【連載】調達・購買の教科書~インフラ、非大量生産系(坂口孝則)

今回の連載は色塗りの箇所です。

<1.基礎>
売上高、工事原価、総利益(粗利益)
資材業務の役割
建設業法の基礎
技術者制度
下請契約の締結

<2.コスト分析>
調達・委託品分類とABC分析
取引先支出分析
注文件数とコスト削減寄与度分析
労務単価試算、適正経費試算
発注履歴使用の仕組みづくり

<3.コスト削減>
取引先検索、取引先調査
コスト削減施策
価格交渉
市中価格比較

VEの進め方

<4.取引先管理>
ベンダーリストの作成
施工品質評価、施工納期評価(取引先評価)、取引先利益率評価
優良表彰制度
協力会社の囲い込み、経営アンケートの作成
協力会社への上限設定

<5.仕組み・組織体制>
予算基準の明確化、コスト削減基準の設定
現業部門との連携
集中購買
業務時間分析
業務過多の調整

・コスト削減施策

価格交渉の材料となるのは、他の取引先から入手した相見積書だけではなく、市況単価も使えます。市況を知る方法は大きく二つあり、一つ目は公共工事などで公開されている数値を使うものです。二つ目は市販の書籍を使うものです。

1.建設工事積算基準:公共工事ではとくに労務単価などは細かく提示されています。「建設工事積算基準」という名称で検索してみましょう。所定労働時間8時間あたりの基本給相当金額が書かれています。もっとも、ここで書かれた単価は積算のために用いるものであり、下請契約の価格を拘束するものではありません。また、時間外や休日、そして深夜の労働については別途協議が必要です。

●例:とび工・22,000円

これにたいして、時間外、休日又は深夜の割増賃金を積算する際には、「所定内労働に対する賃金+割増賃金」と計算します。その割増賃金の係数は、労働時間帯によって細かく明示されています。

2.「建設物価」「積算資料」:次に部材について参考になるものとして、市販雑誌に、「建設物価」「積算資料」があります。細かな材料単価が書かれていますので参考になるでしょう。考え方としてはまず、次の通りです。

(1)この2冊を見て調達しようとしているものの、単価を見てみましょう。両雑誌で単価がずれている際には、一つの考え方として安価な方を採用します。なお、公表価格として掲示されている場合は、メーカーが販売希望価格として位置づけているものであり、実勢価格としては使えないため注意が必要です。

(2)この2冊に載っていない場合は「資材調査単価」という公共レポートが発行されていますので同じく検索してみましょう。この「資材調査単価」は、市場性のある資材を調査したものです。その基準としては1回の工事における概算調達価格が500万円以上とされています。調達価格は単価×数量ですからそれで500万円以上という基準を頭に入れて査定に役立ててください(あるいは概算単価が100万円以上とされています)。

(3) 「資材調査単価」にすら載っていない場合は「資材調査(臨時調査)」というものが出ているため参考になります。これは公共工事で特定の用途にのみ使用する部材を、文字通り、臨時に調べたものです。
(4)それでも記載されていない場合は見積書をベースとした査定になりますが、それでも雑誌等の市況価格に類似品がないかは確認する必要があるでしょう。

また、これは一つの考え方として、査定資料類の使い方をあげておきます。

●毎月更新:「建設物価」「積算資料」に掲載されている単価
●年に一度の更新:「資材調査単価」等に掲載されている単価

ちなみに、「建設物価」「積算資料」では、細かな地域にわかれています。厳密には、その地域ごとに見ていくべきでしょうが、さほど時間をかけるのも得策ではありません。さらに、地域がまたがる工事の場合もあります。そのような際には、安価な方を査定根拠として採用する、というシンプルなルールでじゅうぶんです。大口か小口か、という議論も、おなじく安価な大口を採用しましょう。

・まずは市況を調べること

ところで、多くの調達部門で驚かされるのが、「建設物価」や「積算資料」を確認するルールになっていながら、あるいは推奨されていながら、実際には確認している部員がほとんどいないことです。部門によっては、毎月、量雑誌を購入はしているものの、ずっとキャビネットに置かれているケースもあります。見てみると、折り線すらついておらず、ずっと放置されているとうかがわれます。

なぜでしょうか。訊いてみると、「めんどくさいから」だそうです。または「購入量があまりも少ないため、この掲載価格通りに調達できるはずはない」という思い込みによるものです。「では実際に調べましたか」と訊いてみると「調べたことがない」という答えです。

逆に、「たくさん調達しているため、この掲載価格よりも安く購入できている。だから調べる必要はない」ともいわれました。繰り返し、「では調べたことありますか」と訊いてみると「調べたことはない」といわれました。

価格とは常に相対的なものですから、自分が調達しているものの適切さを確認するためには、他の比較材料が必要です。もちろん、この2つの雑誌や公共レポートが正しいと言っているわけではありません。ただ、相見積書だけではなく、査定における比較材料を多くもってください。そして、実際に比較してみてください、という当然のことを申しているまでです。

(つづく)

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