまったサプライヤーにとって、自社(バイヤー企業)への優先度が大きく減少します。発注量がゼロであれば、そもそも優先度との概念が消滅します。
こういった状態では、集中化を進めた結果で発注するサプライヤーとの間で、どのように良好な関係状態を維持するかが大きな課題となります。少なくとも自社(バイヤー企業)に対しては、独占状態、あるいはそれに近い状態ですね。そんな状態で、サプライヤーとの間に、適度な緊張感を保つのは、非常に困難です。何よりバイヤーが安心してはなりません。集中した状態とは、同時に他に頼るべきサプライヤーがいない状態です。もし、集中化したサプライヤーからの供給がとまってしまったらとのリスクに、どのように対処するのかを念頭に置いて、実現可能な答えを持ち続けます。
☆さまざまな「集中化」
ひと言で「集中化」といっても、さまざまな形態があります。次に述べる複数の集中化を実現させるためには、それぞれ異なる取り組みが必要です。実際に使用する購入品を絞りこむ「集中」から、調達・購買部門のサプライヤーとのコミュニケーションを統制して実現する「集中」までさまざまです。
いずれのケースでも共通しているのは、調達・購買部門が意志をもって「集中」させなければならないとの点です。自然に集中は実現しません。したがって、集中発注化には、どういった分野に対して実行するのか、対象の絞り込みと、具体的な集中化を実現させるプロセス管理が必要です。
(1)標準化を受け、部品を絞り込んで実現する「集中化」
①仕様をまとめて生産効率の向上を追求する場合
②使用する材料をまとめて、生産効率に加えて、材料のまとめ購入による価格メリットを追求する場合
(2)複数の事業所や工場を抱える場合は、購入窓口をひとつにする「集中化」。サプライヤーの営業窓口をひとつにまとめて、販売ルートあたりの取扱量を増やす「集中化」
(3)複数のサプライヤーが共通して使用する原材料を、自社(バイヤー企業)側で一括購入し、発注量に応じてサプライヤーへ支給する材料調達の「集中化」
(4)複数のサプライヤーへの発注を、サプライヤー数を減らし1社あたりの発注量を増やし実現する「集中化」
☆「集中化」による代償とのバランス
どんな集中化でも、実行する際に発生する「代償」が存在します。集中化に取り組む場合は、費用対効果を厳格かつ公正に判断して、全社的にメリットのある場合にのみおこないます。その際の注意点は、次の四点です。
(1)仕様や材料をまとめるためには、技術的な検討と、信頼性の検証
(2)購入窓口をひとつにするには、窓口と使用場所の違いによって離れた場所と確実なコミュニケーションによる購入条件の明確化
(3)原材料の一括購入とサプライヤーへの支給では、一括購入によるメリットの存在と、サプライヤーとの間で支給処理に発生する事務手続きや、実際の支給作業による手間とのトレードオフ
(4)サプライヤーを減らす場合は、減らして取引全体に影響を及ぼす可能性はないか。集中して発注がゼロになった製品の影響で、他の製品への値上げ等マイナス要因はないか。
これらデメリットの存在をあらかじめ検討して、本当に集中化のメリットがあるのかどうかを確認して取り組みを開始します。「集中化」とは、その言葉とは裏腹に、多方面に複雑な調整を強いられる取り組みです。長期的な視野によって、集中しやすい状況を徐々に整備する継続的な取り組みが必要です。
(つづく)