絶対オススメ書籍
*以前、某所で実施したトークイベントを文字起こしし掲載します。
牧野:次はお盆休み前のお薦め本ということです。私は、宮大工棟梁の西岡常一さんという方の「口伝の重み」という本です。西岡常一さんという方が、話されたことと、あと西岡常一棟梁の遺徳を語り継ぐ会というのが監修している本で、日経ビジネス人文庫というところから出ています。
坂口:何が書かれているんですか?
牧野:これは、奈良の法隆寺とか、東大寺とか、そういうところの修復や分解などを、ずっと子供の頃からやっていた西岡常一さんという方が、ずっと実際、自分のおじいさんから語り継がれたことを語っています。口伝、いわば口頭で自分の弟子というか、宮大工を継ぐ人たちに語り継いでる話なんです。日本の法隆寺とかそういったものが、木造建築でも1000年以上ずっと経ってきているわけなんですね。なぜ1000年以上、木造建築が維持することができたのかということをずっと書いてる本です。ちなみに今最新の法隆寺とか、ああいったところに使われている木ってどこの木か知っています?
坂口:日本の中にある建造物の木っていうことですか?
牧野:日本の奈良時代に建てられた法隆寺とかの木。最新の修復では、実は日本国内に使える木がなかったんですね。
坂口:それは、例えば強度というか、硬度だったりとかですか?
牧野:いえ。というか、まず、基本的に1000年もつ建物を作るための木っていうのは、樹齢1000年以上じゃないと駄目なんです。
坂口:はあ、なるほど。
牧野:となると、樹齢1000年以上の木っていうのは、日本にはほぼなくて、今最新の修理で使ってる木っていうのは、台湾からなんです。木を選ぶところから。木を選ぶときの様々な西岡さんが語っている言葉というのが、いわゆる人材育成とか、そういったところに通じるところがあります。ある程度年齢を重ねたベテラン社員の方には、心響くものがあります。
坂口:なるほど。昔コラムニストの小田嶋隆さんが、木材っていう言葉と人材っていう言葉は似ているっていうことで、年輪を経れば経るほど深みのある人間にもなり、かつ曲がるように育てられれば、曲がるようになり、人を選ぶっていうところも木材を選ぶっていうところに近いってことをおっしゃっていたんですよ。木を見るというのは、もしかすると最後に残る、ものを見る目の伝承になるんですかね。
牧野:そうですね。西岡さんって面白くて、普通、例えば宮大工っていえば、大工さんなんですよね。というと、大工さんのところへ弟子入りをして、最初は雑用から、いじめられながら、技術を盗んでってなると思うじゃないですか。この人は今でいうと大学みたいなところへ行ってるんですけど、大学の何学部に行ったと思いますか?
坂口:何学部? 理系ですか?
牧野:うーん、文系ではないですね。農学部なんです。
坂口:農学部?
牧野:なぜか。それはやっぱり自分に技術を教えてくれたおじいさんの指示で農学部に行ってるんです。それはなぜかというと、木を育てるのは土でしょう。土を学ぶためには農学部だと。ちょうどこの西岡さんという方が学校を出て、社会に出た頃っていうのは、日本は太平洋戦争の真っただ中だったんです。この人は最初、農業をされてましたね。それに宮大工っていうのは、常日頃仕事がないものなんですよ。
坂口:あっ、そうなんですか?
