ほんとうの調達・購買・資材理論(牧野直哉)

●値上げ対応 5 ~サプライヤーの本気度測定法

サプライヤーからの「文書」での値上げ意志表示への対処法

前回の最後に、サプライヤーの担当者が値上げを実現させたいときにバイヤー企業に提示する文面のサンプルを掲載したホームページをご紹介しました。以下は、私が実際にサプライヤーから受領した値上げ申し入れ文書をタイプアップしたものです。

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お客様各位

平成○○年○○月○○日

 

商品価格改定についてのご案内

皆様におかれましてはますますご清祥のこととお慶び申し上げます。平素は、弊社の製品をご愛顧頂きましてまことに有難うございます。

さて、マスコミ報道等でご存じのとおり、今月に入り銅の市況は○○円を超え、更なる高値の可能性を含んで推移しています。当社におきましてもこれまで諸経費の削減をはじめ企業努力により価格の維持に努力してまいりましたが、長期にわたる原料の値上げを吸収しきれず、経営を圧迫する事態となっております。

つきましては、まことに遺憾ではございますが、下記の通り商品価格を改定させていただくことになりました。何卒ご理解を賜りますようお願い申し上げます。

1. 対象商品および価格
商品名    旧価格     新価格(一律10%)
(1)低圧○○ □□□円/個      □□□円/個
(2)高圧○○ □,□□□円/個 □,□□□円/個
(3)超大物○○ □,□□□円/個 □,□□□円/個
2. 価格改定の実施時期
平成○○年○○月○○日○○時受注分より(別途ご相談)

 

以上

 

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典型的なサプライヤーから受領する値上げ申し入れの文章のサンプルです。実は、これなどまだ良い方です。酷い(私がそう感じる)ものには、価格変更日と、新単価しか記載していない文章も多いです。しかし、バイヤー企業に大きなマイナスのインパクトを生む値上げにも関わらず、値上げに際してサプライヤーからもたらされる情報は、上記の例が一般的です。

さて、納得できる、できないは別にして、このような文章をもらった場合、バイヤーとしてどのように判断し、対処すべきでしょうか。

まず「判断」です。

前回は、値上げの可能性を口頭で匂わすサプライヤーの営業パーソンに対し、バイヤーとして口頭では「ありえない」といった言葉を返し、値上げを受け入れる雰囲気を一切作らないこと。そして、もし本気で値上げをするのなら、文書で正式に申し入れをおこなう旨を、営業パーソンへ伝えるとお話しました。その上での、内容は別にしておこなわれた文書の提示です。バイヤーとして、サプライヤーはかなり本気度が高いと判断します。したがって、バイヤーとしても本気になって、真剣に真摯に対応しなければなりません。

続いて対処です。

受領した文書で、値上げ要求よる影響額が明確になりました。次に、バイヤー企業社内の関係者に、受領した値上げ要請の文書から読み取れる値上げ可能性の影響額を算出して周知します。これは調達購買部門にとって、サプライヤーを担当するバイヤーにとって、とても勇気が必要な行動です。しかし、行なうべき理由があるのです。

サプライヤーでも、調達購買部門だけでなく、社内の様々な部門と日常的に連絡を取り合っています。その各部門とのコミュニケーションを利用します。社内関連部門にも、値上げを申し入れているサプライヤーとの認識を持たせます。他部門には、調達購買部門として値上げの抑制には全力を尽くすこと。値上げ抑制に協力をして欲しい旨を伝えるのです。調達購買部門だけでなく、他部門との会話の中でも、値上げが難しい状況を明言させ、値上げを許容する空気の醸成を防ぐのです。

続いて、文書を持ってきたサプライヤーへの対処です。

このテーマでは何度かお話していますが、この段階まで到達したサプライヤーには、バイヤーとしても全力かつ積極的に対処します。回答をむやみに遅らせる、無視するといった対応は避けます。そのような後ろ向きな根拠のない強気の対応は、逆に値上げのサプライヤー要求の満額実現への近道です。

調達購買部門として、担当バイヤーとして対処の姿勢は、依頼したとおりに文書を提示してくれたことへの感謝です。内容は別にしても、バイヤーの要求通りの動きをおこなったことへの労いをしなければなりません。そして、こう付け加えます。

「この文章の内容では、値上げの実現は難しい」

ここで、90号でも述べた、値上げに必要な5つのポイントが、すべて揃わないと、値上げの妥当性を確認できない旨を伝えます。バイヤー企業としての明確な意志を示すために、次の様な文書を用いて、文書で回答します。

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○○○社(サプライヤー名)

 

未来調達研究所株式会社
サプライチェーングループ
牧野直哉

 

件名:値上げご要求の件

毎度お世話様です。
御社より○○月○○日付文書にてご依頼いただきました、御社ご購入の原材料費の変動を根拠とした購入価格値上げのご要求につきまして、今後の対応を円滑に進めるため、下記の通りご依頼申し上げます。下記の依頼内容は、御社のご意向を実現させるためにも必要な対応です。ご多忙中恐縮ですが、まず下記内容へのご回答期日をお知らせいただきます様、お願い申し上げます。

1. 弊社の基本的なスタンスとお願い
原材料費の変動による御社損益悪化によって弊社への円滑な納入に及ぼす影響は、御社と共同して回避をお約束致します。したがって、購入材料費変動によって悪化した御社損益の改善にも最大限のご協力を致します。具体的な対応策を弊社でも検討致しますので、下記2の各項目について、ご回答をお願いします。
2. 依頼事項
(1) 対象品目
具体的な弊社への供給品目、弊社品番でご回答願います。
(2) 値上げ幅
ご希望の値上げ金額を、アイテム毎にご回答願います。
(3) 値上げ理由
値上げの根拠となる、御社コスト要素について、具体的にお答え願います。
(4) 値上げ適用時期
ご希望の値上げ価格の適用時期について、ご回答願います。
(5) 値上げ率/幅/時期に関する具体的な根拠
上記(3)(4)の根拠となる公的なデータ(市況等)をご提示願います。
3. 今後の進め方
上記5項目は、弊社でも御社と同時並行的に調査/検証を行ないます。共同して、御社御供給内容の妥当性を弊社内に展開し、弊社内説得を行ないますので、引き続きご協力をお願い致します。

 

以上

 

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上記文書の提示に対して、サプライヤーの反応を見ます。

<つづく>

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