おすすめ本3冊~サプライチェーンと製造業の未来(坂口孝則)
先日、ミャンマーからタイに渡りアジアの熱気を数年ぶりに感じてきた。
現在、一番エネルギーと刺激に富むアジアは、希望と混沌を抱えながら、野心ある多くの新参企業を惹きつけている。2016年はAEC(ASEAN ECONOMIC COMMUNITY)が本格始動する。アセアンが統一に向けて動きはじめ、交通網においてはミャンマーがベトナムのダナンからつづく東西経済回廊の終着点となり、バンコクからの南部経済回廊もミャンマーのダウェーとつながろうとしている。
ミャンマーは中国・アジアとインド、アフリカを結ぶサプライチェーン上の拠点となりつつある。そしてタイはアジアの製造拠点となった。
『物流の視点からみたASEAN市場』は、経済発展を多くのデータから示し、同時に、インフラ等の未整備状況に関しても冷静に記述した一冊だ。著者がつぶさに現場を見て回り得た情報と、統計等を駆使したデータが交じり合い、アジアの高揚を伝えてくれる。ビジネス・物流観点から見た各国概況解説は、現時点でのすぐれた見取り図となっている。
さてアジアから新興企業がものづくりを勃興させるなか、日系企業はもはや強みと存在価値をなくしていくのだろうか。
おそらく、環境変化に追随できない企業にとっては悲劇が待ち、自らを変える覚悟をもった企業には好機になるだろう。『インダストリー4.0を超えるシミュレーション統合生産の衝撃』は旧来手法から脱皮できない日本製造業にむけて書かれた壮大な提言書だ。
著者はQCDの追求ではなく、市場価値追求を目指せ、と説く。こう書くと、他にもある主張のように感じるかもしれない。しかしこの著作の新しさは、そのタイトルのシミュレーション統合生産にある。日系企業は垂直統合モデルを採用し、すりあわせが得意なはずなのに、自企業内では各部門の業務は部分最適にしかなっていないのではないか。そこで、各部門の業務をデータ化し、さまざまな条件でシミュレーションすれば、価値ある製品を創出するために、各部門がどう活動すればいいかを業務設計できる。
具体的な手法論は本書に譲る。ただ、これは経験をコンピューティングによって刷新する可能性を秘めた手法であると言い添えておく。
さて、私はかつて「戦略とは何か」と考え続けていた。出した結論は「戦略とは値上げして売れる方法」だった。お客が買うのは、モノではなく価値だ。モノから得られる満足感や問題解決サービスを欲している。
『プロフィタブル・デザイン』は対顧客価値創造を第一とし、設計標準化や管理会計、ナレッジ集約にいたるまで、具体的な設計プロセスにまで踏み込んで改革を迫る衝撃の書である。なぜ各社とも部品標準化やプロジェクト損益管理に失敗するのか。それらを根源から問い、具体策を提示する。
読者はこの「なぜ」を幾度も問う姿勢こそが、かつての強いものづくりを支えた態度だと知るはずだ。
必読の三冊。
<了>