牧野:そうなんです。例えば2012年の秋は、薬師寺の五重の塔というのを修復していましたけれど、そういう大きなプロジェクトがないと仕事がないんですよね。だから、仕事がない時期は農業をやってるんです。
坂口:フリーターみたいなんですね。感動する本なんですか。
牧野:相当な確率で感動しますよ。ほんとうに心を揺さぶられるます。
坂口:では、坂口側のお薦め本なんですけども、これなんですよ。金森重樹さん、有名な行政書士の先生ですが、金森重樹さんがお書きになった「プロ法律家のビジネス成功術」です。PHPビジネス新書から出てまして820円税別です。これをお聞きの方で「プロ法律家」っていうのは、なかなかいらっしゃらないんじゃないかと思うんですね。だけど、これは1人の男として…女性でもいいですけども、1人の人間として仕事をやる、その上でお金を稼ぐ、そして生きていくっていうことのエッセンスが詰まってる本なんですね。
なので、この「プロ法律家のビジネス成功術」っていうタイトルなんですが、このプロ法律家のっていうところは、省略してもいいぐらいの、ビジネス成功術として読むことができるような本なんですよ。これは先ほども言ったんですけど、この有名な行政書士としてどのようにお金を稼いでいるか。その1つ1つが常識を逸するような刺激的な言葉ばっかりなんですよ。
まず最初に、「お金を捨てる勇気を持とう」ということですね。この本文の中では、「お金を燃やす勇気を持て」と書いてるんですよ。要するにお金を燃やして、例えば自分が宣伝広告を打つだとか、あるいは、例えば、何か自分なりに土地を買ってとか、あるいはビジネスの人を雇ってドンドン業務というか事業を拡大しないといけないと。そのためにはまずお金を捨てる勇気を持たないといけないと。
サラリーマンっていうのは、毎月同じ金額が振り込まれてくるっていうような感覚で、どうしてもお金を稼いで、かつ利益を残すっていう意識っていうのは、欠落しがちなんですよね。でも、サラリーマンの歴史っていうのは、まだ今のところ200年ちょっとしかないわけで、それまではずっと全員が自営業者だったわけですね。ほんとに個人としてどうやって生きればいいのかということを考えるのって、起業家とか個人事業主の人たちばっかりだと思うんですけど、サラリーマンもほんとうは考えるべきなんです。サラリーマンも自分自身の価値を最大化して、市場に売ることによってお金を稼がないとあかんというところは、共通しているわけですね。そこで、この金森さんの本はすごく面白い。
2番目の章が「資格だけで食えるほど甘くない」っていう章。若い方と特に話して「資格を取れば、すべてこのあとの人生がうまくいくんじゃないか」とかね。そんなの有り得ないわけですよね。実際、資格を取るだけではなくて、その資格をいかにちゃんと市場でお金に変えていくかということが、ずっと書かれているんですね。その中の本の内容で、もちろん、すべてを引用することはできませんけども、こんなことを書いていらっしゃいますね。大意を述べます。「例えば10万円をかけて、10万円の利益になったとしようと。通常の人であれば、これはほとんど役に立たない支出だったんじゃないかとか、あるいは10万円が宣伝広告費だとしたら、全然意味がなかったじゃないかとか思いがちだ、と。あるいは100万円をかけて、2%の反応しかなかった場合は、全然やる意味がないんじゃないかと思いがちだ、と。しかし、金森さんは、そうじゃないといいます。例えば、10万円かけて宣伝広告を打ったとして、直近では10万円にしかならなかったとしても、リピートで1,000円の仕事をくれれば、10万1,000円の売上になります。とすれば、何もしないより1,000円儲かるのが明確なわけですよね。繰り返しますが、明確なわけです。率ではなくて、ちゃんとビジネスの額というものに注目をすればいい。それを量産化していけば、ドンドン利益というものは加算されるわけですよね。
どうしても調達・購買とか、原価の仕事をやっていると、あんまりピンとこない。でも、金森さんは、借金をしてでも、あるいはお金を捨ててでも、ビジネスを拡大しろ、と。もしかしたら率は低いかもしれないけれども、トータル金額としては、すごい大きなビジネスができると書かれているんですよ。私も「利益は率より額をとれ」というふうな本を書いたこともあるんですけども、ほんとに非常識な考え方。非常識なんだけど、理屈はすべて合っている。金森さんの一連の著作というのは、すごく参考になると思ってるのですけど、特に今回の「プロ法律家のビジネス成功術」っていうのは、今までの金森さんの本の集大成と言っていいぐらいのすべてのエッセンスが詰まっています。もうほんとに刺激的な本だなと思いまして、紹介しました。
牧野:お金を燃やすっていうのは先行投資なんですよね?
坂口:そうです。先行投資。そのリターンというものを短絡的に考えるなと。中長期的に考えていて回収せよと。ほとんどの人は、目の前のことしか考えていないので、チマチマした投資くらいしかできなくて、中長期的な大きな儲けを逸していると。借金ができなければ、生きる資格がないみたいなことを書かれているんですけども、借金したとしても、それを少しでも上回るリターンがあるとしたら、それに賭ける人生のほうが魅力的じゃないかというふうに書かれているんですね。是非、面白いので、お読みいただければと思いますので、よろしくお願いします。
(了)