CSR調達の実践(牧野直哉)

今号からCSR調達の実践について述べます。CSR/CSR調達は、事業活動をおこなっている業界によって、必要性認識の温度差が大きく異なっています。読者の皆様の多くは、CSR調達の実践は、喫緊の課題ではなく、それよりもコスト削減やサプライチェーンにまつわるリスクヘッジ、現在進行形でいえば円安への対処といったテーマの優先度が高いかもしれません。しかし、そう遠くない将来に日本でも優先順位がアップする日が到来します。問題は、到来する日と、どのような形で到来するかです。

ここで、以下の○○○の部分を、ご勤務先の名前に読み替え、読んでみてください。今、実際に日本のどこの企業にも、この○○○に名前が入ってしまうリスクは高くなっています。

事例1:○○○のサプライヤーによる人権侵害

○○○のサプライヤーである日系のマレーシア企業A社に勤務しているミャンマー人の労働者が、給与が不当に差し引かれているとA社に申したてたが、そのようなことをいうと本国に送り返すとA社から脅迫された。ミャンマー人労働者の窮状を見兼ねたマレーシアの人権活動家がA社に事実確認を求めるも回答が無く、ミャンマー人労働者の訴えを自らのブログで公表した。

指摘を受けたA社は「人材派遣会社から派遣を受けているため自社には責任がない」とブログを書いた人権活動家を名誉毀損で訴えた。現地ではA社と取引のある○○○に対しても「A社の訴訟を取り下げさせろ」との抗議活動が巻き起こり、○○○に抗議のメールが数百と届き、香港では抗議団が○○○社の事業所に押し掛けている事態が発生している。

これは、ある企業が直面した事件です。この事件によって、この企業では、広範囲におよぶ網羅性を兼ねそなえたCSR指針を打ちだすに到っています。事例をお読みいただくとご理解いただけますが、○○○社はA社からなんらかの購入をしています。ミャンマー人労働者と雇用関係を結んでいるのは、給与の不当な差引きをおこなったとされたA社です。雇用関係の当事者間で発生している紛争を報じる際に、枕詞的にあるネームバリューの大きな企業の名前が登場した事例です。

実際に○○○に入る可能性のある企業は、大手企業であったり、ネームバリューがあったりします。問題は、○○○に名前が入ってしまう可能性が、具体的に特定できない点です。具体的に特定できないとは、どんな企業であっても、起こる可能性があると判断しなければなりません。そして、これから日本企業に固有の問題を述べます。

先日、このようなCMが問題になりました。

事例2:ルミネのCM
https://www.youtube.com/watch?v=1HFadM1NVKw

このCMの内容は、グローバル基準で考えるとアウトです。企業側に反論の余地はありません。上記に述べた事例1では、労働者の基本的人権を侵す点が問題でした。上記に示した事例2:ルミネのCMは、「需用」との言葉を使ったセクハラです。そういった意図はなかったでしょう。だからこそCMで流れたのです。このCMが放送されてしまった判断、これは日本企業、そして日本人の一般的な意識と、グローバル企業、そして欧米人の意識の違いを象徴しているのです。

現在の日本企業は「意識の違い」に助けられている側面もあります。例えば、これから述べていく内容では、いくつものCSR調達に関連した実例を挙げます。多くの事例が、日本のマスコミでは報道されません。欧米メディアからの引用になります。日本のマスコミではニュースバリューがないと判断されています。基本的人権やセクハラへの関心が低いのです。

こんな想定をしてみます。事例1や事例2と同様な事件が発生し、欧米のマスコミが大きく報道した場合です。そのタイミングや度合によっては、日本のマスコミも追従します。ある企業が、メディアスクラムによって、発生した事件の大きさとは関係なく、大きな損害を被る事態へと発展します。ブランドイメージもおおきく失われるでしょう。こういった事例は、CSR調達への取り組みが進んでいる業界でなく、これまでに積極的に取り組んでこなかった業界、あるいは企業で起こります。

現在の調達購買業務の中に、CSR調達のエッセンスを取りこめば、顕在化するリスクが抑制できます。まずおこなうべきは、いわゆるCSR調達を、グローバルレベルの考え方での理解です。いまや、海外のリソースを活用する企業はとても多いはずです。で、あるならば、CSR調達を理解する必要性も、多くの日本企業のニーズであるべきなのです。

(つづく)

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