調達・購買担当者の意識改革~パート15「新規サプライヤ企業情報で押さえるポイント」(坂口孝則)

・新規サプライヤについて何を訊けばいいのか

解説:これからの調達・購買部門は、既存サプライヤのなかで優れたところに集約すると同時に、新規サプライヤ発掘によって「血」を入れ替える必要もあります。既存だけでは新たな情報が入らず、またコストも硬直化する可能性があるからです。では、取引に足るサプライヤかどうかを判断する際に欠かしてはいけないポイントはなんでしょうか。新規サプライヤには、ノックダウンファクターを訊く必要があります。ノックダウンファクターとは、「自社と取引をするに最低限満たさなければならない条件」です。ノックダウンファクターは業種や品種によっても異なりますので、一概に断言することはできません。たとえば、公的資格(ISO等)取得の有無でしたり、あるいは、グローバル対応などの条件です。これらをしっかりと満たすことが前提となります。ノックダウンファクターを訊かなければ、その後にトラブルが起きます。

意識改革のために:調達プロセスにRFIがあります。このRFIとは「Request for Information」の略でサプライヤ企業情報提供依頼を指します。ざくっといえば、そのサプライヤがどんなところかを質問するわけですね。そのとき、何を訊けばいいのでしょうか。

まずはフォーマットを用意しましたので、ご覧ください。

http://www.future-procurement.com/RFIformat.pdf

ここでは、企業情報として必要な「企業基本情報」「海外・系列・関係会社」「経営」「製品」「環境・認証」「発注・支払い」にわけています。これで完全かは調達・購買側のニーズにもよります。不足分はどんどん追加してください。

「企業基本情報」
1 貴社名
2 住所
3 代表者名
4 事業開始年度
5 資本金
6 主要取引先
7 従業員数

→資本金は下請法的に必要です。また、主要取引先は所属業界を知るために必須情報となります。また、複数拠点を持つ調達・購買企業の場合は、納入可否を知るためにも住所を訊きます。まあ、当たり前の情報ですね。

「海外・系列・関係会社」
8 弊社との取引実績
9 社史(会社経歴)
10 海外営業・生産拠点(国・地域・生産品目・開始年度等を記載)
11 親会社
12 子会社

→事業部制の調達・購買企業の場合、違う事業部が付き合っていることを知らないケースがあります。自社との取引実績を訊き、実績があれば、その事業部門に評判を訊くことも必要です。取引前はすべてが想像ですが、実際に付き合っている事業部の声はリアルです。また、海外への納入可否を訊きます。

「経営」
13 親会社・子会社の弊社との取引実績
14 過去3年分の財務諸表(計算書類)
15 過去3年分の連結財務諸表(計算書類)

→また、過去3年分の財務諸表(計算書類)を訊きましょう。何度かご説明したとおり、一つの目安は、2年連続赤字になっていないか、を確認することです。2年連続とは企業活動の不安定さを示しています。銀行からの融資も受けにくくなります。

「製品」
16 主な生産・取り扱い製品

「環境・認証」
17 グリーン調達対応
18 CSR調達対応
19 ISO9001(品質)
20 ISO14001(環境)
21 ISO27001(情報セキュリティ)

→ここで必要になるのが、ノックダウンファクターです。ノックダウンファクターとは「自社と取引をするに最低限満たさなければならない条件」でした。この「環境・認証」だけが関わるわけではありませんが、とくに認証資格などで特定資格が必須の際は、このタイミングでしっかりと聞いておきましょう。これを把握せずにその後の取引を進めることができません。

最近ではRoHSなどにくわえ、ドッドフランク法対応など、さまざまに広がっています。

「発注・支払い」
22 弊社受発注システム導入対応可否
23 納入製品支払い条件
24 開発費(試作品)支払い条件

→大手企業の場合はあまり問題となりません。ただ、サプライヤとバイヤー企業側で納入製品の支払い条件などが乖離している場合は、見積り価格アップも考えられますので、ご注意ください。また、開発費をどう支払うか(支払ってほしいか)は業種によっては問題になりがちです。問題を先送りにせず、この企業情報提供依頼時に聞いておきましょう。

 ・新規サプライヤは価格だけではない

新規サプライヤを探すとき、どうしても調達・購買部員は価格だけで走りがちです。それは悪いことではありません。なんの活動もしない調達・購買部員よりも、価格だけであってもサプライヤを探して社内展開しようとする試みは認めるべきです。

ただ、その思いが強すぎると、「訊くべき内容」すらも忘れてしまいがちです。取引前にQCDレベルすべてを把握はできません。また、見積りや提案書すら入手する以前の段階ですから、なおいっそう、サプライヤについて全貌を理解できません。しかし、価格だけで次のステップに行くのもマズい。そこで、繰り返し、ノックダウンファクターの概念が重要になります。

私はサンプルを提示したものの、これで終わりではありません。各社ごとに項目を追加してください。そして、時代経過とともに、新規サプライヤにあらかじめ訊くべき内容が増えてくるはずです(増えてこなければいけません)。これまでのトラブルや、その後の問題から省みて、初期段階から明らかにすべき内容がたくさん出てくるはずです。それらを続々と増強してほしいのです。

RFIは進化するのです。そして、その進化とは、調達・購買部門の進化でもあります。決まりきったことを訊くのはラクですが、それでは仕事になんら変化を起こせていません。

そして最後に。このような話をすると、つい私も「ダメなサプライヤをこの時点でふるい落とすためのものだ」とRFIを語りがちです。しかし、本来は、優れたサプライヤを、優れていると理解するためのツールでもあります。攻めのRFIとは、サプライヤが足りない箇所をあぶりだすだけではなく、既存サプライヤ群よりも、優れた側面を明らかにするツールでもあります。このことも意識して、自社に必要なサプライヤを発掘するためのRFIフォーマットづくりを実践してください。

<了>

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