一読即決「戦略的サプライチェーンマネジメント」「人工知能は人間を超えるか」「融けるデザイン」(坂口孝則)

かつて物流会社は、急ぎ便も通常便も、近くの配達所までは一緒に持っていった。急ぎ便はそのまま送り先に運ばれ、通常便は配達所にしばらく置かれていた。急ぎ便の優位性は”作られて”いた。

しかしいまでは当日配送や翌日配送が当たり前。もっと早い配送を各社は志向している。全体の貨物量が減るなかで、小売業・サービス業の果てし無き付加価値構築競争がこのところ物流やサプライチェーンの優位性を競うものになってきた。かつてモノを右から左に流すだけだった当領域はいまや競争力の源泉とすらなっている。

アパレル業界もおなじだ。たとえばZARAは商品の半分を近場のスペインやポルトガルなどで生産し、消費者ニーズを形にし、すぐさま各店舗に供給できる体制をつくっている。『戦略的サプライチェーンマネジメント』は無数の企業例を引き合いにし、強いサプライチェーンをつくる航路を示す。

かつて米国の繊維会社は英国の他者工場に従業員を”派遣”し、企業機密を盗ませていた。また逆にロシアやドイツは米国から半導体設計情報を盗んでいた。サプライチェーンが拡大し関係企業が多くなるほどこのリスクは増す。昨今では企業間情報漏洩が騒がれている。本書の新しさサプライチェーン上の関係企業を「パートナー」として位置づけ、かつ同時に背徳行為を禁じる具体策を説明している点だ。同書は強いサプライチェーン構築手法ともに、リスク対策の観点からも多くの示唆をくれる。

さてこの物流はどこまで進化するのだろうか。たとえば米UPSは自社トラックの左折を禁止し効率化をはかった。対向車との接触を回避できるルートをデータ分析からつくりあげたのだ。『人工知能は人間を超えるか』は、人工知能の最前線と、将来に考えうる世界像を提示するきわめて刺激的な本だ。人工知能は、事象を観察するだけではなく、みずから試行を繰り返すことで周囲への影響も認識できるようになる。すると、グーグルなどが先導する自動運転も配送車に使われ、その配達所から先はドローンが担うかもしれない。

著者は「知識の転移」なる単語で説明しているが、人間の行動分析などの知見がサプライチェーンやマーケティングなどとリンクしていけば、街中で歩いているとき腕時計から発された健康データを自販機が察知しオススメのジュースを語りかけ、かつ温度や地域特性におうじて商品が自動補充される、といったことが実現するだろう。

そう「知識の転移」時代には、もはやハードやソフトをわけることが間違いなのだ。さきほどの例で自販機はハードだろうか。いや、情報を提供するソフトではないか。よく「モノからコトへ」という。しかし、モノが不要ではない。モノを通じてユーザーに体験させればいい。『融けるデザイン』で書かれるのは、ビジネスパーソンが知るべきこれからのサービス設計論だ。

著者は電子レンジの温め時間を利用し、その温め時間ぴったりのウェブ動画コンテンツを見られるハードなど、具体的なアイディアを形にしている。広告収入を得るだけではなく、そこから新たな食材を勧めたらどうだろう。モノかサービスを売る、その形式は変わらない。これからのサプライチェーンは、モノだけではなく、情報をいかに届けるのかとセットになるはずだ。

これからのビジネスを考えるうえでも必読の3冊だ。

<つづく> 

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