バイヤー出張論(牧野直哉)

2.移動手段の選択
サプライヤを訪問する場合、さまざまな移動手段を活用しなければなりません。「移動手段を調達する」と考えれば、自社の立地に合わせて、最適な移動手段を採用し、調達・購買部門は率先して、実際の出張に活用しなければなりません。多くの企業で出張旅費の管理は総務・人事部門の管轄になっています。しかし、外部への費用支出ですから調達・購買部門で最適な移動手段を計画し、総務・人事部門へ提案します。サプライヤである運送事業者との価格交渉は困難がともないますが、料金による、最適な移動手段を社内へ向け提案します。

①支出状況の調査
まず、過去にどこへ何回くらい出張しているか、実績を入手します。これまでの支出額とその内容がわからなければ、コスト削減活動がスタートできません。重要なのは、行き先と支出した金額です。まず、調達・購買部門でデータを収集し、多頻度の出張先への標準的な移動手段を設定する取り組みを開始します。

調達・購買部門が、こういった取り組みをおこなうのは、大きな意議があります。それは、出張の移動手段はバイヤーが「ユーザー」である点です。総務・人事部門でも出張する機会はあるでしょう。しかしその頻度は、営業部門や調達・購買部門よりも少ないはずです。出張に行かない部門が主導して、移動に必要な交通費の削減をおこなうと、ユーザーの都合をまったく考慮しない手段が選択されてしまいます。

例えば、海外出張の航空便の選択を考えます。以前の勤務先で、ある地域に使用する航空会社が、総務・人事部門によって指定されました。「ある地域」では自動小銃を携えた兵士が空港の安全を守っていました。指定した航空会社の便は、すべて夜10時以降に現地到着し、頻繁に遅れが発生していました。

「ある地域」への出張者の常識は、現地に昼間に到着する便です。頻繁に現地入りする出張者も、現地に夜遅く到着する便は避けていました。総務・人事部門では、到着便の時間が、出張者の身の安全につながると想定していなかったでしょう。まったく悪気なく航空会社から提示された金額のみで判断をしてしまったのです。ユーザーであればしない選択を、現実を知らない担当者がおこなうのは避けなければなりません。この事例は、特に出張者の身の安全と密接に関係します。移動手段は、移動中と移動後の安全も、重要な要素になります。

②交渉可能性の見極め
支出状況が判明したら、支出先へ交渉可能性を見極めます。もっとも交渉可能性の高い移動手段は航空機、それも海外へのフライトです。複数の旅行会社・代理店がある場合は、各社に頻度の高い目的地への航空運賃を照会します。

目的地に運行している航空会社が1社の場合は、各社同じ料金が提示されるかもしれませんし、交渉の可能性も少なくなります。その場合でも、各社から提示される条件をチェックします。複数の航空会社が就航している地域は、旅行会社・代理店の得手・不得手が、価格に反映される場合があります。これは、航空会社と旅行会社の関係性によって、価格に違いが生まれます。自社に有利な条件が提示されたら、出張経験者にヒアリングをおこなった上で、実務面で問題ないと判断されれば、調達・購買部門が選定した標準的な移動手段として社内へ周知します。

他の移動手段、電車、国内航空にしても、なかなか運賃の交渉は実現しません。その場合は、最適な料金プランの提示をおこないます。電車の近距離の移動なら、在来線と新幹線なら回数券を会社全体で活用して、運賃支出の10%削減を目指します。

③頻出訪問先への移動手段提案
社員の出張旅費の支出状況を確認すると、多様な出張先がある半面、同じ出張先に何度も出張している場合も見うけられます。そういった場合は、次のポイントに沿って、社内に対し移動手段の提案をおこないます。

(1)第一段階:選択する方法の提案
航空機を使用する場合、同じ行き先であっても、予約のタイミングによって支出額は大きく異なります。東京から大阪に移動する場合、事前予約料金まで含めると、2万円台後半から、1万円まで、かなり大きな開きがあります。事前に予定できる出張ばかりではありませんが、直前まで予約可能な料金でも1万円以上の差があります。費用支出管理の観点では、できる限り安い料金でチケットを購入すべきです。一方、安さを追求するあまり、出張先での業務に支障を来す事態は避けなければなりません。

何度も同じ場所に同じ人が出張している場合、どんなチケットを購入したら良いのか、出張者がノウハウをもっています。そういったノウハウを社員共通の財産として共有化します。また、航空機のような、同じ路線でもさまざまな料金形態がある場合、出張日から逆算して何日前だったらこの料金、変更の可能性が高い場合は、この料金といった、選択の具体的な方法を提示します。また、料金によっては、航空会社の会員登録が必要な場合もあります。あからじめ会員登録をうながす告知もおこないます。

(2)第二段階:移動手段の提案
東京から大阪への移動は、新幹線と飛行機が競合します。また、JRと私鉄が競合する場合もあるでしょう。出張の出発地は、いつも会社とは限らず、自宅から直接出張先へ向かうケースも想定します。その上で「推奨する移動方法」を、コストとともに社内に公開します。自宅の場所は、従業員それぞれによって異なりますし、移動手段の好き嫌いがあります。強制をともなう内容だと、他の社員からの抵抗も激しくなるので、あくまでも「提案」です。

(3)第三段階:移動手段の標準化
高頻度の出張先への移動方法を、社内規定で決めてしまいます。少なくとも2つの方法を社内に公開します。重要な点は、設定した移動方法を決定するタイミングです。状況によっては、一刻も早く現地到着が最優先される事態も想定します。一方で、これまで野放しに近かった状況からすれば、堅苦しく感じる社員もいるでしょう。こういった取り組みの目的は、外部支出の管理です。いきなり厳格なルールを設けるよりも、ステップを踏みながら、社員の出張旅費に対する意識変革をうながす取り組みにつなげます。

(つづく)

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