ほんとうの調達・購買・資材理論(坂口孝則)

・バイヤーのためのサプライヤー工場の「見える化」の話をしようパート4

前回まで、バイヤーが工場見学に行ったときに、いかに工程を見ればよいかについて話をした。お忘れの方はバックナンバーで確認してほしい(有料会員ではない方はしばしお待ちを!)。

工場・工程を視覚化することによって、改善の原資を創出する試みだった。視覚化がすべてではない。ただ、これまで漠然と眺めていた工程を視覚化することで多くの改善アイディアが浮かんでくるはずだ。

では、今回は次へと進もう。工場のラインを改善してもらうときに、どのような数値目標を立てればいいのだろうか。よくバイヤーが工場見学に行くと、「もうちょっと速く作業できませんか?」ということくらいがせいぜいで、具体的な目標値を与えることができなかった(あるいは目標値を設定する意識がなかった)。

思い出してほしい。工場の作業者は、サプライヤーにとっては固定費だ。固定費とは、生産量が減ろうが減らまいが、必ずかかってしまうコストのことだ。したがって、ある作業者の作業が1秒縮まったところで、その作業者がいる限り、サプライヤーの工場のコストは低減しない。それでは、見積り価格を下げてくれ、といっても難しい。

サプライヤーのコストが減る場合は、実際にそこで作業している作業者が一人減ることだ。逆にいえば、作業者が減らない改善活動は無意味だといえる。もちろん、作業効率をあげることにまったく意味がない、とはいわない。地道な改善は必要かもしれない。

ただ、バイヤーとしてコスト低減を目論むのであれば、やはり、実際にコスト効果のある改善活動をサプライヤーとともに推進したいものだ。

では、ここで場面設定をしよう。あなたがバイヤーとして、サプライヤーの工場の工程の前に立っている。目の前では、作業者たちがラインで生産を行なっている。このとき、あなたは何秒で作業してくれることを「目標値」として設定できるだろうか。

ここで覚えていただきたい単語がある。「タクトタイム」だ。

タクトタイムとは、シフトあたりの定時稼働時間を、シフトあたりの要求数量で割って求められる。

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たとえば、上の図のとおり、一シフトあたり500個の生産をこなさねばいけないとしよう。要するに、あなた(バイヤー)がサプライヤーに生産してほしい数は、一シフトあたり500個とするのだ。サプライヤーの一シフトが7.5時間だとすると、秒で表現すれば27,000秒。これが分子になる。さらに、それを500個で割ってみると、54秒を導くことができる。

ということは、このサプライヤーのラインは54秒に一つの製品を生産せねばならない。これがタクトタイムだ。

ここで、再びラインの前に立っているあなた(バイヤー)に戻ろう。

あなたが要求しているのは、一シフトあたり675個だとする。このサプライヤーは1シフトを同じく7.5時間稼働しているとしよう。すると、タクトタイムは、

タクトタイム=(7.5時間×60×60)÷675個=40秒

となる。あなたはサプライヤーにたいして、一つの製品あたり40秒で生産することを目標値として提示することができる。

現在のサプライヤー工程はこうなっている。

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プレス部品を生産しているとしよう。モノづくりの例だけれど、読者の調達品に応じて聞いていただければ幸いだ。ここでは、スタンピング(鉄板を形作る工程)、溶接、溶接、バリ取り(縁を平滑化する工程)、バリ取り、となっている。

ここで、タクトタイムは40秒だったことを思い出してほしい。すると赤い一本の線がひける。これより時間がかかっている工程は「かかりすぎ」だし、これ以下の工程は「バランスが悪い」ことになる。

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ここで改善の公式を提示しよう。

1.合体(同じ作業者がまとめて作業できること)できそうな工程を選択せよ
2.そして合体できそうな工程の作業秒数を合算し、現在の作業者数で割れ
3.その後、現在の作業者数マイナス1で割れ

1.はこの場合、スタンピング以外の工程だ(なぜスタンピングはまとめられないかというと……プレス部品の調達をやっている人ならわかってもらえるだろうが、説明は本題ではないので割愛する。まとめられない工程は除外すると思ってほしい)。そして、2.では、スタンピング以外の作業秒数を合算し、4(人)で割る。結果は33.25秒だ。

この33.25秒が何を意味するか。タクトタイムは40秒だったから、だいぶバランスが悪いということだ。

そこで、3.によって、作業者マイナス1の3(人)で割ってみよう。すると、44.33秒を導くことができる。今の作業を作業者マイナス一人でやろうと思えば、4.33.秒を改善すればよいことになる。これまで4人でやっていたところを、3人に減らすためには4.33秒で可能となる。

つまり、あなたは論理的に改善目標を導くことができたのだ。

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ここまでくると、あとは改善をやるだけだ。もしかすると可動率(べきどうりつ、と読む)の改善かもしれない。あるいは、作業改善によって4.33秒を縮めるのかもしれない。そして作業人員を削減することができるだろう。

これまで述べてきたことに、難しい生産管理や生産技法の知識はいらない。バイヤーに必要な、かつ簡単な手法を述べてきた。

繰り返す。作業者の秒数が減っただけではサプライヤーのコストは変わらない(作業者が固定費だから)。サプライヤーのコストを減らすには、作業者の数が実際に減らねばならない。

ちなみに、さもモノづくり系のバイヤーにしか役立たないように書いたが、これはモノづくり系のバイヤー以外にも応用がきく。そして、この話は、普遍的な話へとなだれこむ。

次回をお待ちあれ。

<つづく>

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